この記事は以下の人に向けて書いています。
- 妊娠してからの職場の対応について「もしかして、マタハラかも」と思っている人
- マタハラにあっているが、相談や解決の方法がわからない人
- 子供が欲しいと思っているが、マタハラが怖いので予備知識をつけておきたい人
はじめに
マタニティハラスメント(マタハラ)は、妊娠している女性労働者に対して、退職の強要や配置転換、言及、陰口といった嫌がらせを行うこと。
働き方改革の一環として産休・育休制度の整備がととのえられてゆくなか、新たなハラスメントの形として問題となりつつあります。
マタハラの被害を受けた人に非はありません。しかし、いざ相談したくてもどこに行けばよいのか、特に初めての妊娠の際にはわからないものです。
この記事では、「マタハラかも」と思ったときに行いたいガイドラインや準備とあわせ、いざというときに頼れる相談窓口を紹介していきます。
マタハラに悩むあなたの助けとしてください。
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1.「マタハラかも」と思ったら…相談前に行いたい3つのこと
自分の妊娠をきっかけに、職場の人たちの態度が変わってしまった……。
そんなとき、マタハラに苦しむ人は自分を責めてしまいがち。
しかし、こうした状況に対処していくためには、まずは落ち着いて、上手く問題点や改善点を整理することが大切。
その足がかりとして、この章では事前に整理すべきことや準備したほうがよいものなど、「マタハラかも?」と思ったときのガイドラインを紹介していきます。
①まず必要なのは「メンタルのケア」。ひとりで悩まず相談を
マタハラに遭うのは、あなたの責任ではありません。
「忙しいときに妊娠してしまった」「職場の人に負担をかけてしまった」……そんな風に考えて、言われるがまま辛い気持ちをため込んでしまうのはとても辛いこと。特に身体面、精神面に大きな負担がかかる妊娠中であればなおさらです。
まずは悩みをため込まず、友人・家族など、自分の苦しさを共有してもらえる人を探してみてください。
もし周りに理解者がいない場合は、下記のような窓口もありますので、利用してみましょう。
こころの健康相談統一ダイヤル
0570-064-556
受付時間:各都道府県によって異なります。
詳細はこちらを参考にしてみてください。
|
話を聞いてもらうだけでも、きっと心が軽くなるはず。
それから対策に動き始めましょう。
②相談前にここをチェック!準備しておきたい3つのこと
体力的にも精神的にも辛い妊娠中は、何度も相談に足を運ぶのも難しくなります。
まずは事前に以下のことを整理・準備しておき、その後の流れをスムーズにしましょう。
- 時系列順に問題を整理する
「マタハラかもしれない。相談してみよう」と思ったきっかけは、どのようなものでしょうか? まずは問題と感じていることを自分ではっきりさせることで、動きやすくなります。
・いつから
・どのような内容で
・どう困っているか(体調・精神面・経済面・業務内容、職場環境など)
・今後どうしてほしいか
以上の4つを、メモや箇条書き程度でもかまいませんのでまとめてみましょう。
うまく思いつかなくても、とりあえずモヤモヤしていることを書き出していくうちに、問題点が整理できる場合があります。
- 証拠となるものを準備する
不利益や嫌がらせの内容を含む上司・部下・同僚らとのメールやチャットなどの通信記録、降格や不当な異動を含む辞令の通知、その他業務上で不利益をこうむった指示があれば、保管しておきましょう。
その他、嫌がらせなどがあったら、その都度日時や内容を記録したり、音声データをとっておくことも有用になります。
このほか、勤務先が妊婦本人への注意事項を具体的に把握するために、医療機関(主治医)が作成する書類があります。社内の相談窓口を利用するのであれば、そちらも用意しておきましょう。
この書類は「母性健康管理指導事項連絡カード」と呼ばれるもので、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードすることができるほか、母子手帳に添付されている場合があります。これ以外に、もし必要があれば診断書を提出することも検討しましょう。
- そのほか、相談時に気を付けたいこと
話し合う際に「この部分は問題ないが、ここは配慮が欲しい」などの要求のほか、体質、家族のサポート体制の有無などを含めたポイントの洗い出しをして、具体的にどうするかを明らかにしておきましょう。これにより不当な配置転換など、不利益な面で防げるハラスメントもあるはずです。
時期により体力や環境面で勤務先が配慮しなければならないことも変わってくることがあります(お腹が大きくなってきたので動きにくいなど)。勤務先とは一度ではなく、複数回話し合ったり、情報共有をしておいたりした方がマタハラ対策にもなります。
備考:どんなことがマタハラになるの?
各都道府県の労働局が提示している事例では、下記のようなケースがマタハラに相当するとしています。
- 退職の強要
- 職位の降格や不利な配置転換
- 雇用形態の変更(正社員からパートなど)
- 契約社員の雇い止め
- 自宅待機を命じる
- 減給
- 言葉や態度による嫌がらせ(妊娠・出産を理由にしたもの、必要な制度を利用したことによるものなど)
自分に当てはまる項目がないかをチェックしてみましょう。
また、
厚生労働省が2015年に実施したマタハラに関する調査では、受けた不利益のうちトップは
「迷惑だ」「辞めたら?」といった暴言でおよを50%。次いで「雇い止め」「解雇」がそれぞれ2割に達しています。
こうした行為を行った人物は「男性上司」がトップ。ただし、
同僚や部下でみると、女性の割合が男性よりも多くなるという結果が出ています。
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2.困ったときはここに相談!6つの窓口まとめ
準備を終えたら、相談に動いてみましょう。
マタハラに関する窓口について、以下の表にまとめてみました。
名称 |
電話番号・受付時間 |
①会社のハラスメント窓口など |
各会社による |
②総合労働相談コーナー |
各都道府県による |
③都道府県労働局雇用均等室 |
各都道府県による
月~金 8時30分~17時15分 |
④女性の人権ホットライン |
0570-070-810
月~金 8時30分~17時15分 |
⑤女性に優しい職場づくり相談窓口 |
メールフォームより相談 |
⑥職場のトラブル相談ダイヤル |
0570-07-4864
月~金 11時~14時 |
以下、個別に解説をしていきます。
①会社のハラスメント窓口
2017年1月1日以降に男女雇用機会均等法という法律が改正され、企業は労働者に対し、
妊娠・出産等を理由に、不利益を負わせることを禁じられました。
具体的には、
- 妊娠したことが理由で降格や減給といった不利益をおわせる
- 妊娠を理由とした嫌がらせに適切な防止措置をとらない
といった行為などがこれにあたり、また同時に、企業は社員へサポート制度の周知を行わなければなりません。
まずは、会社の
就業規則にどのような手当や休暇制度があるかを確認し、そのうえで、法律上の責任があるとして、会社からの対応をお願いしてみてください。社内にハラスメント窓口などがある場合はそちらも利用しましょう。
上司や同僚への申し訳なさがある人ほど、気まずさから黙ってしまいがちですが、妊娠といっても十人十色です。経験していない人はもちろん、経験者の言葉も完全に自分に当てはまるとは限りません。「悪いことをしているわけではない」と自信をもってください。
各都道府県の労働基準監督署や労働局内に設置している、職場のトラブルを相談できる窓口です。
専門の相談員が助言や相談を担当するほか
、都道府県労働委員会では、裁判所や
法テラスなどと連携した解決策の模索、紛争調停委員会による話し合いで解決を図る「あっせん」などを利用できます。
労働者がこれらの制度を利用したことにより、勤務先が当人に対し不利な扱いをしたりすることは法律で禁じられています。
男女雇用機会均等法、マタハラ、その他業務上で性別による差別などを受けた際の相談先です。
受付時間:月~金 8時30分~17時15分(土日祝・年末年始除く)
④女性の人権ホットライン(法務省)
女性の人権問題にまつわる相談を専門に扱う窓口で、法務局の職員などが対応します。
電話番号:0570-070-810
受付時間:月~金 8時30分~17時15分
インターネット:
こちらから受け付けています
厚生労働省の外郭団体が運営する、働く女性の妊娠・出産をサポートする窓口です。
ここの入力フォームから相談でき、産婦人科医師や社会保険労務士が回答します。
ただし、こちらはあくまで本人が行動を起こすことを前提とした窓口。解決に向けてより具体的に動いてほしい場合は、ほかの相談窓口を利用するようにしてください。
全国社会保険労務士連合会(社労士会)が運営する、職場の問題解決のための相談窓口です。電話での相談後、社労士との面接で問題を把握し、解決を図ります。
電話番号:0570-07-4864
受付時間:月~金 11~14時
これ以外にも、区役所や市役所、ハローワーク、民間の支援団体などもあります。窓口には何度か通うことになる可能性もあるので、移動や相談がしやすい場所を選びましょう。
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3.それでも解決しなかったら…弁護士に相談する理由2つ
これまでの手段で解決しなかった場合は、
弁護士を頼ることも検討しましょう。
「別に訴えたいわけではないのだけど……」と思う人も少なくないかもしれませんが、弁護士への依頼は必ずしも裁判に繋がるとは限りません。
企業側との交渉や、自分が現在困っているのが「マタハラ」として法律のどの面で問題なのかなど、客観的で公正な判断のもとに解決を考えてくれる味方になります。
ただし、実際に解決に動く場合の着手金のほか、相談にも費用がかかる場合がありますので、相談しようとする弁護士事務所のサイトなどで事前に確認をしておきましょう。
①弁護士の探し方と依頼の方法は?
- 弁護士を探そう
インターネットで検索したり、自宅や職場近くにある弁護士事務所に問い合わせたり、知り合いの紹介を頼んだりするといった探し方があります。また、地域の無料法律相談などを利用し、実際に対面で話してみる方法もあります。
身近な弁護士を探すには、日本弁護士連合会(日弁連)のサイトから探すのがいいでしょう。
労働問題を主に扱っていたり、子育てや女性の権利問題について活躍する弁護士もいますので、自分に合った人を選びましょう。自宅や職場から近い場所の方が、移動面でも体力的に楽になります。
- 証拠を持っていこう
記事の冒頭で紹介した証拠は、弁護士への相談の際にも使うことができます。
もしも裁判になるときには、どのようなものが有効かの判断も必要になりますので、手元に保管しているものは全て持参して話をした方がいいでしょう。
②どんな名目で訴訟を起こせるの?
マタハラに関係のある名目の訴訟や解決策としては、下記のようなものがあります。
- 労働審判
解雇や給与のトラブルを解決する手段のひとつです。3回以内の審理(お互いの主張の確認)で終了するため、早期解決を目指す場合には比較的むいている方法です。労働審判員(裁判官)らによる話し合いを持ち、会社と従業員両方の言い分を聞いて、判決を出します。
裁判所のウェブサイトでも詳しく説明しています。
- 地位確認
被害者の法律上の権利が存在するかどうかを争う裁判です。
マタハラでは2012年に、妊娠している女性が本来の業務から簡単な業務へ配置転換および降格され、育休から復帰しても本来の業務に戻れなかったケースについて適用されました。
女性は降格が男女雇用機会均等法違反であるとして、損害賠償を請求。この判決は、企業側の扱いが不当であるとして、マタハラでは初の最高裁まで争った判例となります。
- 不当解雇または解雇無効
違法性のある解雇、労働契約を無視した企業からの一方的な解雇、労働者の意思を尊重しない強制的な解雇や退職の強要などがこれに当たります。もしも不当だと感じたら「解雇理由証明書」の発行を求めるなどして、適切な措置を取り、「解雇無効」の地位確認を勤務先に求めましょう。
退職の強要などで「もしも不当解雇にあったら?」は、こちらの記事でも解説しています。
- 損害賠償
嫌がらせに対する心身の損害、不当解雇における金銭的な補償を求めるもので、慰謝料などがこれに含まれます。「違法性がある」または「契約を守られなかった」ことに対して請求できるものです。
損害賠償請求に関しては、下記の記事でも詳しく解説しています。
- 雇い止め
有期雇用の契約社員が、契約期間満了後に企業から一方的に契約を更新しないことを告げられるケースです。契約期間は満了しているためにただちに違法とはなりませんが、「更新が前提であること」「長期にわたり更新が続いていた」などの理由があれば、違法性がある可能性があります。
雇い止めにあった場合の対策は、下記の記事でも紹介しています。
4.まとめ
- 暴言やいじめ、不利な雇用環境はマタハラ。勤務先にも改善する義務があります。
- 相談できる公的機関はいくつもあります。自分にあったところを選びましょう。
- 訴訟以外の名目でも弁護士は味方になってくれます。気軽に相談してみましょう。
おわりに
妊娠している女性への嫌がらせに「マタハラ」という名前がついてまだ数年。認知度は上がってきましたが、「なにが嫌がらせなのか」に思いが至る人は未だに多くありません。それにより、企業内の「気を遣ったつもり」がハラスメントにつながるという誤解が生じるケースが未だに続いています。
課題は多いですが、法改正もなされました。利用できる制度や窓口は大いに利用し、妊娠期間を乗り切りましょう。いざとなれば、法律があなたの味方になれるかもしれません。
せっかく授かった家族を大事に育てていきつつ、あなた自身の心身も大事にしていきましょう。