この記事は以下の人に向けて書いています
- 仮想通貨を持っており、国内の取引所に預けている人
- ハードフォークという言葉を知っているが、詳しくは知らない人
- ハードフォーク集団訴訟に参加するかどうか迷っている人
はじめに
2018年5月31日に、日本国内の取引所すべてに対し、利用者が本来もらえるはずの仮想通貨(フォークコイン)を本人に返還するよう求める集団訴訟が本格稼働しました。取引所に仮想通貨を預けているユーザーの大半が返還対象となる可能性があります。
訴訟を起こした団体の名前は
「ハードフォーク訴訟弁護団」。弁護士法人堺筋総合法律事務所(大阪市中央区)が中心となって立ち上げました。同団体は今後、集団訴訟を通じて、
仮想通貨の分裂(ハードフォーク)によって誕生した
「フォークコイン」を取引所に仮想通貨を預けている利用者に返還するよう、国内すべての仮想通貨取引所に対し求めていくとしています。
この訴訟について、とてもシンプルにひとことで説明すると、
「本来タダでもらえるはずの仮想通貨がもらえないので、取り戻すために訴訟する」
というもの。
しかしそもそも、
どうしてコインがタダでもらえるのでしょうか?
またなぜ、
国内の取引所はそれをユーザーに渡さないのでしょうか?
さらに、
どんな人が参加できて、いくら仮想通貨が戻ってくるのでしょうか?
ハードフォーク訴訟弁護団の中村弁護士から頂いたコメントもあわせ、この記事で詳しく解説していこうと思います。
1.なぜ訴訟をするの? ハードフォークの仕組みと問題点
そもそも、ハードフォークとはどんなものでしょう。
ひとことで言うと
「仮想通貨のアップデート」です。
- 取引の速度を早くしたい
- 匿名性を高くしたい
- 新しい機能を追加したい
といった必要性から、仮想通貨のシステムを変更することを指します。
しかし、セキュリティ上の理由などから
「改良前の通貨をこのまま使いたい!」という人もいるため、結果として、
いままでどおりの通貨と、システムを変更した新しい通貨(フォークコイン)のふたつに分かれることになります。
しかし、この分かれた仮想通貨はもともとひとつのもの。
仮想通貨の取引にはパスワード(秘密鍵)が必要ですが、
仮想通貨が分裂した場合、同じパスワードでふたつの通貨両方を扱えることになります。
そのため、仮想通貨が分裂したときには
分裂前の通貨を保有していた人全員が新通貨(フォークコイン)をもらうことができるのです。
イラスト出典:
いらすとや
ところが、今回集団訴訟を起こしたハードフォーク訴訟弁護団によると、日本国内ではこうした
フォークコインが、本来の保有者に渡されていないという現状があるとのこと。
下記の表を見てみましょう。
通貨名 |
元の通貨 |
フォーク時期 |
取引所の扱い |
ビットコインキャッシュ |
ビットコイン |
2017年8月 |
あり |
ビットコインゴールド |
ビットコイン |
2017年10月 |
なし |
ビットコインダイヤモンド |
ビットコイン |
2017年11月 |
なし |
ライトニングビットコイン |
ビットコイン |
2017年12月 |
なし |
スーパービットコイン |
ビットコイン |
2017年12月 |
なし |
ビットコインゴッド |
ビットコイン |
2017年12月 |
なし |
ビットコインプライベート |
ビットコイン |
2018年2月 |
なし |
イーサリアム・クラシック |
イーサリアム |
2016年7月 |
あり |
イーサゼロ |
イーサリアム |
2018年1月 |
なし |
Ark |
LISK |
2017年3月 |
なし |
こうしてみてみるとわかる通り、2018年6月時点で、
日本の国内取引所は多くのフォークコインを取り扱っていません。つまり、仮想通貨を取引所に預けていた場合、
ハードフォークで新しいフォークコインをもらっても、引き出すことができない状態となっています。
例を挙げると、2017年10月に誕生した
ビットコインゴールドに対して、国内の大手取引所である
コインチェック、Zaif、bitFlyerはいずれも「安全が確認され次第」取り扱うとしていましたが、2018年7月時点も配布の予定はありません。
日本仮想通貨事業者協会の取扱仮想通貨一覧にも、2018年5月31日時点で追加されていないようです。
しかし、配られた仮想通貨は本来、最初に仮想通貨を預けた人のものであるはず。
渡すか渡さないかの判断を取引所が行っている現状は契約上おかしい、というのが、今回のハードフォーク弁護団が問題としているポイントとなります。
出典:
ハードフォーク訴訟弁護団ウェブサイト
2.結局いくら戻ってくるの? 参加費用と請求額をシミュレート!
では、実際にどのくらいの仮想通貨が戻ってくるのでしょうか?
先ほどの図を見てもわかるとおり、2017年以降、いくつもの新しい仮想通貨がハードフォークによって誕生しました。
仮に2017年8月より前から仮想通貨を取引所に預けていた場合、
- ビットコインキャッシュ
- ビットコインゴールド
- ビットコインダイヤモンド
- ライトニングビットコイン
- スーパービットコイン
- ビットコインゴッド
- ビットコインプライベート
といったコインが預けている間に誕生したことになります。
このうちビットコインキャッシュを除くすべてのコインが2018年6月現在、引き出せないままとなっています。
ハードフォーク訴訟弁護団の中村健三の弁護士によると、こうした複数のコインについて、該当するハードフォークの際に対象となる仮想通貨を保有していたものについては
「すべて請求できる」とのこと。
では、
仮に現時点でこれらすべてのコインが戻ってきたとすると、合計でいくらになるのでしょうか? 表にまとめてみます。
<モデルケース>
Aさんは2017年6月にある取引所に登録し、10ビットコインを預けた。ビットコインキャッシュのハードフォークのときにはフォークコインが付与されたが、それ以降のハードフォークではもらっていない。
※日本円換算は2018年6月20日時点を参考としています
通貨名 |
フォーク時期 |
もらえる通貨量 |
日本円換算 |
ビットコインゴールド |
2017年10月 |
10BTG |
35,820円 |
ビットコインダイヤモンド |
2017年11月 |
100BCD |
30,900円 |
ライトニングビットコイン |
2017年12月 |
10LBTC |
24,840円 |
スーパービットコイン |
2017年12月 |
10SBTC |
8,750円 |
ビットコインゴッド |
2017年12月 |
10GOD |
18,770円 |
ビットコインプライベート |
2018年2月 |
10BTCP |
16,470円 |
合計 |
|
|
135,550円 |
もちろん、今後も新たなフォークコインが分岐する可能性があります。
それらについても請求していける形となるでしょう。
また、この集団訴訟に必要な参加費用については、ハードフォーク訴訟弁護団ウェブサイトによると
「印紙代+切手代+報酬金」とのこと。
印紙代とは、裁判所へ支払う手数料で、訴訟で相手に請求する金額によって支払う額も変わります。請求額が10万から20万円以下の場合、
手数料は2,000円となります。
手数料早見表を参考にしてみてください。
切手代は、裁判所が訴訟の相手方に資料を送る際に必要な切手代のことで、訴訟を起こす前にあらかじめ支払っておく必要があります。支払う額は裁判所によって異なりますが、東京地方裁判所の場合は6,000円が必要となります。
最後の
報酬金は、今回の集団訴訟で勝訴した場合や、和解によって仮想通貨の返還を得られたあとに弁護士へ支払うお金のこと。今回の訴訟では、「得られた仮想通貨の20%を仮想通貨建ててお支払い頂きます」と記されています。
先程のモデルケースを使って、収支を計算してみましょう。
仮に東京地方裁判所で訴訟を起こし、すべての仮想通貨が請求できた場合の収支は下記の通りとなります。
返還額(日本円換算) |
135,550円 |
印紙代 |
-2,000円 |
切手代 |
-6,000円 |
報酬金(日本円換算) |
-27,110円 |
計 |
100,440円 |
こちらの例はあくまで参考であり、たとえば複数の取引所相手に訴訟を起こす場合などは価格が変わってくる可能性もありますので、参加時に確認しておきましょう。
3.参加したら何をすればいい? 訴訟期間はどのくらい? 参加後の大まかな流れ
集団訴訟への参加は、
弁護団のホームページから可能です。
また集団訴訟プラットフォーム
enjinにもプロジェクトが立ち上がっているため、ここから参加してもよいでしょう。
いずれの場合も、まずは登録をした上で弁護団と連絡を取り、
- 委任状
- 委任契約書
- ハードフォーク時点において、フォークしたコインを取引所に預けていた事実、預けていた数量が分かる取引履歴
- 応募シート
- 本人確認書類の写し
を提出することで、参加の完了となります。
その後は訴訟を進めていく形となり、おおよそ1~2ヶ月ごとに裁判が開かれ、裁判の間にも書面で相手方とやり取りをしていきます。
ただ、ハードフォーク訴訟弁護団の中村弁護士によると、これらの裁判について「裁判に出席する必要はありません」とのこと。
「参加者の方には、メール・ウェブでの状況報告や、報告会への出席という形での協力を考えています。遠方の方で出席できないという場合は、報告会の動画をシェアしてもらうという形も考えられるかもしれません」(同上)
また訴訟の期間については、「短くて半年程度で終わる場合もあれば、数年かかる場合もあります。本件では第一審だけでなく、控訴審・上告審まで至る可能性もありますので、相応の時間を要することが予想されています」(同弁護団ホームページ)とのこと。
集団訴訟は多くの人が集まり、金額も大きくなるため、一般的に訴訟期間はひとりで訴訟をする場合よりも長くなる傾向にあります。また、訴訟で敗訴した場合、事前に支払った訴訟費用は戻ってきません。
これらのリスクも考えた上で、参加を検討しましょう。
4.まとめ
- ハードフォークとは仮想通貨がアップデートしてふたつの通貨に分かれること。本来なら古い通貨を持っていた人全員に新しい通貨(フォークコイン)が配られるが、国内の取引所は現状フォークコインの大半を取り扱っておらず、利用者が引き出すことができない。こうした現状は契約上おかしいのではないか、というのが今回のハードフォーク集団訴訟の主な目的
- 集団訴訟では、自分が取引所に預けている間に発生したフォークコインを請求することが可能。費用は印紙代・郵便代・報酬金で、前払いで7,000円+後払いで取引所から勝訴や和解によってもらえたフォークコインの20%が最低費用となる
- 訴訟への参加は弁護団のホームページやenjin内のプロジェクトから可能。参加後は裁判や報告会が開催されるが、出席しなくても問題ない。一方で訴訟期間については半年~数年以上かかるおそれもあるため、注意が必要
おわりに
この記事では、仮想通貨のハードフォーク集団訴訟がなぜ必要なのか、参加した場合どれだけ戻ってくるのか? といった内容を解説してきましたが、いかがでしたでしょう?
「PRの影響もあり、徐々に参加者が集まってきている」(ハードフォーク訴訟弁護団の中村弁護士)というハードフォーク訴訟。今後も
全取引所がすべての仮想通貨を利用者に返還するか、フォークコインを渡すかどうかの明確な基準が判決で明らかになるまで、訴訟を続けていくとのことです。
仮想通貨を持っているという人は、参加を検討してみてはいかがでしょうか。