この記事は以下の人に向けて書いています。
- 会社から「残業代は出ない」と言われているのが本当なのか知りたい人
- 残業代を請求する場合にどうしたらよいのか知りたい人
- 管理職になったことを理由にサービス残業が増えた人
はじめに
「うち、残業代は出ないから」
そんな言葉をうのみにしていませんか?
給与には残業代が含まれているから、フレックスタイム制だから、管理職手当を払っているから……。
そんな「残業代の出ない」理由には、
正当ではないものも多く含まれています。
この記事を参考に、あなたの本当の残業代を確認してみてください。
1.それって本当?残業代が出ないありがちな理由7つとその真偽
では、実際に残業代が出ない理由には、どんなものがあるのでしょうか。代表的なものを下記にまとめてみました。
①準備時間は残業にならないから |
②残業代が給与に含まれているから |
③フレックスタイム制だから |
④裁量労働制だから |
⑤年棒制だから |
⑥残業代は役職手当に含まれているから |
⑦アルバイトだから |
以下、それぞれの項目が
本当に残業代が出ない理由となるのか、解説していきます。
①準備時間は勤務に含まれないから
会社が定めている所定勤務時間(始業~終業)以外の実労働時間は、すべて残業時間として扱われます。
ポイントは、
会社の指揮命令下での行動かどうかです。
たとえば、「8時始業の10分前に来て、掃除をするように」という指示を会社(上司)から受けていた場合、掃除をしている10分は残業(実労働時間)と扱われます。
たとえ
雇用契約や就業規則などで「仕事の準備や清掃活動などは業務に含まない」と定められていたとしても、会社(上司)からの指示があった場合は、残業とみなされます。
同様のケースとして、例としては以下のようなものがあります。
- 休憩時間中に上司から指示されて行った業務時間(指示をされた証拠が必要)
- 仕事が終わらず、上司から家で行うようにと命令されて自宅で作業したときの作業時間(指示をされた証拠が必要)
- 規定で決められている作業服や制服へ着替える時間
②残業代が給与に含まれているから
会社によっては、
一定の残業時間を給与に含める固定残業代制度(みなし残業)を導入している場合があります。
しかし、会社があらかじめ設定していた
残業時間を超えた場合は、会社は残業代を支払わなければなりません。
たとえば、会社が1か月30時間の残業時間があるとみなし、残業代3万円をあらかじめ給与に含んで支給していたとします。
しかしその場合も、たとえば35時間残業した場合は、会社は30時間を超えた5時間分の残業代を支払う必要があるのです。
このように、
みなし残業時間を超過した場合は、残業代が支払われます。
また、雇用契約書に
「残業代が出ない」と記載されていることもありますが、そもそも、
残業代を支払わない契約を結んでいること自体が違法行為なので、無効となります。
③フレックスタイム制だから
フレックスタイム制とは、
労働者自身が出勤時間と退社時間を決める働き方です。
フレックスタイム制は一般的に自由な勤務形態だと見られており、残業時間についても曖昧な印象がありますが、実際には
月ごとに、勤務時間の上限が決められています。
そのため、毎月の
総労働時間をオーバーした場合は、会社は残業代を支給しなければなりません。
④裁量労働制だから
裁量労働制とは、
あらかじめ会社と労働者の代表が決めた(労使協定)ぶんだけの労働時間を働いたとみなす制度です。
たとえば、労使協定で月160時間働いたものとみなすと定めた場合、その月の勤務時間が実際には100時間であろうと200時間であろうと関係なく、月160時間働いたものとみなされます。
この労使協定は、会社ごとではなく職場ごとに作る必要があるため、支社で働いている従業員に「本社で決まっている」と言って裁量労働制にすることはできません。
また、裁量労働制は、下記の職種だけにしか導入できません。
- 専門業務型裁量労働制
(1) 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
(2) 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
(3) 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
(4) 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5) 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6) 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
(7) 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
(8) 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
(9) ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10) 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
(11) 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12) 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
(13) 公認会計士の業務
(14) 弁護士の業務
(15) 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16) 不動産鑑定士の業務
(17) 弁理士の業務
(18) 税理士の業務
(19) 中小企業診断士の業務
(引用元:専門業務型裁量労働制)
- 企画業務型裁量労働制
企業の中核を担う部門で企画立案を行う労働者
また、裁量労働制が認められる職種であっても、
- 1日の労働時間が8時間以上で設定されている
- 深夜勤務を行った
- 休日に労働した
などの場合は、残業代を請求することができます。
⑤年俸制だから
年俸制は、1年単位で給与を決める、
給与支払い形態のひとつです。
給与の支払い方の問題なので、実は残業代とはまったく関係がありません。残業をすれば、残業代を支給してもらうことができます。
⑥残業代は役職手当に含まれているから
一般的に、
「管理職は役職手当が付くから残業代は出ない」と言われますが、
すべての管理職に残業代がつかないわけではありません。
残業代がつかないのは、「管理監督者」として定められている人だけ。これは
経営者と同等の立場で、出退勤時間の決まりがなく、一般社員と給与の差がある人……つまりイメージとしては役員クラスの職種のことを指します。
これ以外の、たとえば「課長職」「マネージャー」などといった役職は、多くの場合管理監督者ではないとみなされ、残業代を支給する必要があります。
⑦アルバイトだから
正社員だけでなく、パートやアルバイトであっても、
1日8時間、週40時間を超えた場合は残業代が支給されます。
2.残業代請求ってどうやるの?準備するべきものと相談先を紹介
では、もし自分の残業代が未払いだとわかった場合は、どうすればよいのでしょうか。
準備の方法や手順について、解説していきます。
①証拠を集める
まずは残業の証拠を集めましょう。
必要となるのは、あなたがどんな条件で会社に雇われていたかがわかるものと、実際にどの程度働いていたのかがわかるものの2つです。
具体的には、下記の証拠を保管しておきましょう。
- 雇用通知書
- 労働条件通知書
- 就業規則
- 勤務実態がわかるもの(タイムカード、日報、メールの送受信記録など)
- 給与明細
②弁護士や支援施設に相談
実際に証拠が集まったら、下記の窓口に相談しましょう。
また事前にどんな証拠を集めて良いのかわからなかったり、どうすればわからないときの相談にも乗ってくれますので、まずは相談してみるのもよいでしょう。
- 労働基準監督署
労働基準監督署は、会社で労働条件が守られているかを監視し、改善の指導などを行う組織で、残業代や待遇など、労働問題全般の相談を受けてもらうことができ、会社の違法行為がわかれば、行政指導などを行ってくれます。
ただし、個別のトラブルに関するあっせんを行ってくれるわけではありませんので、その点は注意してください。
電話番号 |
各地域によって異なるため、こちらから確認してください。 |
受付時間 |
8時30分~17時15分(平日) |
- 全労連労働問題ホットライン
全国労働組合総連合(全労連)が運営している相談窓口です。残業問題だけでなく、パワハラやセクハラなどの労働問題全般の相談に乗ってくれます。
電話またはメールで連絡をとることができます。
- 職場のトラブル相談ダイヤル
全国社会保険労務士会連合会が運営している相談窓口です。社労士は労働問題の専門家であるため、適切なアドバイスをもらうことができるほか、ADR(裁判外紛争解決手続)という手続きによって、会社との和解をあっせんしてくれます。
電話番号 |
0570-07-4864 |
受付時間 |
11時~14時(平日) |
③どんな方法がある?
- 会社に直接請求
一番手軽な方法は、個人で会社に残業代を請求することでしょう。
もしまだ在職中で、かつ会社に労働組合などがある場合は、そこと協力して請求を行うとより確実です。前の章で紹介した団体に相談し、交渉してもらうのもひとつの方法でしょう。
しかし、すでに退職している場合や、個人で請求をする場合、会社側が黙殺する場合や、場合によっては圧力をかけてくる場合もあります。
交渉がうまくいかなかった場合は、弁護士などを通じて、法的なアクションをとっていく必要がでてきます。
- 労働審判
会社が交渉に応じなかった場合、法的手段に出るしかありません。
未払い残業代などのトラブルの場合、労働審判制度とよばれる、一般的な訴訟よりも簡単な手続きを利用することができます。
労働審判は、会社側と本人が裁判所を通じて話し合い(審理)を行い、トラブルの解決を目指すというもの。審理の回数は3回までと決められており、もしそこで決着がつかない場合、裁判官が審理の内容を判断して解決策を提示してくれます。
労働審判は個人でも可能ですが、相手側企業が代理人弁護士を用意してくる場合もあるため、弁護士に相談したほうが無難でしょう。
- 労働訴訟
相手側が労働審判の結果に異議を申し立てた場合などは、訴訟を起こすことになります。
こちらも弁護士に相談のうえ進めていきましょう。
3.残業代の請求は認められるの?実際の事例4つを解説
実際に残業代を請求した場合、きちんと支払われるのでしょうか。
この章では実際の事例を紹介していきます。
- 概要
銀行に勤めていた男性による訴訟。就業規則として「8時35分~17時(週初め、週末、月末は17時35分)、休憩は11時~14時の間に1時間とる」と定められていたが、8時すぎまでに出社して開店準備を行っていた。また、週2回は開店準備終了後8時30分から10分間の朝礼、19時以降も多数の行員が業務をしていることが常態化し、さらに始業時刻前に参加を義務付けられている融得会議に参加していた。これらの残業代と銀行幹部からの嫌がらせによる退職への慰謝料を求めた。
- 結果
残業代の請求はほぼ通ったが、慰謝料は認められなかった。
- ポイント
男性が残業代の支払いを求めたポイントは、下記の4つです。
・始業時刻前の準備
銀行業務として、始業前の8時15分以前に金庫を開ける必要があり、その作業が常態化していたため、8時15分~35分までの間は銀行からの指示による労働時間(8時30分からの朝礼も含む)とみなされました。
・融得会議
男子行員は事実上、始業前の融得会議への出席を義務とされていたため、8時15分以前に会議が開始されていた日については、その開始時間以降の勤務が労働時間と判断されました。
・終業後の残業
男子行員は19時以降も業務を行っていることが常態化していました。また、勤務終了予定時間(17時)以降の時間にも予定表が組まれていたことから、少なくとも19時までの勤務は会社からの指示による労働時間とみなされました。
・昼の休憩時間
休憩時間については、労働時間とは認められませんでした。
- 概要
学習塾の経営を行う会社で雇用されていたAが取締役であることを理由に時間外労働による残業代の支払いを受けられなかったとして、残業代と遅延損害金、付加金などの支払いを求めた。
- 結果
Aが労働者であることを認め、満額ではないがほぼ請求が通った。未払い残業代約670万円と遅延損害金として年14.6%をつけたのに加え、付加金約520万円の支払いを命じた。
- ポイント
通常、「取締役」という高い地位にいる場合、業務の内容から管理監督者として判断されるため、残業代は支払われません。
しかし、この学習塾の場合、入社後半年が過ぎて正社員になると、全員が取締役に就任するきまりとなっていました。さらに、Aの肩書は「教育コンサルタント」で業務は「営業」とされており、取締役としての業務がない状況でした。
そのため、Aは管理監督者ではなく労働者として判断され、請求が認められました。
- 概要
医療法人の人事第2課長として看護婦の募集業務等に従事していたAが、管理監督者の地位ではなかったとして時間外・休日・深夜労働にかかる割増賃金の支払いを求めた。
- 結果
管理監督者の地位にあったと判断され、請求は認められなかった。
- ポイント
「課長」であったにもかかわらず、管理監督者として判断された事例です。
Aは看護師の採用決定、労務管理については経営者と同じ立場にありました。一方、出勤・退勤時にはタイムカードを打刻する義務を負っていたものの、実際の労働時間はAの自由裁量によるものとなっていました。
これらのことから、Aは管理監督者と判断され、請求は認められませんでした。
④トラック運転手4人が残業代を請求した例
- 概要
トラック運転手4人による残業代集団訴訟の判例。トラックを運転していない時間(待機時間)はすべて休憩時間だと会社は判断していたが、運転手側は労働時間であったと主張し、未払い残業代を請求した。
- 結果
2年分の残業代約4300万円に加え、同額の付加金の支払いを命じた。
- ポイント
通常、休憩時間は労働時間に含まれません。
しかし、このケースでは、トラックを走行させていない荷積み・荷下ろし待機時間であっても運転手はトラックから離れることができなかったことから、待機時間は休憩時間ではないと判断されました。
また、会社側は給与で支払っているいくつかの手当が残業代であると主張しましたが、裁判所は、これらの手当はすべて、休日労働・時間外労働・深夜労働への支払いとは認められないとし、主張を退けました。
4.まとめ
- 残業代が出ない理由には、準備時間は残業代ではないから、残業代は給与に含まれているから、フレックスタイム制度だから、管理者だから……といったものがあるが、その多くは事実ではなく、場合によって残業代を請求することができる
- 残業代を請求するためには「自分がどのような条件で雇用されたかわかる書類」と「実際にどの程度残業していたかがわかる書類」のふたつが必要
- 残業代請求の方法には、会社に直接請求する、労働審判制度を利用する、訴訟を起こすなどの手段がある
おわりに
いかがでしたでしょうか?
「残業代が出ない」として諦めていたあなたも、もしかすると残業代を請求することができるかもしれません。
気になった方は、まずは証拠集めや相談からはじめてみてください。