この記事は以下の人に向けて書いています。
- 就職予定の会社がフレックスタイム制を採用しており、詳しい内容を知りたい人
- 会社からフレックスタイム制の魅力を説明されたが、デメリットも参考にしたい人
- フレックスタイム制がどんな働き方になるのか知っておきたい人
はじめに
フレックスタイム制とは、自分で勤務時間や出勤時間を自由に選べる制度のこと。
会社にあまり縛られない働き方ゆえに、魅力的に感じている人が多いかもしれません。
ただ当然ながらメリットがあればデメリットもあるのが制度というもの。フレックスタイム制の場合、ルールをきちんと理解していないと
気づかないうちに残業代などで損をしてしまう場合もあります。
今回はフレックスタイム制度の基本的なルールやメリット・デメリット、ありがちなトラブルについて解説。
2019年4月からの制度変更についても紹介しますので、あわせて就職や転職活動の参考としてみてください。
1.フレックスタイムとは?仕組みとメリット・デメリット
まずはフレックスタイム制の基本的な仕組みについて、メリット・デメリットもあわせてご紹介します。
①「自分で働く時間を決められる」のがフレックスタイム制
フレックスタイム制は、
1日の勤務時間や出勤時間を会社が決めるのではなく労働者に委ねる制度です。
通常の勤務形態が週5日9時~17時と定められているのに対し、フレックスタイム制は労働者が月曜日は10時~15時、火曜日は12時~19時……というように、働く時間を変えることができます。
- 出社時間が一部だけ決められているケースも
ただし、労働時間をまるっきり自由に決めて良いというわけではない場合も。会社によっては「この時間帯は必ず働かなければならない」というコアタイムを定めているところもあるからです。
たとえば11時~15時がコアタイムの場合、12時に退勤したり14時に出社したりするのは基本的にNGということになります。
②フレックスタイム制のメリット・デメリット
では、フレックスタイム制のメリットとデメリットにはどんなものがあるでしょうか。以下の通り表にまとめてみましょう。
- メリット
ある程度自由に出社・退社ができる |
通勤ラッシュを避けられる |
自分の判断で仕事ができるため、モチベーションが上がりやすい |
仕事のない日は早く帰ることができる |
家族や子供の用事に合わせやすい |
- デメリット
残業代が少なくなる場合がある |
仕事時間が少なすぎる場合、会社によっては給与が減額されることも |
仕事のペースを自己管理する力が求められる |
明確な就業時間がないので、長時間労働になりがち |
取引相手が通常の勤務形態の場合、結局はそれに合わせてしまうことも |
③2019年4月から制度が変わる?その内容とは
これまでのフレックスタイム制では、総労働時間を決める一定期間(精算期間)の単位が最長で1ヶ月と決められていました。
しかし国の働き方改革による労働基準法改正により、
2019年4月からその期間が3ヶ月に延長されることになりました。
これにより例えば、
・子供の夏休みに合わせて8月の労働時間を少なくし、6月と7月は多めに働く
・年末年始の長期休暇を取った分、2月と3月で調整する
といった働き方が可能となります。
2.事前にチェック!フレックスタイム制で働く際に気を付けたいこと
労働者が柔軟に働くことができるフレックスタイム制は、さまざまな会社が取り入れ始めていることから、名前が広く知られるようになりました。
ただ細かなルールまで理解されているのかというと、そうではないのが現状。この章では、
フレックスタイム制の会社で働く前に知っておきたいことをご紹介します。
メリットとデメリットを確認し、「自分はやっぱりフレックスタイム制が向いているし、就職しよう」と思ったら、なおのこと抑えておきたい重要なポイントです。
①きちんと決められている?フレックスタイム制に必須のルール
フレックスタイム制は、そもそも会社側が勝手に設けて良いものではなく、導入するためには次の項目を労働者に明示しなければいけません。
- 対象となる労働者
それぞれの労働者に対してなのか、ひとつの課なのか、全従業員なのかなど適用される相手を示す必要があります。
- 精算期間の範囲
「毎月○日から2週間」というように、フレックスタイム制が始まる日(起算日)を指定しなければいけません。期間は最大1ヶ月、2019年4月からは3ヶ月となります。
- 期間内の労働時間
精算期間内の総労働時間を何時間にするのか定めるのも不可欠な要素です。法律で上限が決められていて、これを超えて設定することはできません。
精算期間 |
上限時間 |
28日 |
160.0時間 |
29日 |
165.7時間 |
30日 |
171.4時間 |
31日 |
177.1時間 |
- 1日あたりの標準的な労働時間
有給休暇などを取るときの計算に使われます。
例えば総労働時間が160時間、1日の標準時間が7時間と決められている人が有給休暇を2日取得したときは、160時間-14時間(7時間×2日)=146時間が実際に働く時間となります。
もしフレックスタイム制で働く際には、「ルールが守られているか」「具体的にどのように規定されているのか」を、労働条件通知書や雇用契約書に目を通してチェックしてください。
②フレックスタイムでも残業代は出る!確認しておきたい残業ルール
あらかじめ総労働時間が決められ、その中で自分の働きやすように勤務時間や労働時間を調節できるのがフレックスタイム制です。
ただ業務量によって総労働時間がオーバーしたり、反対に下回る可能性も十分にあり得ます。
その場合、次のようなルールが決められています。
- 決められた労働時間を超えた場合のルール
もしあらかじめ決められた総労働時間を超えた場合、会社は残業代を支払う必要があります。また法定労働時間(法律で決められた時間)を上回ったときは、必ず通常よりも高い賃金を支払わなければなりません。
- 決められた労働時間を下回った場合のルール
予定していた労働時間を下回った場合、会社によっては下回った分の時給を減らすか、下回った分の労働時間を翌月の所定労働時間に足すか、いずれかの処置を取るときがあります。
ただしもし繰り越す際には、上記の上限時間(30日の場合は171.4時間など)を超えてはならないとされています。
導入のルールをチェックする際に、これらも合わせて確認するようにしましょう。
3.ありがちな「残業代」トラブル…こんなケースに注意!
フレックスタイム制では、通常の勤務形態と異なるため残業代のルールもいろいろな違いがあります。
ただ会社によってはその違いを理解しておらず、労働者が不利になるような
誤った運用の仕方をしているところも……。
この章では残業代を巡って起きがちなトラブルのパターンや、困ったときの相談先をご紹介していきます。トラブルを未然に防ぐだけでなく、巻き込まれても冷静に対処できる術としてください。
①深夜残業や休日出勤が加算されていない
まずありがちなのが深夜残業や休日手当が出ていないケース。
フレックスタイム制であっても、繁忙期などで労働が深夜の時間帯(22時~翌5時)に及んだ場合は、通常の勤務形態と同様に
25%の割増賃金を会社は支払わなければなりません。
またこの制度は1日1日の勤務時間や出勤時間を自由に決められるだけであり、
休日は少なくとも毎週1日、または4週で4日取らなければならないと労基法で定められています。従って休日に出勤した場合は各割増率に沿って手当がつきます。
②そもそも残業代についての取り決めがない
フレックスタイムでは通常の勤務形態のようには残業代が出ないことを曲解し、そもそも残業代についての取り決めをしていない、というケースです。
確かにあらかじめ会社が決めた総労働時間を超えなければ会社は残業代を支払う必要はありませんが、
それを超えた分については支払う義務があります。
また残業によって、国が決めている上限時間(30日の場合は171.4時間など)を超えた場合は、
割増手当がつきます。
③前月に働いた時間が無制限に繰り越されている
あらかじめ決めた時間を下回っている場合は、翌月に上限の繰り越しが可能です。ただし法定労働時間の上限を超えて加算することは、できる限り避けたほうがいいとされています。
もし法定労働時間を超える場合、当然ながらその分の割増賃金を労働者に支払わなければ違法。
たとえば毎月の総労働時間が160時間と決められ、4月の実際の労働時間が140時間だった場合を考えてみます。
このとき、4月にあまった20時間を翌5月に繰り越したとしても、(160+20)時間-177.1時間(法律で定められた時間)=
2.9時間分の残業代が支払われることになります。
④2019年4月以降の清算方法に従っていない
2019年4月以降のフレックスタイム制度では、従来とは異なる方法で残業代が算出されます。
「1ヶ月ごとの平均労働時間が週50時間を超える」
「決めた期間が終わったときの平均労働時間が週40時間を超える」
以上の場合は法定外残業として扱われ、割増手当の対象となります。そのため旧ルールと新ルールでは残業代の額に差が生まれるので注意が必要です。
ではもし時給1000円の人が、1ヶ月目は平均週45時間・2ヶ月目は平均週55時間・3ヶ月目は平均40時間働いた場合、新旧のルールでどのくらい残業代が異なるのか見ていきましょう。
- 旧ルール(精算期間1か月)の場合
精算期間が1ヶ月の場合、各月によって残業代が精算されます。
1ヶ月目は1週間の法定労働時間が40時間なので、法定外残業は週5時間。1か月4週として計算とすると、月の残業時間は5時間×4週=20時間。
法定外残業の割増率は25%なので、残業代は、1000円(時給)×20時間(残業時間)×1.25(割増率)=25000円。
2か月目は月の残業時間が15時間×4週=60時間で、残業代は1000円(時給)×60時間(残業時間)×1.25(割増率)=75000円。
3ヶ月目は平均40時間なのでなし。
まとめると、旧ルールでもらえる3ヶ月分の残業代は25000円+75000円+0円=100000円となります。
- 新ルール(精算期間3か月)の場合
まずは1ヶ月ごとの平均労働時間で週50時間を超えている月から残業代を出します。
1ヶ月目が55時間なので、法定外残業は週5時間。従って残業代は、1000(時給)×20時間(1ヶ月の残業時間)×1.25(割増率)=25000円です。
次に決めた期間が終わったときの平均労働時間から残業代を出します。
3ヶ月平均の週労働時間は(45時間+55時間+40時間)÷3ヶ月=46.7時間。従って3ヶ月合計の法定外残業は(46.7時間-40時間)×4週×3ヶ月=80.4時間。
残業代は1000円(時給)×80.4時間(残業時間)×1.25(割増率)=100500円。
ここから先に精算した週50時間以上の残業代が引かれるので、新ルールでもらえる3ヶ月分の残業代は100500円-25000円=75500円となります。
⑤もしもトラブルにあったら……相談先3選
最後に、もしフレックスタイム制の会社でトラブルに巻き込まれた場合に役立つ相談先をご紹介します。
また下記でも他の相談所の詳細や受付時間を紹介しているので、参考にしてください。
4.まとめ
- フレックスタイム制にはメリットとデメリットがある。
- もし就職しようと思ったら、事前に導入や残業のルールを確認しておこう。
- トラブルになりがちな残業代はもらえるべきものがもらえているかチェックする。
おわりに
ワークライフバランスが取りやすい勤務形態として導入されているフレックスタイム制。
ですが良い点や悪い点をきちんと理解していないと、思わぬ落とし穴にハマってしまいます。
「こんなはずじゃなかった……」とならないように、この記事を参考に理解を深めていきましょう。