この記事は以下の人に向けて書いています。
「みなし残業」の時間について、適正かどうかの基準が知りたい人
入社した会社のみなし残業時間が違法ではないかと思っている人
上限時間以外について、みなし残業制度が違法かどうかのポイントを知りたい人
はじめに
「月給24万円(月30時間分のみなし残業手当を含む)」
そんな求人情報を見たことはありませんか?
労働者が残業した場合、会社側はその時間に応じて残業代を支払う必要があります。
その一方で近年、あらかじめ一定の残業代を給与に含んでおくという、
みなし残業制(固定残業代制度) を採用する会社が増えてきました。
たとえば、みなし残業時間が20時間で3万円の支給と設定されている場合、実際の残業が20時間であろうと1時間であろうと関係なく、一律3万円が支給される形となります。
一見すると得なように思えますが、裏をかえせば、
「みなし残業の範囲であればどれだけ残業しても残業が出ない」 ということ。悪意を持った会社の場合、この制度を逆手にとって、無給で長時間の残業を強いるケースもあるようです。
みなし残業として定めてよい時間には、実は上限があります。 この基準ラインをベースに判断することで、就職活動時の会社選びや、自分の勤めている会社の環境を見直す参考となるでしょう。
この記事では、みなし残業時間の上限と、求人票などで見るべきポイント、上限時間以外で違法性を見極める方法などについて解説していきます。
1.みなし残業は1ヶ月最大45時間!それより長い場合は要注意
①残業時間の上限は基本的に月45時間。みなし残業も同様
基本的に残業時間は、「36協定」(サブロク協定)という協定により、
1ヶ月45時間まで と上限が定められています。
このルールはみなし残業の場合も同様。そのためたとえば、「50時間残業するとみなし、あらかじめ残業代を支払っておく」ということは基本的にできません。
45時間を超えるみなし残業が設定されていた場合は注意しましょう。
②「特別条項」という理由での延長も限りなくグレー
いっぽうで、36協定では
「特別条項」 と呼ばれる、残業時間の上限を一時的に延長し、45時間以上の残業を労働者に科すことができる制度もあります。
しかし、これは繁忙期や納期が迫ってきた場合の都合にあわせて設けられたものであるため、延長できるのは年6回(6ヶ月)のみ。
そのため、通年のみなし残業時間に45時間以上を設定するのは、そもそもが法的にはグレーゾーンなのです。
しかし、実は2018年11月現在、長時間残業の規制に法的拘束力は存在せず、取り締まることができません。そのため、45時間のみなし残業を設定する会社が野放しになっているという現状があります。
それを受け、政府は労働基準法を改正。
2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)より、長時間残業に制限が設けられることになりました。
定められたルールは以下の通りです。
残業時間の上限を1ヶ月45時間・1年360時間とする
特別条項を設けても、以下の基準を超えてならない
年720時間
複数月平均80時間
月100時間未満
36協定や新たな基準については、以下の記事で詳しく紹介しています。
③実際に長時間のみなし残業が違法とされた例
長時間のみなし残業が認められないと判断された例をご紹介します。
概要
飲食店店長の管理監督者性と固定残業代に関する判例。X社で店長として勤務していたAは、管理監督者の立場であることを理由に支払われていなかった時間外・休日・深夜割増賃金282万1547円と同額の付加金、遅延損害金の支払いを求めた。
結果
282万1547円+遅延損害金、277万8089円の付加金+遅延損害金の支払いが命じられた。
ポイント
この裁判のポイントは下記の2つです。
・管理監督者ではないと判断された
管理監督者とは、ある程度の地位と権限を持ち、業務の管理を行う人のことです。
管理監督者の場合、役職手当で残業代分が補填されることが多く、残業代の請求はできません。Aは、「店長」として勤務しており、一見すると管理監督者のように思えます。
実際、担当店舗に勤務するパート従業員の採用や給料・昇給等の権限や、担当店舗の金銭管理、食材の発注量の決定、店舗の什器備品の購入などの権限がありました。
しかし、与えられていた権限は担当店舗に関することのみであり、会社の経営に関する決定への関与ができなかったことや出退勤を会社側に管理されていたこと、Aの収入が他の一般労働者に比べて優遇されていたとはいえない ことなどから、管理監督者とは認められない と判断されました。
・管理職手当は固定残業代にあたらないと判断された
毎月10万円支給されている管理職手当(管理固定残業)は、みなし残業手当83時間相当とされていました。
しかし、36協定が定める月45時間という上限の2倍に近いみなし残業時間であった ことや「終業時間前後で発生するかもしれない時間外労働についての残業手当」とされていたことから、長時間労働を強いる可能性があることを示す根拠とはなるものの、公序良俗に違反しているといえる内容であり、Aと会社の間で長時間残業が合意されていたとはいえない とされました。
また、会社側はAの残業について「開店前や閉店後の残業は考えられない」とし、残業があったとするAの主張を否定していることから、そもそも月83時間の残業があるとは想定しづらく、管理職手当は時間外労働への手当ではなく、通常の賃金と考えるべきだ と判断されました。
2.求人票から見抜け!みなし残業から怪しい会社を見極めるポイント3つ
さて、みなし残業制度を導入している会社は、求人票に必ずそのことを記載しています。
求人票への記載ルールは明確化されており、少しでも多くの労働者に応募してもらいたい会社は、できる限りルールを守ろうとしているはずです。
しかし、グレーやブラックな会社の場合、正しい表記をせずに、求人者に誤認させるような内容を書いたり、ぼかす書き方をして実際の労働状況をわかりにくくさせていることがあります。
そこでこの章では、求人票でのみなし残業の書き方をもとに、怪しい会社の見分け方をご紹介していきましょう。
①記載ルールに沿っているか確認しよう
みなし残業を導入している場合、基本給、みなし残業時間、手当として支給される金額をそれぞれ別に記載する必要があります。
正しい表記方法は下記のとおりです。
時間外労働の有無に関わらず一定の手当を支給する制度(いわゆる「固定残業代」)を採用する場合は、以下のような記載が必要です。
① 基本給 ××円(②の手当を除く額)
② □□手当(時間外労働の有無に関わらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)
③ ○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給
(引用元:
最低限明示しなければならない労働条件等 )
たとえば基本給が25万円で、20時間分の固定残業代5万円を毎月支給する場合の表記方法は、このようになります。
基本給25万円
固定残業代(20時間分)5万円
〇 正しい表記
基本給25万円
(固定残業代20時間分を含む)
× 残業代がわからない
基本給25万円
固定残業代5万円
× 残業時間がわからない
求人票のみなし残業表記が正しくなかったり、そもそも求人票に書かれておらず面接時に口頭で説明されたなどの場合、ちょっと怪しい……かもしれません。
②みなし残業時間を超過した場合の支給が書かれていないこともある
みなし残業は、あくまで「これぐらい残業するだろう」と会社がみなした時間です。その時間を
1分でも過ぎれば残業代を支払う必要があります。
しかし、「超過した場合は残業代を支払う」ことを求人票に記載していないことも。みなし残業時間を超過して残業した分の賃金を支払わないのは違法です。
求人票への記載漏れで就業規則には記載されていることもありますが、入社しなければわからない就業規則に細かいルールが記載されていること自体、問題があるといえるでしょう。
③みなし残業があるが給料が低い……基本給が最低賃金を下回っている可能性あり
みなし残業を導入している会社であるにも関わらず給料が安すぎる場合、基本給が最低賃金を下回っている可能性があります。
みなし残業を含めることで給与が高いように見せかけつつ、実質的には残業代ゼロで長時間労働をさせるという、悪質なパターンです。
怪しいと思ったらまずは1時間当たりの賃金を計算し、最低賃金と比較してみましょう。
最低賃金は
都道府県ごとに異なる のでチェックしてください。
計算方法は、以下の通りです。
{(基本給+諸手当)×12ヶ月}÷(年間所定労働日数×1日の労働時間)=1時間あたりの賃金
※諸手当のうち、精皆勤手当て、通勤手当、家族手当、みなし残業代(時間外手当)は対象にならない
もしも最低賃金を下回っている場合、これも違法となります。入社するのは控えましょう。いずれにせよ、みなし残業代で給与を水増しする会社はいい会社とは言えません。給与額だけに着目するのではなく、ベースとなる基本給がいくらになるのかをきちんとチェックするようにしましょう。
④番外:どうしても入社したい会社に残業時間が書かれていない場合の対処法
①でご紹介した通り、みなし残業を導入している会社は、基本給とみなし残業時間、固定で支払われるみなし残業代をそれぞれ求人票に記載する必要がありますが、こうしたルールを守っていない会社もあります。
どうしても入社したい会社なのに、みなし残業時間・みなし残業代が書いてない!でも、会社に直接聞くのは気が引ける……。
そんなときは自分で計算をしてみましょう。計算式は以下の通りです。
みなし残業時間=みなし残業代÷(基本給÷1ヶ月の平均所定労働時間×1.25)
みなし残業代=(基本給÷1ヶ月の平均所定労働時間×1.25)×みなし残業時間
3.働いている人も要チェック!雇用条件から見るグレーなみなし残業
さきほどご紹介した求人情報だけでなく、雇用条件や会社の規則などからも、みなし残業が違法であると判断できる場合があります。
もしも違法なみなし残業をしている会社に勤めている場合、これまで残業してきた分の残業代を請求することも可能となります。
そこで、この章では、求人票以外から、みなし残業の違法性を判断するポイントをご紹介していきましょう。
①超過した分の残業代を支払っていない
先ほども少し触れましたが、みなし残業とされる時間以上に残業した場合、会社は超過分の残業代を支払わなければなりません。
みなし残業は、あくまで「これぐらいの残業時間だろう」と判断した時間分の残業代をあらかじめ定額で支払う仕組みです。その時間を超えた残業が1分でも発生した場合は、通常の残業として扱うのが原則です。
超過した分の残業代が支払われていない場合は、未払い残業代として支払いを請求することも可能です。
未払い残業代の請求についてはこちらの記事で詳しく紹介していますので、参考にしてみてください。
②深夜残業・休日出勤の割増賃金が支払われていない
みなし残業は通常の残業に対する規定のため、
深夜残業や休日出勤の場合の割増賃金について定義されていません。
そのため、深夜残業や休日出勤が発生した場合は、労働者に割増賃金を支払う必要があります。
しかし、就業規則などで「深夜残業・休日出勤分も含む」と規定されていた場合はこの限りでないため、注意が必要です。
③営業手当、地域手当、精勤手当といったほかの名目で残業代を支払っていたことにしている
就業規則にみなし残業代についての規定がなく、「営業手当」「成果手当」「地域手当」などといった名目手当により、実質的に固定の残業代が支払われている場合も違法となります。
この場合は、残業代が支払われていたという事実がなくなり、これまで働いた残業すべての残業代が支払われていなかったという判断がされることもあります。
もし、あなたの職場が違法なみなし残業をしており実際に残業代を請求したい!と思ったときは、下記の記事を参考にしてみてください。
4.まとめ
みなし残業の上限は45時間。それ以上の場合は限りなくグレー
みなし残業は、求人票への表記ルールがあり、基本給と残業時間、残業代が別々に記載されている。分けて記載されていなくても、計算して割り出すこともできる
みなし残業が導入されていても、①超過分の残業代の未払い②深夜残業や休日出勤分の割増賃金の未払い③別の名目で支払われているなどの違法行為で運用されていることもある。その場合は、残業代請求を視野に入れる
おわりに
みなし残業についてご紹介してきましたが、いかがでしたか。
残業時間にかかわらず一定の手当をもらえるみなし残業は、一見すると魅力的ですが、いっぽうで長時間のサービス残業にもつながります。
自分の職場や、応募を検討している会社などが、違法なみなし残業を定めていないかどうか、この記事でお伝えした内容を参考にチェックしてみてください。