この記事は以下の人に向けて書いています。
- 未払い残業代を取り戻したい人
- 残業代を取り戻す条件を知りたい人
- 未払い残業代があったときの相談先を知りたい人
はじめに
「毎日残業をしているのに、会社が残業代を払ってくれない…」
そんな悩みを抱えてはいませんか?
長時間労働とあわせて問題となっている、
残業代の未払い問題。支払われない理由はさまざまですが、実際には残業代をもらえる状況であることも少なくありません。
この記事では、残業代がどのようなルールで支払われるのかとあわせて、未払いの際の請求方法や、相談先などを紹介していきます。
給与明細に反映されていない残業代をそのままにしておけば、企業から搾取されるだけになってしまいます。泣き寝入りする前に、一度参考にしてみてください。
1.どこからが「残業」?36協定と、ケース別判断基準7つ
原則として、会社は残業をした従業員に対し、残業代を支払う義務があります。
その一方で、「みなし残業」「裁量労働制」などの例外ルールがあり、話が難しくなっているのもまた事実。中には、労働者の知識不足をいいことに、
本来払うべき残業代をごまかしている企業も多くあります。
この章ではまず、残業そのものの仕組みとさまざまなルールを紹介していきます。
「残業代は出ない」と会社から言われている人も、自分がこれらのケースにあてはまっていないかどうか、いちど確かめてみてください。
①「1日8時間・週40時間」を超えたら残業
法律は会社で働く時間の上限(法定労働時間)を定めています。これを超えて働いた従業員に対し、会社は原則として、働いたぶんの時給を割増しで支払う必要があります。
これがいわゆる
「残業代(時間外給与)」です。
残業した際の時給は、
通常の25%増しと定められていますが、深夜残業や休日出勤があった場合は、さらに割増しとなります。
より詳しい残業代の計算方法については、下記を参考にしてみてください。
- 残業の基本「36協定(サブロク協定)」って?
また、企業は無条件に従業員を残業させてはいけません。
まずは事前に、残業時間や残業中の時給について労働者の代表と話し合い、労使協定と呼ばれる書類の形にまとめます。その内容を労働基準監督署に届けてはじめて、残業をさせることが可能となるのです。
また、残業の上限は、「月45時間・年360時間」です。
特別な事情がない限り、これを超えた企業には罰則が科されることになります。(2019年4月、中小企業は2020年4月から適用)。
②「残業出ない」の多くは嘘…ケース別まとめ
しかし、こうした原則があるにも関わらず、残業代が支払われない企業があとを絶ちません。支払わない理由はさまざまですが、多くの場合、法的な根拠が薄いものばかりです。
企業から言われがちな
「残業代が出ない理由」について、本来であれば支払わなければならないケースについてまとめました。
非正規・アルバイト・パートの残業代は? |
雇用形態を問わず「労働者」であれば請求できます。 |
管理職に残業代は出ない? |
役員クラスでなければ支払われます。 |
仕事を持ち帰った場合は? |
業務命令なら支払われます。 |
フレックス制の場合は? |
法定労働時間を超えれば発生します。 |
裁量労働制の残業代は? |
指定された専門職でなければ制度は適用されず、専門職でも条件によって請求できます。 |
退職したらもう請求できない? |
請求できますが、時効があります。 |
いつまでさかのぼって請求できる? |
一般的に2年が上限です。
|
それぞれ詳しく見てみましょう。
- 契約社員・アルバイト・パートなど非正規雇用の場合は?
残業代の支払いに雇用形態は関係なく、「労働者」であり、勤務時間が1日8時間、週40時間を超えている場合は残業代が支払われなくてはなりません。「正社員じゃないから残業代はでない」などと言われている場合は、このように反論が可能です。
- 管理職では支払われない?
残業代を支払わなくてもよいのは、経営者とほぼ同等の権限を持つ「管理監督者」、イメージとしては「役員クラス」のみ。「●●長」「マネジャー」などの肩書があったとしても、残業代は支払われます。残業代を削るためだけに、なんの権限もない肩書を与えるのは認められません。
残業代のかわりとして「役職手当」が支払われていた場合でも同様。残業時間と関係ない手当を残業代のかわりとすることはできないのです。
- 持ち帰りの場合は?
業務上の命令である場合は残業となります。
ただし、勤務先が持ち帰り残業をしている事実を把握していることや、どうしても自宅で作業しなければならない理由があったかどうかなどがポイントとなります。
もし請求する場合は、これらの証拠となるメールを保存するとともに、自宅や社外での作業時間や内容を残業の証拠として残しておきましょう。
- フレックスタイム制の場合は?
フレックスタイム制は、出退勤の時間をある程度自由に決められますが、だからといって残業代を支払わなくてよいわけではありません。
1ヶ月の勤務時間の合計が、あらかじめ決めておいた総労働時間を超えた場合は、残業代が発生します。総労働時間は「1日8時間・週40時間」を基準として上限が決まっているため、それより長く働いた場合は残業代を支払う必要があります。
- 裁量労働制の場合は?
裁量労働制の場合、実際に働いた時間とは無関係に労働時間が決まるため、基本的に残業代は発生しません。
ただし、事前に労働者と企業が決めた「みなし労働時間」が8時間を超えていた場合や、深夜・休日業務があった場合は残業代が発生します。
また、この制度が適用されるのは、厚生労働省が定める「専門業務型裁量労働制」
および「企画業務型裁量労働制」
に定められている業種のみです。
ここに含まれない業務で裁量労働制が適用されている場合は、そもそもが違法です。
- 退職したらもう請求できない?
退職してしまっていても、元の勤務先に未払い残業代を請求をすること自体には問題ありません。ただし次で説明するように、時効があることに注意してください。
また、退職後だと証拠集めが難しくなるというデメリットもあります。
- いつまでさかのぼって請求できる?
一般的な請求期限は2年です。
期限の数え方は「給料日の翌日から2年後の給料日当日まで」。
たとえば2019年1月25日が給料日の場合、同26日からカウントが始まり、21年1月25日当日が来ると、その月の残業代は請求できなくなります。
つまり、辞めてから時間がたつほどさかのぼって請求できる残業代はどんどん減っていきますので、なるべく素早く行動を起こした方がよいでしょう。
より詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてみてください。
2.残業した証拠を集めよう!必要なものと集め方がわかる2ポイント
未払いの残業代を請求するためには、残業をしていた事実を客観的に示す証拠が必要です。会社に直接請求する場合や、労働基準監督署、弁護士など外部機関に相談するときなど、証拠が充実しているほど、話がスムーズに進みます。
どのようなものが求められるのか、今からできる証拠の集め方と注意点を紹介していきましょう。
①なにが必要?
下記のようなものがあると、残業をしていたこと、残業代が支給されていないこと、雇用条件に基づいていたかどうかを照らし合わせることができるようになります。
- 就業規則
- 雇用契約書
- 給与明細
- 自分でできる記録(音声・動画・写真・残業している時刻がわかるPCやスマホのスクリーンショット・スマホや紙に残した出退勤時間のメモ)
- タイムカードほか、会社でつけている勤怠記録
- 残業時間中に送信した業務のメールやチャット
- PCの起動・シャットダウン記録
- 勤務先の建物の出退館記録
- あとから内容を編集できないSNS(ツイッターなど)に投稿
- 家族など外部に出勤・退勤をチャットで知らせたもの
このほか自分で思いつくもので「こんなものでも証拠になるだろうか……」と迷ったものがあれば、手元に残しておいてください。そのようなものでも、労基署や弁護士から見れば有用であることもあります。
②集め方や注意点
具体的な記録はあればあるだけ有利になりますが、先に説明している通り、時効が2年ですので、それ以上は記録があっても請求できません。
方法としては日々こつこつとためるしかないため、退職をしてしまっている場合は、記憶を頼りに書き起こすしかないと言えるでしょう。
- 勤務先には把握されないように
注意点は、データや記録を勤務先または勤務先が管理できる場所に置いておかないこと。業務用のスマートフォンやPCを貸し出されている人も多いでしょうが、勤務先はいざとなればこれらを取り上げたり、データを消去したりすることもできます。
不要なトラブルを避けるためにも、紙のメモなども含めて自分が管理できる、人目につかない場所に保管しておく方が安全です。
また、バックアップやコピーも定期的に行いましょう。社内で破棄される可能性のほか、外部への相談で持ち出す際も、必要な書類作成などのためにしばらく相談先の手元に保管されることがあるからです。
- 同僚と協力して証拠を強化する
自分と同様の労働条件や勤務体系で働いていて、残業代が出ない社員がほかにもいる場合は、同一時間帯における複数の証拠を集められる可能性があります。
これにより証拠内容が強化され、勤務先に被害の大きさを示すことができます。このようなときは、同じ立場の社員による集団訴訟も検討しましょう。
3.証拠をそろえたら相談しよう、頼れる窓口4つ
証拠がそろったら、まずは勤務先に直接交渉する方法もありますが、第三者の支援を求める場合は下記の相談窓口や解決方法を使ってみましょう。
①労働基準監督署に相談する
労働基準監督署(労基署)は、労働者からの残業代未払いや不法とみられる時間外労働についての情報を元に、勤務先への立ち入り調査を実施することができます。この立ち入りや調査を拒むと罰せられることがあります。
これにより企業に労働基準法の違反があるとわかった場合は、改善のための監督指導を行います。
ただし、個別の事案に対応して未払い賃金の請求などを代行してくれるというわけではなく、
あくまでも企業全体での対応を求めることになります。相談者本人のみの事案を解決するという機関ではないことに注意しましょう。
- 個別労働紛争あっせん制度を使う
賃金や解雇などの労働問題について、各都道府県の労働委員会が専門の委員を立てて、労働者と企業のトラブルを解決する制度です。裁判とは異なり、内容は外部に公表されることはなく、費用も無料です(資料郵送費などがかかる場合もあります)。
ただし、双方が手続きに参加することが必要で、どちらかが参加しなければあっせんは終了します。
②社内外の労働組合に相談してみる
労働組合がある企業なら、社内労組に相談してみましょう。
労組は企業との交渉が可能です。人数が多ければ、団体交渉をすることもあるでしょう。
しかし、全社で残業代未払いが発生しているようであれば、労組が機能していない可能性もあります。
そのようなときには、外部の労組(ユニオン)に相談してみるのも手段のひとつ。自分の所属する業界のユニオンなどがすでにある場合がありますので、調べてみましょう。
ただし、外部ユニオンに加盟するには費用がかかるほか、自身でも解決に向けて積極的な行動を起こしていかなければならず、「丸投げ」はできません。
③弁護士に相談する
法的解決を目指すなら、弁護士に相談をしてみましょう。
弁護士への依頼は必ずしも裁判に繋がるわけではなく、相談者の依頼内容や証拠などにより、法律に基づいた最適な解決策を一緒に探すことになります。
弁護士を探す際は、労働問題に強い弁護士や事務所を選ぶほか、複数回の話し合いが必要になる可能性があるため、通うのに負担がない場所の弁護士を選ぶのがいいでしょう。
日本弁護士連合会(
日弁連のサイト)から、地域の弁護士を探すことができます。
相談の際は証拠を全て持参し、話をしてください。使えるものがあるかどうかの判断は、弁護士に任せた方がいいでしょう。
ただし、相談料が決まっている場合があるほか、実際に残業代未払いを解決するための依頼をすることが決まったら、さらに着手金や手続き費用が発生します。
- 民事訴訟を起こす
未払い残業代が140万円を超えていた場合は地方裁判所へ、超えていなければ簡易裁判所で民事訴訟を起こすことができます。
④そのほか、裁判所で利用できる制度
訴訟以外にも、裁判所が提供する労働問題の解決手段があります。
- 労働審判(地方裁判所)
企業と労働者が3回以内の期日で話し合いを持ち、解決を目指す手段です。裁判官および労働審判員と呼ばれる専門家が同席し、双方の主張をもとに解決策の提示や判断などを行います。
法的な専門知識が必要となりますので、利用の際は弁護士に依頼したほうがよいでしょう。
- 少額訴訟(簡易裁判所)
60万円以下の少額である案件を扱う訴訟です。自身が請求する未払い残業代を計算し、当てはまるようであれば利用するといいでしょう。裁判官および司法委員らが同席します。
弁護士に依頼する費用対効果を考えると、少額な請求であれば企業側も支払いに応じる可能性はあります。お互いに時間も費用も少なく済むと判断した場合には便利な解決方法となります。
ただし、相手側が少額訴訟を拒否した場合、通常の訴訟を起こす必要があります。
- 民事調停(簡易裁判所)
裁判官と、弁護士や社会保険労務士などからなる調停委員が同席し、労働者(申立人)と企業(相手方)の話し合いで解決を図ります。民事訴訟にまで至らない場合は、こちらでの解決が適しています。
4.まとめ
- 残業代が出ない働き方は多くありません。会社に言われたことを鵜呑みにせず、調べてみましょう。
- 請求の際、証拠は多いほど有利になります。まずは記録を。保管は厳重に。
- 社内で解決できなければ、労基署や弁護士に相談し、解決をはかりましょう。
おわりに
せっかく働いたのにその報酬をなかったことにされる残業代未払い。生活にかかわることで、搾取されたままでいるわけにもいきません。
自分の雇用条件がどのようになっているかのほか、1日8時間を超える残業をした月は給与明細を確かめ、きちんとその分が支給されているかどうかも確認するようにしましょう。もちろん、支払われていなければその明細を証拠に保存しておくのを忘れずに。