損害賠償とは?請求方法、相場、注意点…基本の知識をまるごと解説!

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投稿日時 2019年01月18日 16時59分
更新日時 2019年09月05日 14時53分

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • なんらかの被害にあい、損害賠償請求を考えている人

  • 自分が抱えているトラブルは損害賠償請求ができるか知りたい人

  • 損害賠償請求の手順や金額が知りたい人


はじめに

損害賠償請求は、相手が「契約を守らなかった」場合、または「違法な手段を用いた」ことにより損害を受けたときに、損害の内容について金銭的な補償を求めることができるものです。

交通事故や不倫問題などではよく耳にするものですが、ほかにはどのようなケースで、どうやって請求することができるのでしょうか。この記事では損害賠償を求められる主な名目や、相場について解説していきます。

1.なにができる?損害賠償請求の決め手となる2項目



損害賠償請求は、相手が「契約を守らなかった場合」または「違法な手段を用いた」ことにより、本来受け取れるべき利益(金銭のほか、物品やサービスを含む)が受け取れず、それによって損害が生じてしまったときに、損害の内容について相手に金銭的な補償を請求できるものです。

請求できる相手は個人のほか、企業などの団体、自治体や国など公的機関でも構いません。


①どんな名目で請求できるの?


  • 「契約を守らなかった」場合

    相手が自分との間の契約など、なんらかの義務の取り決めを守らなかったときは「債務不履行」となり、損害賠償請求の対象となります。サービスに関する契約のほか、企業と従業員の労使関係で結ばれる労働契約などもこれに当たります。

    守れないパターンとして

    ・「遅れてしまった」(履行延滞)
    ・「できなかった」(履行不能)
    ・「一部しか実行できなかった」(不完全履行)


    の3つがあります。

    例えば自分が相手に金銭を貸していた場合、期日までに支払いがなされなかったり、支払い能力がなかったり、一部しか返済されなかったりといったケースが当てはまります。


  • 「違法な手段を用いた」場合

    詐欺や暴行などの行為でなんらかの損害を与えられる「不法行為」は、被害者にとって損害賠償請求の対象です。

    この場合は故意か過失かは問われないため、わざと違法な手段をとったときはもちろん、うっかりやってしまった行為が結果的に違法となってしまった場合も対象です。


②なにを請求できるの?

次に、損害賠償で請求できる主な項目を見ていきましょう。

請求できるものは大きく分けて2つあり、「実際の被害」(積極障害)と「事故等がなければ本来得られたはずの利益」(消極障害)となります。

主な積極障害は以下の通りで、被害を回復して元の状態に戻すために必要な費用を指します。

  • 治療費

    暴行や事故によるけが、職場環境や精神的苦痛などで発生した病気等を治療するための費用全般。後遺症が残ったときにも支払われます。


  • 葬祭費

    被害者が亡くなってしまった場合の葬祭費用全般。


  • その他弁償(物損、金銭的被害)

    相手の物を壊してしまったり、金銭的被害を与えてしまったりしたときに、それを回復するための相応の費用。



次に、主な消極障害は以下の通りで、精神的苦痛を金銭に換算したものとして、被害者に支払われるものを指します。

  • 慰謝料

    不倫や様々なハラスメント(嫌がらせ行為)など、加害者から精神的な苦痛や被害を受けたときや、名誉を棄損されたときに、苦痛を金銭的な価値に換算して請求できる費用です。


  • 逸失利益(損害を受けなければ得られたはずの利益)

    けがで仕事ができなくなったり、様々なハラスメントで勤務を続けられなくなったときや、事故などで一家の収入を担う被害者が亡くなってしまったりしたとき、原因の行為がない本来の状態ならば得られたはずの利益です。


③示談金とは?損害賠償とどう違うの?

ところで、損害賠償とともによく一緒に聞く「示談金」とはなにを指すのでしょうか。

示談そのものは裁判ではなく、あくまでも当事者同士の話し合いです。示談金は相手と自分が双方合意の上で決めた支払い金のことで、慰謝料や治療費など全ての損害賠償金が含まれます。つまり、司法の判決によって金額が決まった損害賠償金ではないということです。

2.請求の相場はどうなっている?気を付けたい注意点2つ



それでは、もし自分が被害者になってしまったとき、損害賠償金はどうやって請求したらいいのでしょうか。また、相場はどのくらいになるのかを見てみましょう。

②どのくらい請求できるの?

金額の決め方は、

  • 物損や財産的な損害の場合はその損害に相当する金額
  • 死亡した場合は、本人および遺族への慰謝料と逸失利益
  • 傷病の場合は実質的な治療費
  • 障害が残る場合は、認定された障害の等級
  • 精神的な苦痛に対しての相当額

に応じて支払われることになります。

また、相手ではなく損害賠償を請求する側(自分)にも過失があった場合は、「過失相殺」といってその分の割合が差し引かれた額が受け取れる賠償金になります。

損害賠償が多く争われる自動車事故については基準があり、

  • 自動車損害賠償責任保険(自賠責)基準
  • 任意保険基準
  • 弁護士基準

の3つがあります。

自賠責基準は自動車の所有者に加入が義務付けられている、交通事故などで使われる強制保険です。法律で最低限の賠償ができるのがこの基準です。傷害では120万円、常時介護が必要となる障害では4000万円、死亡では3000万円が上限です。

任意保険基準は保険会社各社が独自に定めているもので、自賠責以外で保障できる部分を担っているため、自賠責よりは金額が高くなります。

弁護士基準は「裁判基準」とも呼ばれるもので、弁護士会が過去の裁判例などを元に定めているもので、3つの中では最も金額が高い設定になっています。自賠責との差はおよそ2倍程度になることもあるようです。

このほか、不倫などの慰謝料は個別の事情があるものの、おおむね200万~500万円である場合が多いようです。離婚の場合は慰謝料のほか、財産分与など別の金銭問題があります。

③時効があるので注意!

ひとつ注意すべきことは、不法行為による損害賠償は加害事件の発生後にいつまでも請求できるわけではなく、時効が決まっているという点です。

被害者が傷病などで身動きが取れず、手続きがスムーズにいかなかったりする場合があるので、周囲の協力も視野に入れながら請求を目指しましょう。

時効については

  • 相手(加害者)の住所氏名を知ってから3年
  • 相手が誰かわからない状態であれば、事故などの不法行為の発生から20年

と法律で定められています。

3.どうやって請求する?必要なものと手段、支払い拒否の対策3ポイント



それでは、損害賠償はどうやって請求すればいいのでしょうか。まず必要なものと請求のための手段、さらに支払い拒否をされた場合について紹介していきます。

①損害賠償請求にはなにが必要?


  • 証拠を集める

    加害者の情報(企業や団体または個人の連絡先など)、具体的な被害状況(メモや写真、動画など)、証拠になり得る書類(メールやチャットなどの通信記録、傷病の治療をした診断書など)がこれに当たります。

    弁護士や警察、保険会社など当事者以外が見ても損害がわかる、客観的なものであることが重要ですが、わからない場合は考えられる関係書類をひとまず全て保管しておき、弁護士などの判断を待ちましょう。

    また当事者同士の示談を視野に入れている際は、証拠を集める前に加害者に証拠を消されたり、修正や修理をされたりすることがないよう、万が一への注意が必要です。

ここで集めた証拠は、次で紹介する解決先のどこでも必要になってきます。


②自分に合った方法を選ぼう!損害賠償請求の6つの手段

損害賠償請求というと、裁判で金銭を取り戻すことをまず思い浮かべます。

しかし、裁判は時間も費用もかかり、気軽に起こせるものではありません。こうした困難を解決するために、裁判以外の方法でも損害賠償の請求ができるようになっています。

下記にその手段を紹介していきますので、自分に合ったものを選びましょう。


  • 示談をする

    弁護士などを交えず、加害者と被害者の当事者だけで話し合いを行い、解決を目指す手段ですが、加害者と被害者という関係上、証拠隠滅や損害賠償金の額などの面でトラブルになる可能性も高いため、大事な内容は書面で残すなど慎重に行う必要があります。


  • 弁護士に相談する

    トラブルが発生した時点で、早めに弁護士に相談する方が解決がスムーズにいく確率が高くなるでしょう。

    加害者へ損害賠償をする要請として内容証明郵便の送付、その先の加害者との交渉なども依頼することができます。それでも解決が難しいようであれば、訴訟に踏み切ることも視野に入れましょう。相談や実際の着手に入ると費用がかかります。

    内容証明郵便でできることは、こちらでも紹介しています。


  • 紛争解決センターを利用する

    日本弁護士連合会(日弁連)が運営する、「紛争解決センター」を利用する方法もあります。

    これは、「裁判外紛争処理手続」(ADR)という制度を使い、話し合いによる解決を図るものです。日常的な少額の損害賠償請求にも向いているとされ、話し合いがまとまらないときは当事者双方が仲裁を選び、仲裁人が「双方が仲裁できる基準」を作って話し合います。ここでの結論は裁判での判決と同じ効力を持ちます。


  • 民事調停を使う

    当事者同士の話し合いで解決を目指すものですが、示談とは異なりこちらは公的な手段で、専門の調停委員が双方の言い分を聞いて、合意を目指すものです。おおむね3ヶ月以内の調停成立が可能であり、早期の解決を図ることができます。

    加害者の居住地にある簡易裁判所に、「申立書」を提出し、手数料を支払って、当事者の呼び出し(調停)を経て話し合います。裁判のように一般には公開されませんので、プライバシーも守られます。

    手続きも裁判ほど複雑ではなく、申し立て書類は裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。


  • 民事訴訟を起こす

    加害者の居住地にある地方裁判所に訴えを起こすことができます。裁判所が訴訟のための書類(訴状)の書式をウェブサイトで公開していますので、自分または司法書士に依頼して訴状を作成するか、最初から弁護士に依頼して裁判をするという手段があります。

    訴えるための証拠書類や費用も必要ですので、過不足なく準備をするようにしましょう。


  • 集団訴訟を起こす

    同じ加害者から損害を受けた被害者を集めて、集団訴訟を起こすという方法もあります。

    ひとり当たりに見込める損害賠償金が少額である場合、個人での裁判には踏み切りにくいケースがありますが、同じ加害者を同一の被害内容で訴えることができる仲間が複数いれば、集団訴訟を検討してみてもいいでしょう。訴訟費用が少なく済んだり、自分にはなかった有用な証拠を持っている人が見つかったりする場合があります。

③支払いや引渡しを拒否されたら?

しかし、このように手順を踏んで相手が損害賠償金を支払うことになっても、こちらが必ず受け取れるとは限りません。相手に支払い能力がない場合や、なんらかの理由で支払いを拒否される可能性があるためです。

示談ではなく裁判によって損害賠償金の支払いが決まったときにこのようなケースが発生したら、裁判所が「保全手続き」という制度を使います。

これは、相手方の財産や不動産などを仮に差し押さえて、売却などができないようにする手段で、支払いがなされなければ強制執行手続きにより競売などで回収するという流れになります。

このほか、裁判所の強制執行は金銭の回収を目的とする金銭執行以外に、物品の引渡しや行為の実現を目的とする非金銭執行があります。

非金銭執行の場合は、執行官が直接、目的の物品を相手方から強制的に取り上げて引渡したりといった処置がなされる場合があります。

4.まとめ

  • 損害賠償請求は、相手が「契約を守らなかった場合」または「違法な手段を用いた」ことに対して請求が可能です。

  • 裁判以外にも様々な方法で損害賠償請求ができるので、費用や方法など自分に合ったやり方を選びましょう。

  • もしも金銭が支払われなければ、裁判所が強制執行することもあります。

おわりに

なんらかの被害にあったとき、精神的なショックや身体のダメージ、それによる苦しみは当事者にしかわかりません。そんなとき、損害賠償はなるべく全てを取り戻したいもの。

しばらくは呆然として動けない……ということもあるかもしれませんが、時効までの時間も迫ってきます。自分に合った方法を選び、周囲の力や弁護士などの専門家の力を借りて、少しでも取り戻せるように動き出しましょう。

※こちらの情報は2019年1月現在のものです。損害賠償請求などを定義する民法は改正が決まっており、2020年4月1日の施行が予定されています。


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