残業代請求の手順を解説!請求可能かどうかを見極める4つのポイント

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投稿日時 2018年10月15日 15時19分
更新日時 2018年10月15日 15時19分

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • 会社に残業代を請求できるのかどうかを知りたい人

  • 残業代の請求にどういう準備が必要なのか気になる人

  • 実際に残業代を請求しようと思っている人

はじめに

サービス残業した分の残業代を会社に請求したいけど、交渉が大変そうだし、どんな準備をすればいいのかわからない、と悩んでいませんか?

残業代を請求できるかどうかは、雇用条件や証拠の有無によっても変わってきます。そのため、雇用条件を確認して、しっかりと証拠をそろえることが重要。

この記事では会社に残業代を請求する際に重要なポイントや、必要な準備、費用などについて解説します。


1.最初にチェック!残業代請求の可能性を知る4つの重要ポイント



①雇用条件はどうなっている?就業時の資料を集めよう

残業代を請求するときは、まず雇用条件がどうなっているかを確認する必要があります。雇用条件に関する書類は、雇用されたときに会社から労働者に交付されることになっていますので、まずは以下の書類を集めましょう。

  • 労働条件通知書

    労働条件通知書は、会社が労働者を雇うときに明示しなければならない労働条件を記載した書類で、雇用する前にかならず渡さなければなりません。主な記載内容は以下の通りです。

    1.労働契約の期間
    2.就業場所や業務内容
    3.始業/終業時刻や休憩時間、休日、休暇
    4.給料の計算方法、支払方法
    5.退職、昇給に関すること

    残業代請求の際は、始業/終業時刻や休憩時間、給料の計算方法がどうなっているかがポイントになります。

  • 雇用契約書

    会社に雇われて働く際には、会社と労働者の間で雇用契約を結ぶことになりますので、通常は雇用契約書を取り交わします。雇用契約書は作成しなくても特に罰則はありませんが、会社側としては労働者との間できちんと雇用条件に付いて合意したという証拠を残しておきたいと考えるので、書面で作成されるケースが多くなっています。

    雇用契約書の主な記載内容は労働条件通知書とだいたい同じですが、会社からの一方的な通知ではなく、会社と労働者の双方が合意して署名するという点が異なります。

  • 就業規則

    就業規則は会社のルールを定めたもので、10人以上の労働者を常時雇用している会社では必ず作成しなければなりません。主な内容は会社としての始業/終業時刻や休憩時間、休日、休暇、賃金の計算方法などです。

    就業規則と雇用契約書では、基本的には雇用契約書に書かれている労働条件のほうが優先されますが、就業規則のほうが上回っている(労働者にとって良い条件になっている)部分については就業規則が優先されます。

  • もし見つからなかった場合は?

    労働条件通知書は人を雇うときに必ず交付しなければいけない書類であり、もし交付しなければ会社側に30万円の罰金が下されます。これはパートやアルバイトの場合でも同様です。

    そのため、労働条件通知書が存在しないケースはまれです。ただし、雇用契約書の中に労働条件通知書の必須項目が含まれていれば、別に労働条件通知書を交付しなくても良いことになっています。その場合は雇用契約書があれば問題ありません。

    もし雇用条件に関する書類が見つからなかった場合でも、残業代が請求できないわけではありません。会社はこれらの書類を労働者が退職してから3年間は保管しておく義務があるため、会社側に請求すれば出てくるケースもあります。

    ただし、会社側が都合の良いように改ざんした書類を出してくる可能性もありますので、自分で保管していた書類もあるほうが望ましいでしょう。

②残業を続けている期間はどれくらいか?

未払いの残業代は、どこまでもさかのぼって請求できるというわけではありません。そのため、サービス残業を続けている期間がどのくらいかもポイントになります。

  • 残業代請求の時効は2年

    残業代も含め、賃金の時効は2年となっています。ただし時効の開始日の基準となるのは残業した日ではなく、毎月の給料日です。例えば4月分の給料が5月25日に支払われる場合、4月分の未払い残業代が時効で消滅するのは2年後の5月25日ということになります。



    そのため、2年間以上サービス残業を続けている場合や、すでに退職してから時間がたっている場合は、早く請求しないと請求可能な金額がどんどん減っていってしまいます。残業代を請求すると決めたら、1日も早く行動しましょう。

  • 例外として、2年以上認められるケースも……

    ただし、会社側が未払いの残業代の存在を知っていながら払っていない、そもそも労働者の勤務時間を管理していないなど、特に悪質と認められるケースでは例外的に時効が3年に伸びることもあります。ただしあくまで例外であり、実際に3年に伸ばしてもらえることは稀です。

    また、内容証明郵便を使って会社に対して残業代の支払いを催告することで、時効を6ヵ月延長することができます。時効が間近に迫っている場合は、早めに行動しましょう。

③残業代はどの程度になるのか?

残業代を請求するときは、具体的にいくらになるのかを計算する必要があります。ただし雇用契約の内容によってはそもそも残業代が発生しなかったり、残業代の一部が支払い済み扱いになっていたりするので注意が必要です。

  • 基本的な計算方法

    残業代の基本的な計算式は、

    ①時給 × ②残業時間 × ③1.25(割増率)

    となります。

    月給で働いている人の場合、①の時給は月給から各種手当を除いた金額を1ヵ月の基本的な労働時間(8時間×勤務日数)で割った金額となります。

    ②の残業時間は、残業代を支払われていない分の残業時間です。

    ③の割増率は、法定労働時間(8時間)を超えた労働時間に対しては25%増し以上の賃金を支払わなければいけない、と法律によって定められている数字です。
    ただし、時給や残業時間の計算は、雇用形態によって複雑に変わってきます。

    詳しい計算方法についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてみてください。

    未払い残業代を取り戻せ!今すぐ使えるカンタン計算式&請求法3選

  • そもそも残業代がない場合も?

    雇用契約の内容によっては、長時間働いていても残業代が発生しないケースもありますので、確認が必要となってきます。

    一部の専門業務では、雇用契約の中で裁量労働制(みなし労働制)という制度を採用していることがあります。これは実際の労働時間が何時間であっても、あらかじめ契約で定めた時間だけ働いたとみなす制度です。裁量労働制の適用が認められている職種の場合は注意しましょう。

    また、給与の中に一定の残業代をあらかじめ含めておく固定残業代(みなし残業)制度というものもあります。例えば「月給30万円(20時間分の残業代4万円を含む)」といったかたちで、給与の中に一定時間分の残業代を入れてしまうことがあります。

    この場合は、給与の中にあらかじめ含められている残業時間を超えた時間分だけ、未払いの残業代を請求することが可能です。
    そのほか、フレックスタイム制や年俸制など、さまざまな雇用形態についての説明は、下記の記事で詳しく紹介していますので、参考にしてみてください。

    「残業代出ない」は本当?7つの理由を検証&未払いだった際の対処法

④残業を証明する証拠はあるか?

残業代を請求するときに、本当の残業時間を証明する証拠がないと、請求した金額を支払ってもらえない可能性が高くなります。残業代を請求する日すべての残業時間の証拠をそろえないといけないわけではありませんが、できるだけたくさんの証拠を準備しましょう。

残業時間の証拠となるものの一覧は以下の通りです。

  • タイムカード
  • 日報
  • 業務メールの送受信履歴(PCのデータ・プリントアウトしたメール)
  • 仕事の指示書
  • メモ、日記等
  • アプリ等による勤務時間記録

自分で出勤時間や退勤時間をメモしておく場合は、証拠としての信ぴょう性を高めるため、1分単位で記録するほうが望ましいです。15分単位、30分単位などでまとめてしまわないように気をつけてください。合わせてその日の業務内容についても記録しておきましょう。また記録は残業がなかった日も含めて、できるだけ毎日続けるようにしてください。

証拠となる資料はコピーや写真でもかまいません。2年分の証拠を完全に用意する必要はありませんが、証拠は多ければ多いほど、残業代を回収できる可能性や金額は高くなります。


2.残業代請求の手段は?4つの方法とメリット・デメリット



残業代を請求するための手段は、大きく分けて4つあります。それぞれのメリット・デメリットを以下の表にまとめました。

手法 メリット デメリット
①個人請求 ・一番手軽な方法 ・支払われない場合も
②少額訴訟 ・費用が安い
・約1ヶ月で結果が出る
・請求上限が60万円
・拒否される可能性も
③労働審判 ・個人でする場合は低費用
・約3ヶ月で結果が出る
・和解できないと訴訟に
・かなりの準備が必要
④労働訴訟 ・確実に結果が出る
・専門家が解決
・費用が高い
・期間が長い
・個人では難しい

以下、それぞれの方法について詳しく説明していきます。

①個人請求

残業代を請求するための一番簡単な方法は、内容証明郵便を利用して個人で会社に対して請求書を送ることです。

  • 特徴

    会社に対して請求書を送るだけであれば、弁護士などの専門家に頼らなくても自分だけでできます。

    請求書に記載すべき項目は以下の通りです。

    ・自分の氏名、住所、連絡先
    ・未払いの残業代を請求するということ
    ・残業代を請求する期間(〇年〇月〇日~〇年〇月〇日)
    ・未払いの残業代の総額、残業時間の合計、時給、計算式
    ・残業代の振込先銀行口座の情報
    ・残業代の支払期限

    また請求書を送ったという証拠を残すため、普通郵便ではなく、内容証明という特別な郵便で送る必要があります。内容証明郵便の料金は以下の合計額です。

    ・通常の手紙の料金(定型郵便25g以内の場合):82円
    ・内容証明料:430円
    ・書留料:430円
    ・配達証明料:310円(必須ではありませんが、相手に届いたことを証明するためにつけたほうが望ましいです)

  • メリット

    請求書を送った段階で会社側が支払いに応じてくれれば、法的措置を取る必要がないので費用も手間もあまりかかりません。

    また内容証明郵便による請求には時効を6ヵ月延長する効果もありますので、時効の期日が近い場合はまず請求書を送ると良いでしょう。

  • デメリット

    請求書を送っただけでは、相手が支払ってくれるとは限りません。すでに退職している場合は、請求しても会社に無視されてしまうケースがよくあります。また在職中の場合も、従業員にいつもサービス残業させているような会社だと、支払わないという回答がくる可能性が高いです。

    もし会社側が応じなければ、ほかの手段をとりましょう。

②少額訴訟

残業代の請求額が60万円以下の場合は、少額訴訟という方法で請求することもできます。

  • 特徴
    少額訴訟は、通常の裁判よりも早く結論がでる裁判制度です。訴状と証拠資料、訴える会社の登記事項証明書を用意して、簡易裁判所に提出することで少額訴訟を起こすことができます。

    少額訴訟にかかる費用は、印紙代(請求額に応じて1,000円~6,000円)と郵便切手代(およそ4,000円)です。少額訴訟は弁護士に依頼しなくても起こすことができるので、通常の訴訟よりも少ない費用で済みます。

  • メリット

    少額訴訟では審議するのは1回だけで、およそ1~2ヶ月で結果がでます。そのため通常の訴訟よりも期間を短くすることが可能です。また訴訟にかかる費用が少ないのもメリットです。

  • デメリット

    少額訴訟は請求額が60万円以下でなければ利用できません。また、相手が少額訴訟の利用に応じてくれない場合は通常の訴訟になります。少額訴訟の結果に対して自分や相手が不服申し立てをした場合も、通常の訴訟に移行します。

    会社側が弁護士を立てて反論してくる場合、少額訴訟には応じてくれない可能性が高いです。法務部や顧問弁護士のいない小さな会社に勤めていて、請求額が60万円以下の場合は少額訴訟の利用を検討しましょう。

③労働審判

労働審判は、労働者と雇用者との間のトラブルを解決するための裁判所の手続きです。1人の労働審判官(裁判官)と2人の労働審判員が当事者の主張を調整し、労働問題の早期解決を図ります。

  • 特徴

    労働審判は、労働審判手続申立書と証拠を裁判所に提出することで申し立てます。申し立てにかかる費用は、請求額に応じた金額の印紙代(請求額100万円の場合は5,000円、通常の訴訟の半分)と、連絡用の郵便切手代(およそ2,000円)です。

    労働審判では最大3回の話し合いをおこない、その間に当事者同士で和解できなければ、審判官が解決案を提示します。

  • メリット

    労働審判の申し立ては個人でもできるので、弁護士費用をかけずにおこなうことが可能です。審判自体にかかる費用も通常の訴訟より安くなっています。

    また労働審判の半数以上が3ヵ月以内に終了しており、長くとも半年以内には終了するので、通常の訴訟より早く決着するのもメリットです。

  • デメリット

    当事者同士で和解に至らなかった場合は、裁判所が解決案を提示することになりますが、当事者のどちらかが異議を申し立てると通常の訴訟になってしまいます。

    個人で労働審判の申し立てをすると、費用は通常の訴訟より安く済みますが、証拠の準備や話し合いのためにかなり時間と手間がかかります。また会社側が弁護士を立ててきた場合は、こちらも弁護士に依頼するなどの対策が必要になってきます。

④労働訴訟

「労働訴訟」とは、残業代の未払いなどの労働問題を、通常の裁判に訴えることです。個人で訴訟を起こすことは難しいので、一般的には弁護士に依頼することになります

  • 特徴

    訴訟を起こす場合は基本的に弁護士が手続きをおこないますが、証拠を集めて弁護士に渡したり、弁護士からのヒアリングに応えたりといった作業は自分でやる必要があります。

    依頼する弁護士によっても異なりますが、まず着手金、手数料、交通費や印紙代などの実費の合計で20万円~40万円位の費用がかかります。さらに成功報酬として、請求額の20%程度を弁護士へ支払うのが一般的です。弁護士によっては成功報酬のみの場合もあります。

  • メリット

    通常の訴訟なので、当事者が途中で和解しない限り、最終的には裁判官によって判決がくだされます。判決には強制力があるので、残業代を支払えという判決がでたのに相手が支払わない場合は、強制執行の手続きをとって支払わせることが可能です。

    また訴訟手続きや訴訟中の交渉は弁護士に任せられるので、自分で作業する手間は少なくなります。弁護士が交渉することで、会社から支払われる金額を高くできる可能性もあります。

  • デメリット

    弁護士に依頼することになるので、弁護士費用がかかってしまいます。また途中で和解できなかった場合は、判決がでるまでの期間が長くなりがちです。


3.困ったときはここに相談!労働問題の窓口4つ



未払い残業代などの労働問題に関する相談を受け付けている窓口を紹介します。いきなり弁護士に相談するのは気が引けるという方は、まずはこれらの窓口に相談してみましょう。

①労働基準監督署

全国にある労働基準監督署は、会社が労働基準法を守っているか監視し、必要に応じて指導をおこなっている組織です。

・特徴

労働基準監督署では労働問題に関する相談も無料で受けつけていて、法律にのっとったアドバイスをしてくれます。ただし個別の事例に関して解決のためのあっせんをしてくれるわけではないので、あくまでアドバイスを聞きに行くという気持ちで相談してください。

電話番号 地域によって異なります
受付時間 平日8時30分~17時15分

②全労連労働相談ホットライン

全国労働組合総連合(全労連)が運営している、各地域の労働相談センターにつながるホットラインです。

・特徴

残業代に関する問題だけでなく、パワハラやセクハラなど幅広い労働問題に関する相談を無料で受け付けています。法律や実際の事例にのっとって解決のためのアドバイスをしてくれます。メールでの相談も可能です。

電話番号 0120-811-610
受付時間 平日17時~22時、土日9時~21時

③職場のトラブル相談ダイヤル

職場のトラブル全般に関する相談を受けつける窓口として、全国社会保険労務士会連合会が運営しています。

・特徴

電話相談の後、対面での相談をおこない、社労士が労働者と会社との間に入ってADR(裁判外紛争解決手続)による和解をあっせんしてくれます。

電話番号 0570-07-4864
受付時間 平日11時~14時

④法テラス

労働問題に限らず、法的トラブルの相談窓口として国が設置している機関です。

・特徴

相談内容に応じて、適切な相談窓口や法制度を紹介してくれます。また収入が少ない人のために、無料法律相談や弁護士の紹介をおこなっています。電話やメールで相談することが可能です。

電話番号 0570-078374
受付時間 平日9時~21時、土曜日9時~17時


4.まとめ

  • 残業代を請求するには、まず雇用条件に関する資料を集めること

  • 残業代を請求する権利は2年で時効により消滅してしまう

  • タイムカードや勤務時間メモなどの証拠はできるだけたくさん集めると良い

  • 残業代請求の手段は個人請求、少額訴訟、労働審判、労働訴訟の4つ

おわりに

残業代を請求するためには、雇用契約の内容を確認したうえで、実際の残業時間の証拠を集めなければなりません。

残業代をもらうのは労働者として当然の権利ですが、2年で時効により消滅してしまいます。請求書を送ってしまえば時効を6ヵ月は延長できますので、まずは残業代の金額を簡単に計算してみて、弁護士や各種窓口に相談しましょう。


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