この記事は以下の人に向けて書いています。
- 残業代請求を行おうとしている人
- 残業代をいつからいつまで請求できるのか知りたい人
- 残業代の知識について知りたい人
はじめに
「未払い残業代を請求したい!」
そう思ったとしても、入社してからいままでの残業代を全額支払ってもらえるとは限りません。
残業代には時効があり、それ以降の残業代は請求できなくなるためです。
しかし、いっぽうでこの時効を延長する手続きもあります。特に退職後に残業代を請求する場合は、この手続きを利用することで、本来なら請求できる残業代が減ってしまうのを防ぐことができます。
この記事では、残業代の時効の仕組みや、その中断方法について解説していきます。
1.残業代はいつからいつまで請求できる?時効の仕組みと例外ケース
①残業代請求の時効がはじまる時期
残業代は、具体的にはいつからいつまで請求することができるのでしょうか。
ポイントとなるのは、
残業代の支給日です。
労働基準法では
残業代は賃金の一種とされ、一般的な給与と同じく、給与の支給日の翌日から一ヶ月ごとに時効がカウントされていく形となります。
そして、残業代の時効の長さは2年です。つまり、
給料日の翌日から、2年後の給料日当日までが時効の期限ということになります。
いくつか例を挙げてみましょう。
- 毎月15日締めで給料が当月20日払い
2016年3月20日の給料日に残業代が支払われなかった場合、2016年3月21日~2018年3月20日までの間、請求できる。
- 毎月20日締めで給料が翌月末払い
2016年5月21日~6月20日までの給与は2016年7月31日に支払われることになる。
そのため、2016年5月21日~6月20日までの残業代は、2016年8月1日~2018年7月31日までの間、請求できる。
②場合によっては時効が3年になることも?
残業があったことを知っていながら、わざと残業代を支払わなかった……といった悪質なケース(不法行為)があった場合、
残業代の請求ではなく、損害賠償の請求として扱い、例外的に時効を3年とすることがあります。
その代表的な事例である
杉本商事事件の判例をもとに、結果とポイントを解説してみましょう。
参考:
裁判所ウェブサイト判例
- 概要
退職した社員が、残業代未払いは不法行為だったとして、3年分の支払いを求めた。会社は、棚卸日などの一部例外を除き、通常日の時間外勤務手当(一日平均3時間半の残業)を支払っていなかった。また、2004年に労働基準局に未払い残業代について指摘されたものの改善していなかった。
- 結果
裁判所は労働者の勤務時間を把握していなかったことなどを不法行為と判断し、過去3年分の残業代を支払うように命じた。
- ポイント
このケースでのポイントは以下の3つです。
・会社側は社員に対し、間接的に時間外勤務を命じていたとされた。
会社の終業時間は8時30分~17時まで(12時~12時45分は休憩時間)と定められていたにもかかわらず、始業開始前の清掃や朝礼、終業後の残業が常態化していました。会社側がはっきりと残業を命じたわけではありませんが、判決では、実質的に一日平均3時間半の残業を命じていたものとみなされました。
・残業申告のルールが形骸化していた
会社側は反論として、残業は必ず事前に申告するきまりとなっており、基本的には出勤簿に記載した時間どおりに退社していたと主張しました。しかし、このルールはほぼ機能しておらず、申告せずに残業を行うことが常態化していたため、この主張は認められませんでした。
・管理者は労働者の勤務時間を把握していなかった。
会社は、労働者の勤務時間を把握していませんでした。途中から出勤簿に社員の出退勤時間を記載させるようになったものの、実際の勤務時間ではなく、営業所長の指示した時間を記載させていました。
これらのことから、会社側が不法行為を行っていたと判断され、3年分の残業代の損害賠償請求が認められたのです。
しかし、この事例では、会社側が
労働基準監督署の指導を受けながら改善していないなどの問題も背景にあったため、すべての事例で3年ぶんの残業代が請求できるわけではありません。
あくまで例外的なものであることを頭に入れておいてください。
③2020年には法改正で時効が5年になるかも?
2018年10月現在、残業代請求の時効は2年が時効ですが、
2020年4月ごろを目標に、5年に延長されるのではないか、とも言われています。
厚生労働省が2019年にも法案を提出する予定で、国会で認められれば成立するとみられています。
新たなルールでは、
- 権利を行使できることを知ったときから5年
- 権利を行使できるときから10年
が時効となります。請求できる期間が延びることで、社員が残業しないように会社が体制を整えたり、残業代をしっかりと支払うことが期待されます。
2.もらえる残業代を増やすために……時効を中断する3つの方法
前章で解説したとおり、残業代は一ヶ月ごとに時効を迎えていきます。
そのため、あなたが退職後に残業代を請求しようと考えていた場合、
日がたつにつれて、請求できる残業代の総額がだんだんと減っていってしまいます。
そんなときに利用できるのが
「時効の中断」。いくつかの手続きをすることで、時効をいったん取り消しておくことができるのです。
時効を止める(中断する)手段には、
①催告
②承認
③裁判での請求
の3種類があります。
以下、それぞれ詳しく解説をしていきましょう。
①催告
「催告」とは、金銭などの支払いを催促することです。
とはいえ、単に請求書を送るだけでは、法的に
「催告をした」とはみなされません。
内容証明郵便と呼ばれる特殊な方法で送付する必要があります。
内容証明郵便とは、郵便局が受け取った送付書類の内容を証明してくれるというもの。この方法を使って書類を送ることで、「確かに催告をした」という法的な根拠とすることができます。また、書類を確実に会社へ届けたことを証明するため、
配達証明というオプションもあわせて送るとよいでしょう。
また、
催告によって時効が止まる期間は6ヶ月間のみ。
この期間内に訴訟などの手続きを行わない場合、時効が成立してしまいますので注意してください。
内容証明郵便は自分で作成することもできますが、弁護士に書類を作成してもらい、弁護士の名前で出してもらうことで、会社にプレッシャーをかけることも期待できます。訴訟する前に、会社が未払い残業代の請求を受け入れてくれるかもしれません。
②承認
「分割払いにしてくれ」
「後日支払う」
「未払いの残業代があることはわかった」
などというように、
会社側が1円でも残業代の未払いがあることを一度でも「承認」した場合は、時効が中断されます。承認した期間の時効がリセットされ、ゼロから時効がスタートする形となります。
また「承認」があった場合、
すでに時効が成立している残業代も請求できる可能性があります。
例えば、8年分の未払い残業代を請求したとします。
本来であれば2年分しか請求できませんが、会社側が「8年分の未払い残業代がある」と一度でも承認すれば、8年分の未払い残業代を請求できます。後から会社が時効に気が付き、承認を取り消そうとしても、取り消すことはできません。
承認では、
会社が残業代があることを認めた証拠や時効以上の残業代を認めた証拠を残しておくことが重要です。
会社からきたメールは保管し、交渉の際はICレコーダーやスマートフォンの録音機能で音声データを残しておきましょう。
③裁判での請求
訴訟を起こすことでも、時効は中断します。
具体的には、
裁判所に「訴状」を提出し、訴状が受理された時点で時効が中断します。
裁判中に残業代の時効が成立し、長引くほどに得られる残業代が減っていく……。
そんなことはありませんので、安心してください。
3.なにをしていいかわからない場合の相談先4つ
時効を迎える前に素早く行動を起こそうとしても、まずは何から始めたらいいのかわからないということもあるかと思います。
そのようなときに役立つ相談先をご紹介します。
①労働基準監督署
労働基準監督署は、各会社が労働基準法を守っているのか監視し、問題があれば改善に向けた指導を行っている組織です。
労働問題全般の相談をすることができ、法律に基づいたアドバイスを受けることができます。ただし、個別の事件の解決に動いているわけではないので、注意してください。
電話番号 |
地域によって異なる |
受付時間 |
平日8時30分~17時15分 |
②全労連労働問題ホットライン
全国労働組合総連合(全労連)が運営している相談窓口です。残業問題だけでなく、パワハラやセクハラなどの様々な労働問題についてアドバイスしてくれます。
③職場のトラブル相談ダイヤル
全国社会保険労務士連合会が運営している、職場でのトラブルを相談する窓口です。ADR(裁判外紛争解決手続き)を使って会社との和解を仲介してくれます。
電話番号 |
0570-07-4864 |
受付時間 |
平日11時~14時 |
④法テラス(弁護士)
法的トラブルに巻き込まれて困ったときの相談窓口です。相談内容に応じて適切な関係機関や団体を紹介してくれます。
電話番号 |
0570-078374(PHS可)
(IP電話からは03-6745-5600) |
受付日時 |
平日の9時~21時、土曜日の9時から17時
(祝日・年末年始を除く) |
4.まとめ
- 未払い残業代の請求は、給料日から2年で時効となる。
- 不法行為により残業代が支払われていなかった場合は、損害賠償請求で3年間分の残業代を請求できることもある
- 残業代の時効を止める手段には、①催告②承認③裁判での請求の3つがある
おわりに
いかがでしたか。
未払い残業代は、基本的に2年で時効を迎えます。そのため、速やかに時効を中断し、会社との交渉や訴訟準備を行いましょう。
残業代請求の手順については、こちらの記事で解説しているので、参考にしてみてください。