この記事は以下の人に向けて書いています。
- 未払い残業代の請求を行う予定の人
- 未払い残業代に課税されるのかどうかを知りたい人
- 残業代の請求が慰謝料などの名目で支払われ、どう扱うべきかわからない人
はじめに
退職後、未払いの残業代を請求する人が増えています。
しかし、そこで気になることがひとつ。無事もどってきた残業代に、税金はかかるのでしょうか?
未払いであったとはいえ、本来は支払われるべきお金だったはず。もし退職していた場合、税金の申告は別途自分でしなければならないのでしょうか。
そこでこの記事では、未払い残業代に関する税金問題について、くわしく解説していきたいと思います。
「なにも考えずに使ったら、税金に泣くハメになった……」
そんなことが起きないよう、参考にしてみてください。
1.未払い残業代の扱いは2つ!それぞれのケースに税金はどうかかる?
未払い残業代は、
もともと給与と一緒にもらうべきだったお金。そのため、税法上では月給などと同じく、
「給与所得」として扱われることになります。
その際に問題となってくるのが所得税です。
会社が社員を雇う場合、会社は社員個人の代わりに所得税や住民税、保険料の支払いを行い、その金額を給与から天引きして社員に渡します。この天引きのことを
源泉徴収と言います。
しかし、未払い残業代が支払われると、
結果として給与が増える形になるため、追加の所得税を納める必要があるのです。
そのタイミングや手続きについては、支払われた残業代を、
①過去の給与とみなす
②一時金とみなす
かによって変わってきます。
以下、それぞれのケースについて詳しく解説していきましょう。
①過去の給与とみなす
未払いの退職金を、
過去に支給された給与として考えるパターンです。
過去の給与を残業代を含めた正しい金額に修正し、差額を後払いという形で支給する……とイメージするとわかりやすいかもしれません。
この場合、残業代が支払われたことにより、
過去の収入が増えることになります。そのため当然、
増加額に応じた税金を追加で支払わなければなりません。
基本的には、税金を支払うのは会社側です。源泉徴収票などはすべて計算しなおして再発行され、追加で発生した税金を未払い残業代から差し引いた額が支払われることになります。
ただし、在職時に自分で
確定申告を行っていた場合は、申告の修正を自分で行う必要があります。
確定申告とは、会社ではなく自分で税金の申告と支払いを行うことで、会社員であっても給与取得以外になんらかの収入がある場合や、年収2000万円を超える給与を得ている人は行う必要があります。
副業をしていた場合や、不動産の売買を行った場合などは確定申告をしているはずですので、確認しておくようにしましょう。
また、自分で申告の修正をする場合は
追加の支払いも自分で行う必要がありますので、注意してください。
②一時金とみなす
未払い残業代を、
賞与(ボーナス)などと同じものとして受け取るパターンです。
たとえば、過去二年間の未払い残業代を一時金として受け取った場合、そのお金は今年の収入の一部として扱われます。
この場合、
支払われた残業代は受け取った年の給与として扱われるため、①のように過去にさかのぼって申告を修正する必要はありません。
税金の支払いは、もし在職中であればその年の年末調整で清算されますが、すでに会社を退職している場合は、
自分で確定申告をし、支払いを行わなければなりません。
また、受け取った年の給与が高くなってしまうことから、
翌年の住民税が高額になるというケースが考えられます。この金額は、
前年度の給与所得をベースに決定されるという仕組みになっているからです。
2.「残業代」以外での支払い方!「和解金」「慰謝料」「賠償金」の場合の税金は?
場合によっては、未払いの残業代が、別の名目として支払われることがあります。給与の再計算や申告の手間がかかるため、簡易的な名目ですませたいという考えが会社側にある場合や、パワハラ・セクハラの訴訟を合わせて行った場合などに考えられるものです。
おもに提案される支払い方法は、
①和解金・慰謝料・損害賠償
②退職金
の2種類。
それぞれのケースについて、内容や注意点を解説していきます。
①和解金・慰謝料・損害賠償
和解交渉で決着した場合や、パワハラ・セクハラ訴訟などもあわせた請求を行っていた場合、最終的に
和解金や
解決金、慰謝料などの名目でお金が支払われることがあります。
これらのお金をどうとらえるかには、さまざまなパターンがあります。
- 非課税として扱う
慰謝料や損害賠償など、相手側から受けた被害を取り戻すという名目のお金には課税されません。確定申告をする必要も当然ありません。
ただし、未払い残業代に関する和解金については実質的には給与の後払いをしている形となるため、通常の意味での慰謝料とは認められない場合があります。
特にそれが訴訟の結果ではなく、和解によって支払われたお金である場合は、たとえ名目上は慰謝料であったとしても課税対象となることが多いため、気を付けるようにしてください。
- 雑所得や一時所得として扱う
給与所得ではなく、雑所得という別の名目で収入を扱うパターンです。この場合は、第一章で給与として請求した場合とは所得税の計算方法が異なってきますし、また受け取った金額の確定申告と税金の支払いをする必要が出てきます。
もっとも大きな違いは、弁護士費用を経費として扱い、課税の対象外にすることができるという点です。未払い残業代を給与としてもらった場合は、これができません。
ただしこの場合も慰謝料と同様、実質的な給与支払いとみなされることもあるため、注意が必要です。
また、給与所得も、給与額に応じて一定額の控除があるため、請求した金額やかかった弁護士費用によっては、雑所得として受け取るほうが税金が高額になる場合もあります。
②退職金として扱う
残業代を退職金として支払うと持ちかけられることもあります。退職金の場合は、給与所得ではなく退職所得とみなされ、税金の計算方法がまた変わります。基本的には会社側が税金を天引きをして払う形となります。退職後の収入が少なく還付金が受けられる……といった場合を除き、個人で確定申告を行う必要はありません。
①、②いずれにしても、
残業代であるものを違う名目としているため、どのような形で取り扱うかには慎重になる必要があります。
自分ひとりで判断するのではなく、税理士や弁護士などの専門家とよく相談して決めるようにしてください。
3.残業代+αの落とし穴?遅延損害金や付加金でも手続きが必要なケースも!
訴訟の結果によって未払い残業代が支払われる場合、残業代以外にも、
①遅延損害金
②付加金
の2つが支払われます。
これらを受け取ったときにも手続きが必要になることが多いので、解説していきます。
①遅延損害金
遅延損害金は名称の通り、未払い残業代の支払いが遅れたことによる損害を賠償するお金です。「残業代が支払われていれば、もっと豊かに生活できたはず」という労働者への慰謝料の意味合いがあります。
遅延損害金は給与所得ではなく
「雑所得」の扱いになるため、確定申告が必要となってくる場合があります。
「雑所得」の計算方法は以下の通りです。
計算方法 |
雑所得=収入金額ー必要経費 |
税金の算出方法 |
給与所得などの他の所得と合計して収める税金を計算 |
年末調整をしている給与所得者で、雑所得が20万円以下の場合、確定申告をする必要はありません。
しかし、雑所得が20万円を超えていたり、給与所得が年間2000万円以上などの理由で、もともと確定申告をする予定の人は、雑所得として確定申告をする必要があります。
②付加金
付加金は、最大で未払い残業代と同額の金銭を会社側から得るもので、
「一時所得」として扱われます。こちらも場合によっては確定申告をする必要があります。
会社側に付加金の支払いを命じることができるのは、裁判所の判決のみであるため、交渉や労働審判で支払われることはありません。
また、付加金は残業代請求の時効と同じく、2年がリミット(徐斥期間)。ただし、残業代の時効のように中断して期限を延ばすことはできず、2年が過ぎると請求できなくなります。
残業代請求の時効については、こちらの記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
「一時所得」の計算方法は以下の通りです。
計算方法 |
一時所得=収入金額ー必要経費ー特別控除(50万円) |
税金の算出方法 |
一時所得の2分の1の金額を給与所得などの他の所得と合計して収める税金を計算 |
2分の1にした一時所得の金額が20万円を超えなければ、確定申告をする必要はありません。
しかし、一時所得が20万円を超えていたり、もともと確定申告をする予定の人は、一時所得として確定申告をする必要があります。
4.まとめ
- 未払い残業代の支払いは、過去の給与としてみなされる場合と一時金としてみなされる場合とがあり、それぞれ税金の支払い方が異なる
- そのほかにも、慰謝料や和解金、退職金の名目で支払われる場合もあるが、実質的に残業代として扱われることもあるため、必ず専門家の意見をあおぐこと。
- 未払い残業代支払いにともなう遅延損害金や付加金にも税金の支払いが必要
おわりに
いかがでしたか。
未払い残業代を受け取ったら、確定申告などの様々な手続きが必要になることもあります。
請求して終わりではなく、受け取った後のことも考えておきましょう。