労災隠しは違法!ありがちなケース5パターンといざという時の対処法

このエントリーをはてなブックマークに追加
投稿日時 2018年12月28日 18時12分
更新日時 2018年12月28日 18時12分

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • 労災にあったが、勤務先に申請を拒否された人

  • 労災隠しにあったら治療費はどうしたらいいのかを知りたい人

  • 労災隠しの実態、違法性を知りたい人

はじめに

「労災隠し」とは、労働災害が発生した際に、事業者が労働者に対して適切な治療や措置を取らず、労働者に対して口止めをしたり、労働基準監督署への報告義務を怠ったり、虚偽の報告をしたりする違法行為を指します。

労働者にとって、労災の発生後は心身ともにつらい状況に置かれていることが多いでしょう。勤務先から適切な処置をなされていない場合は、より困難があるかもしれません。

どんなケースが労災隠しに当たるか、また労災隠しをされているとしたら、どんな手段を取ったら良いのでしょうか。この記事では自身の身を守る方法や、取るべき対応について紹介していきます。

集団訴訟プラットフォームのenjinで被害を取り戻そう

証拠や費用をみんなでシェア。

無料登録する

1.労災隠しの基礎知識!5つの該当行為と企業への罰則



勤務先に労災隠しをされているとしたら、労働者が本来持っている権利を奪われていることになります。

まずは、労災隠しとはどんなものなのか、そもそもなぜ企業は労災隠しをしてしまうのかを解説していきましょう。


①労災隠しはどんなもの?該当する5つの行為

労働災害(労災)とは、勤務中や通勤、退勤中に発生した事故などが原因で怪我や病気になることを指します。

労災が発生した際、企業は労基署に報告する義務があり、これを怠ったり、報告をしなかったりすると「労災隠し」となり、違法に当たります。

労災隠しにあたる行為は下記の5つです。

  • 迅速な報告をしなかった(4日以上の休業または死亡の場合は「遅滞なく」、4日未満の休業の場合は、3ヶ月に1回報告をしなければならない)

  • 報告そのものをしなかった、労働者に口止めさせた

  • 虚偽の報告をした

  • 治療に健康保険証を使わせた

  • そもそも労災保険に加入していなかった


②労災隠しが発覚するとどうなる?会社への罰則内容

①で紹介したような労災隠しが発覚した場合、その企業は50万円以下の罰金対象となるほか、会社や経営者が警察から取り調べを受けることもあります。

また労災保険は全ての事業主に加入が義務付けられていますので、そもそも加入していない場合も違法となります。

また、労災そのものではなくても、企業には労働環境を整えたり、改善したりするなどの義務があり、これを怠ると安全配慮義務違反や、労働者との間の労働契約上における債務不履行となり、労働者はこれに対して訴訟を起こすことも可能です。

③なぜ企業は労災を隠すの?主な3つの理由

不法行為でありながら、企業が労災を隠したがる理由には、どんなものがあるのでしょうか。

  • 支払う保険料が上がるから

    労災隠しがはびこる大きな理由のひとつとして「メリット制」と呼ばれるものがあります。

    簡単に言えば、労災が発生しなければ企業が支払う保険料が安くなり、労災報告が多ければ高くなるという仕組みです。従業員100人以上の企業には自動的に、また危険な作業を伴う事業者などが適用されます。建設業以外で社員が20人未満であれば適用されません。

    また、死亡事故などの重篤な労災が発生した場合は、労基署が災害調査に立ち入ることがあり、その間は事業が止まってしまうこともあります。


  • 今後の事業に響くから

    労災が発覚すると、同業者からは敬遠されたり、場合によっては行政からの営業停止処分などを受ける可能性もあり、今後の受注状況などにも影響するでしょう。大ごとになれば報道されることもあるため、なるべく表沙汰にしたがらないといったケースもあります。


  • 請求方法がわからないから

    労災手続きが煩雑であったり、そもそも担当者がやり方をよくわかっていないために放置されてしまい、労災にあった労働者自身にも知識がなくそのままになってしまった……というパターンもあるようです。自分の身を守るためにも、労災の基本は知っておいて損はないでしょう。

集団訴訟プラットフォームのenjinで被害を取り戻そう

証拠や費用をみんなでシェア。

無料登録する

2.こんなときはどうすればいい?ありがちな労災隠しのケースと対処法



企業が労災隠しをする際、労働者が言われがちな言動を紹介し、対応策を挙げていきます。

あてはまるケースがないかどうか、確認をしてみてください。

①自分は大丈夫?ありがちな労災隠し6つのケース


  • 「アルバイト・パート・非正規雇用は労災がつかないと言われた」

    労災認定に雇用形態は関係なく、事業主に雇われた労働者であれば誰でも適用されます。給付額などにも差はありませんので、「自分は正社員じゃないから」といって諦める必要はありません。

    ここでいう「労働者」は労働基準法で定められている「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」であり、アルバイトやパートも含まれています。


  • 「うちは労災に加入していないと言われた」

    雇用形態にかかわらず、労働者を1人でも雇用している事業主には労災加入の義務があります。加入していないことが発生した場合、国が未加入時期までさかのぼって追徴金を徴収し、差し押さえなども行います。


  • 「健康保険証を使って治療するよう言われた」

    労働者側も労災の仕組みを知らない場合に聞き入れてしまいがちですが、仕事中の事故による怪我や病気について、健康保険証を使って治療することは違法となります。

    もしも知らずに保険証を使ってしまった場合は、まず受診した病院に健康保険から労災保険への切り替えができないかを確認してみてください。切り替えができない場合は、いったん治療費を全て自己負担で支払い、改めて労災を請求することになります。切り替えられる場合は、窓口で支払った金額が返金されます。


  • 「自分の不注意だから、労災ではないことにしろと言われた」

    これは明らかな労災隠しに当たります。労働者の不注意であったとしても、被害の原因が仕事中に発生したもの(業務遂行性)または業務内容に関係あるもの(業務起因性)であれば労災は認定されます。

    よくある誤解として通勤途中の事故は労災ではないとするものがありますが、勤務先に向かうこと(私的な立ち寄りを含まない)は「業務内容に関係があるもの」と扱われ、労災の対象となります。


  • 「治療費など別の名目で金銭を支払われ、労災扱いにはならなかった」

    金額によっては労働者側にとってデメリットではない場合があるかもしれませんが、企業は労災が発生した際、労基署へのすみやかな報告が求められています。金銭を支払うことによって労働者が口止めをされたり、企業が報告を怠っていたりした場合も労災隠しに当たります。


  • 「下請けの労働者には支払わないと言われた」

    建設現場などで下請事業者の労働者に労災が発生した場合、元の発注者が労災を申請しなければなりません。「今後の受注に響くから」と下請け事業者側が及び腰になってしまうケースがありますが、これも労災隠しにあたってしまいます。

②基本は通報!労災隠しの対処法

もしも企業が労災申請に協力してくれない場合は、自分で労働基準監督署に行き、相談をしましょう。

労災の申請は、退職してからでも可能です。ただし、申請する内容によって時効があるので注意してください。

労災で補償されることの種類と時効を、下記の通り表にまとめました。


  • 自分で労基に行く

    企業に対応してもらえない場合は、自分で労基署に報告をしましょう。この際、自分で治療を受ける際には、労災指定病院を選びましょう。その後の手続きがスムーズになります。労基署で自分の補償に相当する(傷病や休業など)書類を入手し、企業の記入欄は未記入で、企業からの添付書類がなくても申請できます。

労災にはどのような補償があるかは、こちらの記事でも紹介しています。



3.会社に責任がある場合は、あわせて損害賠償請求も可能!



パワハラ、長時間残業などによるうつ、上司からの暴力によるケガなど、被害の原因が会社にある場合は、訴訟を起こして損害賠償を求めるという手段もあります。

これは仮に労災が認定され、すでに補償を受けている場合であっても、別個に行うことが可能です。

ここでは、もし会社を訴える場合に必要な知識や手順について解説していきます。

集団訴訟プラットフォームのenjinで被害を取り戻そう

証拠や費用をみんなでシェア。

無料登録する

①訴訟によって請求できるもの

先ほども書いた通り、労基署への通報と、勤務先企業への訴訟は、それぞれ別個のものとして手続きが可能です。

ただし注意したいのは、労災補償がなされた場合は、労働者が勤務先に損害賠償請求をしたとしても、企業はその支払いが免除される場合があるということ。

法律では、同じ理由に対して労災と損害賠償の同額を受け取ること(二重補償)ができないという決まりがあります。

つまり、企業を訴える場合は、労災補償で補えなかった部分のみを損害賠償として請求できるということです。

例えば、労働者が死亡した場合は遺族補償が支払われますが、事故や災害がなければ得られたはずの収入(逸失利益)や、精神的な苦痛に対する慰謝料までは労災の補償で補いきれない場合があります。

その差額を、企業に請求する形となるのです。

差額として請求できるケースとして、ほかにも

  • パワハラやセクハラの慰謝料
  • サービス残業が行われていた場合などの未払い残業代
  • 企業が職場環境の整備を怠った「安全配慮義務違反」による損害賠償
  • 企業が労働契約に基づいた職場環境整備・配慮・改善を行わなかったことに対する「債務不履行」による損害賠償

といったものがあります。

このうち、安全配慮義務違反と債務不履行については、会社の責任が認められるものである必要があります。

たとえば出勤中に自分の不注意で事故を起こした場合などは、怪我に対する労災は認められる一方で、会社そのものに責任を問うのは難しいことが多いでしょう。


②会社を訴えるための手順

実際に訴える場合に必要な手順を簡単に解説します。

  • 証拠を集めよう

    有用な証拠を集めることは、労基署での労災認定の際にも役立ちます。
    「いつ」「どこで」「どのような状況で」「なにが(被害の内容)が起こったか」をまず記録しましょう。

    パワハラ・セクハラ:音声記録、ハラスメント発言がわかるメールやチャットなどの通信記録、傷病に対する診断書、同僚らの証言など
    残業代未払い:日々の勤務時間の記録(タイムカードなど)

    これらの証拠は、少しでも関係がありそうなものは全て含めて保管しておきましょう。実際に弁護士へ相談するときは全てを持参し、何が必要かを判断してもらう方が確実です。

  • 弁護士を探して相談する

    身近に頼れる弁護士がいない場合

    日本弁護士連合会(日弁連)のサイトから探す
    ・ネット検索で探してみる
    ・知人のつてを頼ってみる

    などの方法があります。労働問題を専門または得意としている弁護士に依頼することが望ましいですが、いずれの場合も、事務所に足を運びやすく、知名度よりも自分と人柄が合いそうな人を重視することがポイントです。

    訴訟は1回の相談だけで手続きが全て終わるわけではなく、弁護士と何度も面会をしていく必要があったりするため、通いやすく、話しやすいことが重要になってきます。


③被害者が多いなら集団訴訟も検討しよう

自分以外にも同じような労災隠しにあった同僚らがいたら、協力して集団訴訟を起こすという手があります

集団訴訟化することによって被害の件数や内容が増えれば、訴えがより強固なものになったり、ひとりでは集まりにくかった証拠が揃うようになるというメリットがあります。

勤務先による労災隠しやパワハラ、安全配慮義務違反の疑いがあるとして、複数の従業員が訴えた事例に下記のようなものがあります。

  • 労災隠しを含むパワハラ行為などを訴訟した事例

    東京ディズニーランド(千葉県浦安市)でキャラクターの着ぐるみを着てショーやパレードに出演してきた女性社員2人が19日、過重労働やパワーハラスメントで体調を崩したのは運営会社のオリエンタルランドが安全配慮義務を怠ったためだとして、計約755万円の損害賠償を求める訴訟を千葉地裁に起こした。

    訴状などによると、女性社員(28)は2015年2月に入社し、総重量10~30キロの着ぐるみを着て、様々なディズニーキャラクターとしてショーやパレードに出演。

    17年1月に腕などに激痛が走る「胸郭出口症候群」を発症した。 女性は首や肩、腕に重い負荷がかかる業務を続けていたことが発症を招いたとして労働基準監督署に労災申請。昨年8月に認定を受けた。今は休職している

    引用元 朝日新聞 2018年7月20日付記事

企業を訴えたい場合は、こちらの記事も参照してみてください。


4.まとめ

  • 労災が発生した場合企業は労基署へ報告しなければならず、おこたった場合は罰金などが科される。

  • 退職しても労災の申請は可能。ただし時効があるので注意しよう。

  • 労災補償とは別に、会社に原因がある場合は損害賠償を請求できることも。ただし、すでに労災で補償されている被害は請求できない。

おわりに

労災の発生後は、心身ともにつらい状況に置かれてい るもの。大変なときですが、そのような場合にもしっかり手続きをして、補償をしっかり受け取れるようにしておきましょう。

このエントリーをはてなブックマークに追加