この記事は以下の人に向けて書いています。
- 残業代がどのようなルールで決まるのか知りたい人
- 残業代を請求するために、正確な金額を計算したい人
- 自分がもらっている残業代が適正かを確認したい人
はじめに
毎日残業が続いているけれど、給与明細にはどうも反映されていないみたい。
休日出勤の手当や残業代は支払われているけれど、それが正しい金額かわからない。
実際のところ、自分の残業代は具体的にいくらなのだろう? そんな疑問はありませんか。
この記事では、残業代算出のやり方や割増しの仕組みについて、実際の試算をもとに解説します。自分の残業代の目安を把握するのにぜひ使ってみて下さい。
1.残業代の金額はどうやって決まる?基本となる計算式の仕組み
残業代の算出は、以下の計算式に従って行われます。
残業代の計算式 |
①基礎時給 × ②残業時間 × ③割増率 |
それぞれの項目について、詳しく見ていきましょう。
①基礎時給
基礎時給は、月給から
各種手当(家族、通勤、住宅、単身赴任、子女教育、ボーナス、臨時に支払われる手当など)を引いたものを、1か月あたりの労働時間で割ったものになります。
計算式で書くと、以下の形です。
(月給ー各種手当)÷(1日当たりの労働時間×1か月の勤務日数) |
たとえば月給20万円で通勤手当が3万円、1日8時間勤務で1か月に20日出勤したとすると、
(200000-30000)÷(8×20)=1063(小数第1位を四捨五入)
となり、基礎時給は1063円となります。
②残業時間
残業時間については、1日や1週間の労働時間がどのくらいかによって割増率が異なってきます。下記の点に注意しましょう。
- 「1日8時間・1週間に40時間以内」が法定時間内労働ですが、これを超えると「残業」、つまり「法定時間外労働」となります。この時間に相当する賃金の割増率は、時給の25%増(残業代×1.25)となります。
例えば、9〜18時勤務で休憩1時間、合計8時間勤務を1週間のうち5日間する人がこれに当てはまります。その場合、18時以降の残業代は1時間の時給の25%増です。
- しかし、時短勤務や隔日勤務の人など、労働時間が40時間に満たない人も中にはいます。このような場合は「法定時間内残業時間」が発生します。週40時間以下で所属企業が定めた勤務時間を超えた場合は、社内規定などにもよりますが、基本的には割増率のない基本時給を支払うことになります。
例えば、9〜17時勤務で休憩1時間、合計7時間勤務を1週間のうち5日間する人がこれに当てはまります。その場合、週の合計の残業時間が5時間以内であれば割増率のない基本時給が支払われ、これを超えた場合は1時間の時給の25%増となります。
また、15分や30分など1時間に満たない労働時間を切り捨てるケースが見られることがありますが、1日の労働時間単位での労働時間の切り捨てはできません。
切り捨てができるのは1か月の労働時間を通算した時に30分未満の端数が出た時で、「30分未満は切り捨て、30分以上は1時間として切り上げ」いう計算方法になります。
③割増率
割増率は残業する時間帯などによっても変化します。
- 時間外手当
法定労働時間「1日8時間・1週間に40時間以内」を超えた時の割増率は25%です。
- 時間外手当(長時間の場合)
上記の時間外労働が1か月45時間・1年365時間を超えた時の割増率は、25%もしくはそれ以上が必要になります。
また、時間外労働が1か月60時間を超えた時は、50%の割増率が求められます(中小企業の場合は、2018年10月時点では適用が猶予されていますが、2023年4月1日からは対象に含まれます)。
- 休日手当
法定休日(労働基準法では週1日または4週間に4日)に勤務した時の割増率は35%です。ただし、法定外休日の労働には休日手当は発生しません。例えば、土日が休日で日曜日が法定休日だった場合、土曜日の出勤には適用されないということになります。
- 深夜手当
22時から5時までの時間帯に勤務した時の割増率は25%です。
2.実際に計算してみよう!残業代モデルケース6パターン
これまでの説明を踏まえ、下記のモデルケースで実際に残業代がどうなるのかを計算していきましょう。
<前提>
勤務時間:9:00~17:00(休憩1時間)実働7時間
時給:2,000円
法定休日:日曜日
①平日に18時まで残業した場合
- 計算方法
法定時間内残業のため、残業代の割増はありません。よって、
時給2,000円 × 割増率1.0 × 1時間 =2,000 円
- この日の残業代
2,000円
②平日に20時まで残業した場合
- 計算方法
※17〜18時(法定内残業)と、18〜20時(法定外残業)の割増率が異なる計算に注意しましょう。
17〜18時:
時給2,000円 × 割増率1.0 × 1時間 = 2,000 円
18〜20時:
時給2,000円 × 割増率1.25 × 2時間 = 5,000 円
- この日の残業代
7,000円
③平日に23時まで残業した場合
- 計算方法
※17〜18時(法定内残業)と、18〜22時(法定外残業)と、22〜23時(深夜+法定外残業)に計算が分かれます。
17〜18時:
時給2,000円 × 割増率1.0 × 1時間 = 2,000 円
18〜22時:
時給2,000円 × 割増率1.25 × 4時間 = 10,000 円
22〜23時
時給2,000円 × 割増率1.50(1.25 + 0.25) × 1時間 = 3,000 円
- この日の残業代
15,000円
④平日残業なし、土曜12~17時まで勤務の場合
- 計算方法
平日は残業がないため実働35時間、土曜日は5時間勤務なので週の合計は40時間となり、法定時間内労働です。法定外休日の土曜日に休日の割増は発生しません。
時給2,000円 × 割増率1.0 × 5時間 =10,000 円
- この日の残業代
10,000円
⑤日曜12~17時まで働いた場合
- 計算方法
日曜日は法定休日であるため、休日出勤の割増が発生します。
時給2,000円 × 割増率1.35 × 5時間 =13,500円
- この日の残業代
13,500円
⑥日曜20~24時まで働いた場合
- 計算方法
休日手当の残業が2時間、休日+深夜残業が2時間発生します
時給2,000円 × 割増率1.35 × 2時間 =5,400
時給2,000円 × 割増率1.60(1.35 + 0.25)× 2時間 = 6,400
- この日の残業代
11,800円
実際の計算方法は、業種や雇用契約の内容によって、もっと複雑に変わってきます。以下の記事でより詳しく解説していますので、合わせて参照してみて下さい。
3.残業代のトラブルはここに相談!窓口4選
未払い残業代は計算できたけれど、いざ請求となると所属企業と折り合いがつかない、トラブルに発展しそう…そんな時は、下記の公的機関などを頼りにすると良いでしょう。
厚生労働省が設けている職場のトラブル解決相談窓口です。
各都道府県の労働局、労働基準監督署内など380か所に設置してあり、予約は不要です。
受付時間や曜日は窓口によって異なりますが、月〜金の昼間が多く、土日祝は受け付けていない場所もありますので、最寄りの相談窓口を調べてから利用しましょう。フリーダイヤルによる電話相談を受け付けていたり、女性相談員を専門に置いている自治体もあります。
厚生労働省の一機関で、全国に321か所あります。労働基準法などの関連法規に基づき、相談対応、監督指導などを行う公的機関です。
利用時間:月〜金 8時30分〜17時10分
時間外労働に対する割増賃金の未払いの解決として会社自体に監督指導を行うことはありますが、個別の労働者の未払い残業代問題の解決などは受け付けていません。
③外部ユニオン(合同労組)
労使交渉で自社の労働組合が当てにならなかったり、そもそも自社に労組がなかったりした場合、自分が所属する企業単位ではなく、職業や雇用形態を超えた個人でも加入できる労働組合に参加して交渉をすることができます。
大小様々な団体があるため、自分に合った活動をしているユニオンを探してみるのもいいでしょう。「合同労組」「ユニオン」「外部労働組合」などのキーワードでインターネット検索をすると探しやすくなります。
ただし、参加にあたり会費(組合費)を支払う必要があったり、自ら活動に参加して問題の解決を図らなければならないなど、自発的な行動も求められるようになってきます。あくまでも自分自身が動かなければなりません。手数料を支払って処理を全面的に任せるような形式ではないことは理解しておきましょう。
どうしても問題が難しくなってしまった時は、弁護士を頼って解決を目指すことも視野に入れましょう。法テラスでは弁護士に無料で法律相談ができるほか、解決に向けた時の費用の立て替えなどにも応じてくれるため、資金面のハードルが低くなります。
各都道府県の法テラス窓口のほか、電話でも相談をすることができます。
電話番号:0570-078374(おなやみなし)※通話料がかかります
受付時間:月〜金 9〜21時・土 9〜17時 (祝日・年末年始を除く)
メールでも問い合わせることができます。
4.まとめ
- 自分の労働時間が法定時間内か、それ以上かを区別する
- 残業する時間帯や曜日によって、割増率が異なるのに注意
- 未払い残業代で折り合いがつかない時は、公的機関や弁護士に相談を
おわりに
一見複雑そうですが、整理していけば実際の残業代の計算は可能なはず。自分の勤務する時間帯の割増率に注意して下さい。
せっかく苦労して働いた時間の分、残業代はきちんと請求したいもの。自分自身も知識をつけて企業と交渉することができるといいですね。