この記事は以下の人に向けて書いています。
- はじめて部下・後輩を持ち、指導する立場になった人
- 同僚・上司の行動がパワハラなのではないかと疑っている人
- パワハラ訴訟の実際の判例について知りたい人
はじめに
職場でのパワハラは大きな社会問題となっています。
パワハラ被害に困っている人もいれば、気づかぬうちにパワハラになりうる行動をしてしまっている人も。特にはじめて指導する立場になった人は、どのような言動をとるべきなのか頭を悩ませがちなのではないでしょうか。
そこでこの記事では、パワハラの被害者・加害者にならないために、パワハラの特徴とその対処法を紹介します。
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1.どんな行為がパワハラ?典型的な6タイプを解説!
パワハラ行為には、どのようなものがあるのでしょうか。
厚生労働省「
職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」は、パワハラの典型として、以下の6タイプを定義しています。
それぞれの詳細について、実際のパワハラ関連裁判の事例を交えながら解説していきましょう。
①身体的な攻撃
言葉の通り、
殴る、蹴る、髪を引っ張る、胸倉をつかむ、突き飛ばすなど、直接的に暴力をふるう行為のことです。
たとえば同僚社員の殴打により、顔面挫創・頸椎捻挫の傷害、およびそれによる頸部・腰部痛や手足のしびれといった後遺症を受けたことがパワハラと認定されました(アジア航測事件)。
これほどひどいケースはあまりないかもしれませんが、たとえば頭を小突くというような行為もパワハラと認定されることがあります。
②精神的な攻撃
「お前のかわりならいくらでもいる」
「それなら辞めてしまえ」
など、精神的に追い詰めていく行動もパワハラのひとつです。
問題となるのは暴言だけではありません。上司が部下2人に対し、12月~翌6月まで継続的に扇風機で風を当て続けたことが、著しく大きな精神的苦痛を与えたと判断されたケースもあります。(日本ファンドパワハラ事件)。
直接的な言葉による攻撃だけでなく、悪意ある行動でもパワハラだと判断されることがあるのです。
③人間関係からの切り離し
ひとりだけ違う部屋にデスクを置く、ほかの社員が全員参加している行事に参加させないなど、職場でわざと孤立させる行為です。
事例としては、内部告発を行った被害社員に対し、20数年以上、他の社員とは離れた個室に席を配置し、雑務の仕事しか与えなかったことが、パワハラと認定されたものがあります。(トナミ運輸事件)
④過大な要求
明らかにその人の能力レベルにそぐわない仕事やひとりではできない仕事を押し付けることを指します。
被害社員を本来の業務である経理から移動させ、他の労働者の支援が必要な業務をひとりで行うよう指示し、人員補充の要求を却下する嫌がらせを行ったという例がこれにあたります(国際信販事件)。
この事例では、代表取締役2名個人の損害賠償責任が認められています。
通常、会社で起きたことすべての責任を代表取締役がとることはありません。しかし、この事件では、嫌がらせを止める立場にありながら労働者からの被害の申告を無視し、何も対処しなかったことが問題視されたのです。
⑤過小な要求
営業職の労働者に対し、社内の掃除だけをやらせるなど、本来の業務とは違う雑務しかさせないというパターンです。
事例としては、麻酔科医が直属の上司である手術管理部長を通さずに、センター長へ職場の問題について申し出たところ、手術管理部長から一切の手術から担当を外されたというものがあります(千葉県がんセンター事件)。
⑥個の侵害
プライベートなことを根掘り葉掘り聞いたり、休日や深夜などのプライベート時間にまで強制的に連絡をとらせたりすることです。
病院に勤務している男性が、交際相手と勤務時間外に会おうとするたびに先輩から嘘の業務で呼び出されたり、無断で先輩に携帯電話を使って、交際相手の女性に連絡をされるといった事例があります(誠昇会北本共済病院事件)。
2.言ってしまいがちなNGワード6選
前章では、6つのパワハラパターンについてご紹介してきました。
解説のとおり、直接的な暴力やいじめを行わなくても、相手への発言ひとつがパワハラと受け取られることもあります。
では、後輩・部下を指導しようとするときには、どのように接してゆけばよいのでしょうか。この章ではそんな疑問に応え、指導時に言うべきではないNGワードを取り上げていきます。
①「なぜ」「どうして」
「なぜこれをしなかったのか」「どうしてこうなったのか」などと言われると、部下や後輩は問い詰められている感覚になってしまい、ストレスがかかってしまいます。
「これをしたのは、どういう理由?」「次にこうならないためには、どうすればいいのかな」など、否定ではなく次回に向けた改善方法を尋ねるように話すことを心がけましょう。また
「責めるつもりではない」とあらかじめ断っておくのもよいでしょう。
②「○○さんも言ってたぞ」「前から思っていた」
本来、指導に周囲の評価は関係なく、ただ事実を伝えて改善を促したり次回へ向けた対応を導くだけでいいはずです。本来の改善点から論点を逸らさずに、指導を行いましょう。
特に、右も左もわからない新人は、自分が周囲にどのように見られているのか気にしていることがほとんどです。
ほかの人からの評価や上司・先輩からの評価でマイナスなことを言われると、職場で孤立しているように感じてしまいがちです。
間違いなどを指摘する場合に、人格などに触れるのは控えるようにしましょう。
③「前にも同じことを言ったよね」
前にも指導したことと同じミスをされたり、同じことを聞かれると、つい言ってしまいがちかもしれません。しかし、「説明が足りなかったのかもしれない」「念のため確認しておきたいのかもしれない」と思い、できる限り使わないようにしましょう。
とはいえ部下があまりに何度も同じミスをしている場合は、このフレーズを使いたくなることもあると考えられます。その場合は、そもそもの仕事のさせ方、作業の内容が過大ではないか、より細かい段階を踏むことはできないか等、自分の指導プランを見直すようにしてみましょう。
④「もういいよ。後は私がやるから」
これまで携わってきた仕事を取り上げられた部下・後輩は、「自分が評価されていない」「今までやってきたことは何だったんだ」というネガティブな心理状態に陥ってしまうことが考えられます。
今までの仕事を否定するような言い回しは使わず、たとえば「〇時までに終わらなかったら、私が引き継ぐね」「終わった後、チェックして直すこともあるからね」など、修正が入ることをあらかじめ伝えておきましょう。
「なぜ仕事を引き継ぐ必要があるのか」という理由もあらかじめきちんと説明することや、途中で引き上げた場合でも「どこまではできているのか」をしっかり判断、評価することも大切です。
そのうえで、次回間に合わせるためのアドバイスや、修正したポイントを解説すれば、部下・後輩の成長にもつながります。
⑤「これだから、〇〇世代はダメなんだ」
年が離れた相手を指導する場合、年齢てきなギャップからつい「最近の若いヤツは」といったたぐいの言葉を使いたくなることがあるかもしれません。少し前までは「ゆとり世代」がそうした蔑称の代名詞とされていました。
しかし、こうした「世代」という言葉で漠然とくくって批判することは、特に意味のある行為とはいえず、単なる中傷になってしまいがちです。
年齢・属性・容姿といった属性に関連して批判するのは控えたほうが無難でしょう。かといって能力や人格を否定することも相手に精神的な苦痛を与えかねません。
あくまで判断基準は、「行動そのもの」に限定し、また
いたずらに相手を責めるのではなく、改善点を一緒に検討していくという姿勢が大切です。
3.被害者になったときの対応方法を確認!
指導する側の目線でNGワードを紹介してきましたが、では自分がパワハラ被害を受けている側だった場合、どうしたらよいでしょうか。
①本人と直接対話する
仕事の上司・部下という関係だと、キツい言動を
「相手に押さえつけられている」と考えてしまいがち。
ただ実際には上司のほうも部下に教える経験が浅くて言葉選びがわからなかったり、上司としての自分に慣れていないからこそ、高圧的に権威をアピールしたがるというパターンがあります。
なかなか勇気がいることかもしれませんが、「こういう言い方だと傷つきます」「こういう風な教え方だと助かります」と直接伝えてみてもよいでしょう。
相手の性格や意図を責めるのではなく、あくまで「言い方・伝え方」について言及することが大切です。
本人に自覚なくパワハラをしていた場合は、こうしたコミュニケーションをとることにより、指導方法が改善されることがあります。上司も人間。緊張しているのは互いに同じだった……ということもあるのです。
もちろん、理不尽に暴言を繰り返すなど、
相手に明らかな悪意がある場合や、伝えたことで敵視されてしまった場合は話が別です。
すぐに別の方針に切り替えましょう。
②別の上司や会社の相談窓口に相談する
上司にもまた、上司がいます。
上司を飛び越えてさらに上の上司に話をする行為は一般的には控えるべきだと言われていますが、身体的・精神的苦痛が大きい場合はやむをえず相談してみるのもひとつの方法でしょう。上層部がこうしたパワハラの実態を知らないというケースもあるからです。
ただし、もし話すのであれば、単なる愚痴で終わらせてはいけません。証拠などを集めて客観的な主張をできるように準備していきましょう。
また会社がパワハラやセクハラなどの社内問題を扱う窓口を設けている場合は、まずはそちらを利用したほうが無難でしょう。
社内解決が難しい場合は、
総合労働相談センターに相談してみましょう。
同センターは、相談内容に応じて、紛争調整員会による話し合いのあっせんや都道府県労働局長による助言など、様々な解決方法を提示してくれます。
相談された内容から労働基準法違反が疑われる場合は、会社への指導を行ってくれることもあるようです。
相談者のプライバシーも保護されますので、会社にばれてしまう心配もありません。
④退職する
最終手段は退職です。
相手どころか会社ぐるみで態度を変えない、どころか隠蔽しようとする会社は残念ながら存在します。相談しても何も変わらなかった場合は、退職を視野に入れましょう。
その際、可能であれば
パワハラの事実を裏付ける証拠(音声データなど)を残しておくとさまざまな局面で役立ちます。
たとえば、退職後の失業手当。
一般的に、自分から会社を退職した場合は
「自己都合退職」とみなされ、失業手当がもらえる時期が申請からおよそ3か月後となってしまいます。
しかし、退職の原因がパワハラによるものだという証拠がある場合、
たとえ会社側が自己都合退職ということにしていても、あとから「会社都合」による退職と変更することができます。
会社都合退職となれば、申請から一週間前後と、受給開始時期が大幅に早まります。
また、パワハラ被害への損害賠償請求訴訟を起こす場合も、証拠があった方がスムーズに進みやすくなるでしょう。
もしパワハラを受けた会社に対して訴訟を起こす場合は、下記の記事も参考としてみてください。
4.まとめ
- パワハラには、①身体的な攻撃②精神的な攻撃③人間関係からの切り離し④過大な要求⑤過小な要求⑥個の侵害の6つのパターンがある。
- 部下を指導するときは、相手を尊重し、過去を否定するような言葉をかけないことが大切
- パワハラ被害を受けている場合は①相手と直接話す②会社の相談窓口に相談する③労働基準監督署の労働総合相談センターに相談する④退職する という4つ方法で対応するとよい
おわりに
職場でのパワハラは、会社の雰囲気や上司・部下との関係性により、当事者間でどのような感情があるのか変化するため、見極めが難しい問題でもあります。
「もしかしたら、部下はストレスに感じているかもしれない」など、常に相手の立場になったらどのように思うのか考え、行動に移しましょう。
また、パワハラ被害を受けている場合、「自分が悪いんだ」と思うかもしれませんが、指導方法の誤りでありあなたに大きな非はありません。解決に向けて行動を起こしましょう。