この記事は以下の人に向けて書いています。
- 歯医者で不必要と思われる治療を受け、元の症状が悪化したり、別の症状が出て来たりして、歯医者を疑っている人
- 十分な説明のないまま歯医者が治療を行い、法外な治療費を要求された人
- 歯医者の医療ミスが発覚したが、その後の交渉が上手くいっていない人
はじめに
人生の中で避けることが難しく、かつ厄介なのが
歯のトラブル。
それを解決してくれるのが歯科医ですが、一方で、悪質な病院による治療トラブルも発生することもあります。
特にインプラント治療のような大掛かりな手術になると、「1回の手術で終わるはずだったのに何度も手術が必要になった」「出血や痛みが治まらない、別な箇所が痛み始めた」「化膿や頭痛など、別な症状が出るようになった」など、正しく施術されているのかが疑われるようなケースが少なくありません。
またこのような手術は費用が高額になる場合も多く、トラブルの大きな原因となっています。
この記事では、そんな場合に法的な解決を目指すための方法について紹介していきます。
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1.泣き寝入りしない!歯医者を訴えることができる2つの理由
歯医者とのトラブルに対しては、訴えを起こし、損害賠償を請求できる場合があります。
その根拠になる2つのポイントが、
医療過誤と
説明義務違反です。
以下、それぞれについて詳しく解説します。
①治療が自分に不利益をもたらす結果になってしまったら
もしも歯医者の治療が原因で症状が悪化したり追加の症状が現れたりした場合、
医療過誤に該当するしれません。
医療過誤とは、医療従事者の人為的なミスによって発生した医療事故のこと。法律上は不法行為にあたり、
損害賠償請求の対象になります。
もし歯医者の治療で症状の悪化や別症状の発生、不要な施術による高額請求などの不利益を被ったときは、損害賠償請求を検討しましょう。
ただし、損害賠償請求を行う際に気をつけたいポイントが2つあります。
- 生じたミスと自分が被った不利益の因果関係を立証すること
損害賠償請求は、不法行為と被った不利益の因果関係を立証することが不可欠です。
一方、医療過誤の場合は主な不利益が健康被害であるために、被告側(ここでは歯医者)に「歯科治療とは無関係ではないか」「生活習慣によるものではないか」といった言い逃れをする余地があります。このために、医療過誤訴訟は因果関係の立証が比較的難しいと言われています。
- 病院側の過失が認められること
適切な処置が行われていたかどうかは、訴訟の重要な争点になります。
仮にミスが認められなかった(治療自体は適切に行われていた)ケースでも、「副作用や治療が奏功しない可能性などのリスクについて説明がなかった、説明があればそもそも治療を受けていなかった」という場合は、説明義務違反の観点から損害賠償を請求できるかもしれません。
損害賠償の請求方法については、以下の記事で詳説していますので一読することをおすすめします。
②具体的には、どんなものを請求できるの?
損害賠償の対象は、大きく分けて
「実際に受けた被害」と
「被害がなければ本来得られたはずの利益」の2種類があります。
歯医者を訴えるケースで
「実際に受けた被害」に当たるのは、次のような費用が考えられます。
- 治療費・介護費
問題となった歯科治療にかかった治療費を請求できます。過去にかかった治療費のほか、継続して介護が必要な場合にはその介護費用も実際の被害として認められる場合があります。また、ほかの医療機関で治療を受ける際の交通費も請求できます。
- 弁護士費用
弁護士への相談や訴訟手続きの費用なども、一定の範囲で請求可能です。
- 葬祭費
もしも歯科治療のミスが原因で死亡してしまった場合、遺族は葬祭費用全般を歯科医に請求できます。
以下は
「被害がなければ得られたはずのもの」に対する費用です。
- 慰謝料
慰謝料には大きく分けて2種類あり、被害を受けての精神的損害を補填する普通慰謝料と、後遺障害が発生した場合の後遺障害慰謝料があります。
- 本来得られた利益・休業したことによる補填
被害の影響で会社の仕事や事業を休まざるを得なくなり、その間の賃金や利益が得られなかった場合、損失として請求できます。
③これまでにあった歯医者への訴訟は?
実際に歯医者を訴えた例には、以下のようなものがあります。
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2.訴訟を起こすにはどうしたらいい?まずやりたい手続き2つ
実際の事例を通して、歯医者とのトラブルに対して訴えることが可能な根拠を示しました。
これを踏まえ、歯医者を訴える方法について具体的な手順を以下に紹介します。
①弁護士を探す
弁護士を見つけるのがとにかく第一歩です。「訴訟を起こすべきかどうか悩んでいる」という段階からでも相談はできます。ここでも費用がかかる場合があるので、事前に確認をしておきましょう。
弁護士を探す際に一般的なのは、
日本弁護士連合会(日弁連)
のウェブサイトから法律相談の予約を申し込む方法です。
ただし、歯医者を訴えるケースでは、医療に強い弁護士を探す必要があります。以下のような医療問題専門団体も存在しているため、こちらに問い合わせるのもよいでしょう。
- 医療問題弁護団
相談方法:電話・メール・郵送
電話番号:03-6909-7680
電話受付:平日 10〜16時
- 医療事故研究会
相談方法:電話・FAX・郵送
電話番号:03-5775-1851
電話受付:毎週火・木・金曜日 13〜15時
- 医療事故情報センター
各都道府県にある医療問題を扱う弁護団を紹介しています。
自分の最寄りの地域のところに相談をしてみましょう。
②相談の際に準備すべきこと
いざ弁護士に相談しようと思っても、初めての方は「何をどう相談すべきかわからない」ということも多いのではないでしょうか。
相談前に整理しておくべき情報としては、以下のようなものがあります。なるべく時系列に沿って整理しておくのが望ましいです。
- 症状
- 治療を始めた、またはトラブルが発生した時期
- 実際に行われた処置
- 身体的な違和感(痛い、しびれる、物を噛めない、出血がある、など)
- 医師からの説明(できる限り詳しく)、あれば説明書や同意書
- 治療費の領収書
- 給与明細、源泉徴収票(休業する必要があった場合)
このような内容はメモとして残し、相談時に持参するとよいでしょう。書き出してみることで自身でも状況を整理できるほか、相談時にメモを読み上げたり直接見せたりすることで弁護士にスムーズかつ過不足なく情報を伝えられます。
③被害者が多ければ集団訴訟も
同じ医療機関や医師に被害を受けた人が多ければ、
集団訴訟も可能になります。
集団訴訟とは、同一の相手に対して複数の被害者が結託して訴訟を起こすことです。高額な訴訟費用を頭割りにして負担を減らせるほか、各自の証拠を持ち寄って訴えの根拠を補強できる可能性があります。
④通常の訴訟とはなにが違うの?
医療訴訟の勝訴率は2割程度と言われており、通常の訴訟よりも難関であると言えます。
医療訴訟を難しくしているのは以下のような点です。
- 立証が難しい
医療過誤を立証するには、医学的な知識が必要です。医療問題に詳しい弁護士に相談するほか、医師の協力を得る必要もあり、訴訟準備が難航する傾向にあります。
特に医療過誤の場合、「特定の医療行為が原因で不利益が生じたこと」を証明する必要があります。歯医者側としては「もともと症状があったのではないか」「生活習慣によるものではないか」といった主張が可能で、これらを否定する根拠を探すのは弁護士でも至難の業です。
- 長期化しやすく、費用もかかる
立証の難しさとも相まって、長引きやすいのが医療訴訟。その間の鑑定費用や各種書類の発行費用のほか、当事者でない医師の協力を得る場合はその謝礼も発生するため、経済的な負担は大きくなりがちです。
- カルテ改ざんや証拠隠滅のおそれがある
医療訴訟において、医療カルテを主とする重要な証拠のほとんどは訴えられる側である医師の手元にあります。そのため改ざんや隠滅が難しくなく、それによって立証できない悪質なケースも。
- 訴訟前に示談になるケースが多い
病院側の過失が明らかな場合、病院側は早々に過失を認めて示談による和解を求めるケースが多いと言われています。
医療機関が訴えに応じる場合は、医療機関の側にも訴訟を退けられる勝算があると考えられます。医療という分野の専門性・閉鎖性も相まって、訴訟の勝算が低いのが医療訴状の実情なのです。
とは言え、医療過誤の被害を受けたにもかかわらず医療機関が過失を認めないとあれば、収まらない気持ちもあるでしょう。医療訴訟には、被害の原因を究明し再発防止を求めるという重要な意義があります。
弁護士も、たとえ立証が難しくても、さまざまな角度から被害者が納得する解決方法を求めて力を貸してくれるでしょう。ぜひ、諦めずに相談してみましょう。
医療訴訟を検討される方向けに、医療問題弁護団に所属する木下正一郎弁護士のインタビュー記事をご用意しています。
医療訴訟の目的や費用など、詳しく説明しているため、ご一読ください。
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3.歯医者でトラブルにあったら?相談できる窓口6つ
前項では医療機関相手の訴訟の勝率が低いことを説明しました。しかし、だからといって泣き寝入りする必要はありません。弁護士はもちろん、医療問題の相談先は他にも数多く存在しています。
以下では、歯医者での被害を受けた際に相談できる窓口を紹介します。
①全国の都道府県の医療安全支援センター
2007年4月の医療法改正に伴い、各都道府県・保健所設置市・特別区には医療安全支援センターを設けることが努力義務とされました。自治体によって細かな名称の違いはありますが、
自治体ウェブサイトの医療・保険についての相談窓口から問い合わせることが可能です。
どこに相談すべきかという相談から医療内容や医師の対応などの疑問・トラブルまで気軽に相談できる窓口です。ただし、自治体によって医療事故周りの紛争解決までは取扱えなかったり、歯医者については別の相談窓口が用意されていたりなど、取扱内容についてはよく調べておく必要があります。
②自治体の歯科医師会
医療安全支援センター以外にも、各自治体に
歯科医師会があります。
歯科治療に関する問い合わせを幅広く受け付けているため、医療安全支援センターで対応できなかった場合はこちらに問い合わせるとよいでしょう。
③国民生活センター(全国の消費者センター)
国民生活センターおよび全国の消費者センターでは、商品やサービスなどの消費生活全般のトラブル相談や問い合わせに対応しています。歯医者でのトラブルも例外ではありません。
歯医者周りの国民生活センターに寄せられるトラブルとしては、特にインプラント手術にまつわる相談が多いようです。
国民生活センターが設置している総合相談窓口に
「消費者ホットライン」があります。
市外局番なしの188番に電話をかけると、最寄りの消費者センターへつないでくれるサービスです。土日祝日でも国民生活センターの専門窓口が対応してくれます。
電話番号 |
188(いやや) または03-3446-1623 |
受付時間 |
平日:10時〜12時、13時〜16時
土日祝日:10時〜16時 |
国民生活センターについては、以下で詳しく解説しています。
④裁判を使わない紛争解決(ADR)
紛争(もめごと・争いごと)を解決する手段は裁判だけではありません。それが
ADR(裁判外紛争解決手続)です。
ADRとは、損害賠償請求・経過報告の要求・再発防止策の説明請求などを対象とし、弁護士が当事者間の仲裁を行って和解を目指す制度で、
医療に特化したものもあります。
医療過誤を裁判で争おうとしても、勝訴の見込みが立たないまま長期化し、経済的な負荷がかかってしまいます。その点
医療ADRは、医療問題に精通した弁護士があっせん人として複数名関わり、法的責任の有無を明らかにすることよりも事態の解決を最優先として仲介するため、裁判と比較しても安価かつ短時間に済ませることが可能です。
ただし、ADRは勝訴・敗訴のような結果が出るものではなく、必ずしも和解に至るわけではないという点に注意が必要です。
医療ADRについては、
日弁連のウェブサイトで詳しく解説しています(各地の相談窓口の紹介付き)。
- 医療ADRの事例〜インプラント治療のトラブル
国民生活センターの資料で、インプラント治療のためにかかった歯医者の対応でトラブルになり、ADRを通じて和解に至った事例が紹介されています。
インプラント以外にも歯周病の処置や抜歯が必要だったとして、施術後になって想定をはるかに上回る請求が生じたことがトラブルの原因。損害賠償の有無と金額が争点となりました。
仲介委員(弁護士)は病院側の説明不十分を指摘。譲渡する意思はあるものの施術してしまった以上追加請求を減額はしても全く無くすことはできないと主張する歯医者側と、損害賠償をもらいたいくらいだが訴訟のリスクを負いたくない被害者側との間で、最終的に「残りの治療費47万7800円を5万円に減額する」という形での和解が取り交わされました。
参考:
国民生活センターADRの実施状況と結果概要について(2016 年度第 3 回)
⑤治療項目別の歯科医師会の相談窓口
インプラント手術と歯列矯正については、以下のような専門の相談窓口もあります。該当の施術で困ったときには、こちらに相談するのもよいでしょう。
⑥審美歯科はクーリング・オフ可能!
「クーリング・オフ」とは、商品やサービスを購入・契約から一定期間内であれば無条件でキャンセルできるきまりのことです。
美容医療サービスはこの対象で、
審美歯科(ホワイトニング)が含まれます。ただし、1ヶ月以上の契約期間と5万円以上の費用を要する場合に限られます。審美歯科を含む美容医療サービスの場合は、
契約書を受け取った日を含め8日間はクーリング・オフが可能です。
クーリング・オフを行う際は、「クーリング・オフを申し込んだ」という証拠になる全ての書類や通信記録を保管しておくことが必要です。
口頭だけで済ませてしまうと、言った言わないのトラブルになりがちです。まずは契約解除の旨を
書面で、内容証明郵便を用いて送付しましょう。もし料金を支払い済みでも返金されるように決められていますが、クレジッカードで支払った際はクレジットカード会社にもクーリング・オフを行う旨を通知する必要があります。
クーリング・オフの詳しい手順は、以下の記事で解説しています。
4.まとめ
- もし歯医者の治療で不利益(症状の悪化や別症状の発生、不要な施術による高額請求など)を被ったときは、損害賠償請求を検討ましょう。ただし、医療過誤訴訟は因果関係の立証が難しいので要注意です。
- 訴訟を起こすなら、まずは弁護士に相談。医療に強い弁護士を探す必要があるため、医療問題弁護士団・医療事故研究会・医療事故情報センターなどに相談するのがおすすめです。
- 裁判のコストやリスクが気になる場合は、医療ADR(裁判外紛争解決手続)も検討しましょう。このほか、各自治体の医療問題専門の相談窓口やインプラント・歯科矯正の専門窓口など、相談先は多数あります。
おわりに
高額になりがちな歯科治療。それゆえ、トラブルの金銭規模もそれにつれて大きくなります。
トラブルの原因の多くは、歯医者の説明不十分なまま必要のない処置を施されることと、インプラントのような大掛かりな手術のミスや後遺症でした。無用のトラブルに巻き込まれないためには、事前に契約内容をよく確認しておくことはもちろんですが、「健康な歯を保つ」ということもまた大事なのかもしれません。