この記事は以下の人に向けて書いています。
- 職場で受けている処遇がハラスメントにあたるのか知りたい人
- ハラスメントを受けた時の対処法を知りたい人
- ハラスメントをしてしまっていないか不安な人
はじめに
ハラスメントとは、
相手に対する「嫌がらせ」や「いじめ」のこと。本人の意図には関係なく、相手を不快にさせる・尊厳を傷つける・不利益を与える・脅威を与える言動はハラスメントと見なされます。
ハラスメント被害者の中には、暴言を吐かれても「自分が悪いんだ」と思ったり、性別を理由に不当な扱いを受けても「これが常識だ」と思ったりしてしまう人も少なくありません。
しかし、ハラスメントは加害者が悪いのであって、受けている側が我慢する必要はどこにもないのです。
そこでこの記事では、具体的な事例を交えながら、何がハラスメントにあたるのか、ハラスメントを受けた時にどう対処すべきか、紹介していきます。
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1.職場で起こる3大ハラスメントとは?定義と実際の訴訟事例
「もしかしてハラスメントかも?」と思っても、職場での人間関係を考えるとなかなか声を上げづらいハラスメント。
ここでは、職場で起こりやすいハラスメントの定義を、実際の事例を交えながら紹介します。ハラスメントを受けているかもしれないともやもやしている人は、自分の状況と照らし合わせながら確認してみてください。
①パワーハラスメント
- 定義
職場でよくあるハラスメントがの一つがパワーハラスメント、通称「パワハラ」です。パワハラとは、厚生労働省によって以下のように定義されています。
・上司から部下に対するものに限られず、職務上の地位や人間関係といった「職場内での優位性」を背景にする行為が該当すること
・業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合には該当せず、「業務の適正な範囲」を超える行為が該当すること
(引用元:厚生労働省「職場のパワーハラスメントの定義」)
「職場内での優位性」とは、主に上司・部下、先輩・後輩という力関係を利用した行為があたりますが、同僚間であっても、専門知識の有無を背景にした言動はパワハラにあたる可能性があります。
例えば、部下が上司に対して「こんなことも知らないのですか」と知識の優位性を背景に嘲笑するようなことがあったとすれば、それも一つのパワハラと呼べるのです。
また加えて重要となるのは、その言動が「業務の適正な範囲」を超えているかどうか、という点。たとえば業務上やむを得ない指示・指導はパワハラには当たりません。パワハラかもしれないと感じたら、職場での共通認識や実際の訴訟事例をもとに判断しましょう。
パワハラと指導の違いは下記の記事で詳しく紹介していますので、参考にしてください。
- 事例:上司の暴言でうつに、会社と上司に慰謝料を請求
(出典:雇用環境・均等局「パワーハラスメントの定義について」)
職場で働いていた会社員が、上司からの度重なる叱責によりうつを発症。休職を余儀なくされたことに対慰謝料などの損害賠償を求めた事例です。
上司は会社員に対し、「新入社員以下」「おまえは馬鹿」といった発言を行っており、判決ではこれらの発言が業務上必要な範囲を超えたパワハラであると認められました。
上司本人だけでなく会社側にも責任があるとされ、慰謝料の支払いが命じられています。
②セクシャルハラスメント
- 定義
性的な嫌がらせのほか、性別を理由に不当な扱いを受けることをセクシャルハラスメント、通称「セクハラ」といいます。こちらもパワハラと同じように、厚生労働省によって下記のような定義がなされています。
・事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、患者、学校における生徒などもセクシュアルハラスメントの行為者になり得るものであり、男性も女性も行為者にも被害者にもなり得るほか、異性に対するものだけではなく、同性に対するものも該当します。
・職場におけるセクシュアルハラスメントは、相手の性的指向(※1)又は性自認(※2)にかかわらず、該当することがあり得ます。「ホモ」「オカマ」「レズ」などを含む言動は、セクシュアルハラスメントの背景にもなり得ます。
また、性的性質を有する言動はセクシュアルハラスメントに該当します。
※1人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするか
※2性別に関する自己意識
(引用元:厚生労働省「職場におけるセクシュアルハラスメントについて」)
「性的な言動」には、体に触るなどの直接的な接触や、卑猥な言葉をかけるといった言葉によるものがあります。これらに対して、力関係を背景に被害者が拒否できない状況であったり、「応じなければ仕事から外す」などの脅し文句を口にしたりすることは、職場におけるセクハラであるとされます。
また、「だから女はダメなんだ」「男のくせに」といったような、性別だけを理由にした根拠のない暴言もセクハラです。
職場でのセクハラを撃退するポイントについては、下記の記事で詳しく紹介していますので、参考にしてください。
- 事例:「性的言動」で出勤停止処分は適法
(出典:産経ニュース「「性的言動」でセクハラ処分は適法と最高裁 大阪の水族館「セクハラ発言」訴訟で逆転判決」)
大阪府の水族館「海遊館」が、男性管理職2人をセクハラ行為があったとして出勤停止処分にしましたが、男性管理職らはこの処分が不当であると無効確認を求めた裁判。
男性管理職2人は、「俺の性欲は年々増すねん」「夜の仕事とかせえへんのか」といった言葉を繰り返し被害者女性にかけたとされています。
男性管理職らは「事前の注意もなく、処分は重過ぎる」と主張していましたが、職場でのセクハラ防止は法律によって義務付けられており、結果的に処分は適切だったと判断されました。
セクハラ被害者は、嫌だと思ったとしても、職場での人間関係の悪化を恐れて拒否できないことが多くあります。男性管理職から立場の弱い女性従業員に対しての発言であったことも加味し、セクハラであると認められたのです。
③モラルハラスメント
- 定義
上司・部下、男女間にかかわらず起こる職場での「いじめ」がモラルハラスメント、通称「モラハラ」です。
「職場いじめ」などとも呼ばれ、たとえば東京都産業労働局のパンフレットでは以下のように定義されています。
職場(職務を遂行する場所全て)において、仕事や人間関係で弱い立場に立たされている成員に対して、精神的又は身体的な苦痛を与えることにより、結果として労働者の働く権利を侵害したり、職場環境を悪化させたりする行為
(引用元:東京都TOKYOはたらくネット『「職場のいじめ」とは何か?』)
モラルハラスメントでは、「業務指示」や「指導」の名目で行われることが多いため、被害者は精神的に傷ついても「自分はダメな人間だ」「自分が悪い」と自罰感情にかられる傾向にあります。最も表面化しにくいハラスメントの一つと言えるでしょう。
モラハラの対処法については、下記の記事で詳しく紹介していますので、参考にしてください。
- 事例:同僚への暴言で賠償命令
(出典:産経ニュース「「死に損ないのブタ」「盗っ人」…凄まじき職場のモラハラの実態 女性に下された賠償命令」)
この裁判では、職場で同僚の女性から2年間にわたって暴言・暴力を受けたとして、大阪市内の女性Bが同僚女性に損害賠償を求めました。女性Bは、「死に損ないのブタ」「盗っ人」などの暴言や、椅子を蹴られるなどの暴力を受けていました。判決では、被害者が暴言の一部を録音していたことや、同僚男性の証言が決め手となり、損害賠償が認められました。
表面化しにくいモラハラを、録音や証言で裏付けて認めさせた事例です。
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2.ハラスメントを受けたらどうする?今すぐあなたにできること
職場で起きがちな3大ハラスメント
「パワハラ」「セクハラ」「モラハラ」について理解したところで、実際にハラスメントを受けてしまった時はどうすればいいのかを確認しましょう。
基本的には一人で抱え込まず、信頼できる知り合いや、社内外の相談窓口に相談しましょう。また、いつ・どこで・何をされたのかの記録をしておくと、後々証拠として役に立ちます。ハラスメントかもしれないと思ったら、メモや録音などの記録を貯めておくと良いでしょう。
①職場の相談窓口で相談する
多くの企業では、社内に相談窓口を設けています。ハラスメントについての社内規則に則って、どのような対応ができるか相談にのってもらえたり、解決に向けた行動を取ってもらえたりする可能性があります。
労働契約法の第5条では、
「使用者は、労働契約に伴い、労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」
と規定されていてます。
上にあげたハラスメント行為は、
被害者(=労働者)の生命や身体の安全が脅かされている事態と解釈できるため、会社は適切な処置をしなければなりません。
同時に、企業には相談者の不利益にならないようプライバシーの確保も求められています。ハラスメントを受けていて辛いという場合は、まずは社内窓口か人事部に相談してみると良いでしょう。
②外部の相談機関を利用する
社内の窓口に相談したことで事態が悪化することが心配だったり、相談しても取り合ってもらえなかった時は、泣き寝入りせず外部の相談機関を利用しましょう。
ここでは、主な相談先を紹介します。
- 総合労働相談コーナー
各都道府県の労働局や、全国の労働基準監督署内に設置されている、労働者のための相談窓口です。職場でのトラブルについての相談にのってもらえ、解雇、雇止め、配置転換、賃金の引下げ、募集・採用、いじめ・嫌がらせ、パワハラなどのあらゆる分野を対象としています。
面談・電話のどちらでも無料で相談可能で、予約は不要。解決の促進に関する法律について専門家からアドバイスをもらえるほか、労働局長から企業に対する「助言・指導」、専門家が企業と労働者の間に入って話し合いを促進する「あっせん」といった制度も無料で利用できます。
また、希望すれば裁判所や法テラスといった、他の相談機関の情報も提供してもらうことが可能です。
受付時間や電話番号は各都道府県によって異なりますので、こちらのリンクから探してみてください。
夜間の相談やメールでの質問に別途窓口を設けている場合もありますので、各都道府県の公式ウェブサイトから労働関係の問い合わせ先を探してみるのもよいでしょう。
- みんなの人権110番
法務省が設置する、人権問題に関する電話相談窓口です。最寄りの法務局・地方法務局に繋がり、差別や虐待、ハラスメントなどの相談にのってもらえます。
インターネットでも相談を受け付けており、その場合は相談フォームに必要事項を記入して送信すると、後日電話かメール、または面談によって回答が得られます。
秘密は厳守され、必要に応じて事実関係を調査してもらえます。無料で相談でき、国の機関として中立・公平な立場で関わってもらえるほか、面倒な書類手続きも必要ありません。
電話番号 |
0570-003-110 |
受付時間 |
平日8時30分~17時15分 |
- かいけつサポート
法務大臣による、裁判外紛争解決解決手続(ADR)という制度をサポートしてくれる団体です。
裁判外紛争解決解決手続は、民事上のトラブルを、民間の第三者が間に入って双方の言い分を聞きながら穏便な和解解決を図るというもの。
このような紛争解決手続を行なっている民間業者のうち、法律に定められた基準をクリアした業者を「かいけつサポート」として法務省が承認しているのです。
ハラスメントを受けて困っていても、訴訟には費用や時間がかかります。そんな時に話し合いによる解決をサポートしてくれるのが「かいけつサポート」なのです。
こちらのリンクから労働関係を扱う団体が探せますので、最寄りの窓口へ問い合わせてみてください。
③弁護士に相談する
裁判で決着をつけたいという場合は、弁護士に相談してみましょう。弁護士のなかにも得意分野があるので、労働問題に強い弁護士を探して相談するのがいいでしょう。
裁判にする場合は、何よりも証拠が重要になってくるため、相談の前には証拠集めも忘れずに。
いつ・どこで・何をされたのかのメモや、客観的証拠となる録音データなどが有効です。
初回相談は無料で行なってくれる法律事務所もあるので、相談前に費用を確認して連絡をしてみましょう。
あっせん制度や弁護士の利用については、下記の記事でより詳しく要点などを紹介しています。参考としてみてください。
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3.ハラスメント加害者にならないために気をつけたい3つのこと
ここまで定義と事例、そして相談先を紹介してきましたが、ハラスメントは受け手の感じ方によるところも大きいのが事実です。やった方にしてみれば「そんなつもりはなかった」「冗談だった」ということも、相手が不快に感じたらハラスメントになってしまいます。
ここでは、3大ハラスメントのポイントと、法的根拠について抑えていきましょう。
①ミスを叱って人を否定せず〜人格否定は「パワハラ」
業務上の指導か、業務の範囲を超えた暴言・暴力・職権乱用かの判断がつきにくいのがパワハラです。仕事をしていれば、部下のミスを厳しく叱責する必要もあるでしょう。
ミスを叱る時は、なぜそれをしてはいけなかったのかを明確にし、人格まで否定しないように気をつけましょう。指導に熱が入りすぎたのだとしても、部下や後輩の人格まで否定すると、それはパワハラになってしまいます。
また、
意味もなく大勢の前で叱責するのも、叱責されている人の尊厳を損なう行為であるとしてパワハラと認定されることがあります。必要にかられて叱る場合も、他の社員からは聞こえない個室を用意するなどの配慮が必要です。
さらに、法務省は2018年11月、企業にパワハラ防止措置を講じることを法律で義務化する方針を示しました。
「仕事は叱られて覚えるもの」「上司からの暴言は誰でも通る道」という常識は、もはや通用しない時代になっているのです。
②性に関する話題は慎重に〜からかいも「セクハラ」になりうる
「そんなことを言われたら何もできない」という声が後を絶たないセクハラ。気持ちはわからなくもないですが、今の時代、性に関する話題には慎重になるべきだと言えるでしょう。
男性から女性に対する行為が多い印象がありますが、
実は女性から男性に対する「そんなんだから彼女ができないんだよ」などのからかいもセクハラになります。「ただの冗談だった」「本人も笑っていた」というのは言い訳になりません。
セクハラでは、職場での力関係を背景にはっきりと拒絶できないという大きな問題があり、特にからかいは「ノリが悪いと思われたくない」という理由で我慢してしまう被害者も多くいます。
男女男女雇用機会均等法により、企業には労働者が職場内で性的に不快な思いをしないよう措置を施すことも義務づけられています。セクシャルマイノリティーについてもしばしば話題に上がる昨今、安易な気持ちで性的なからかいの言葉を口にしないようにしましょう。
③精神的苦痛を与えない〜何気ないそれ「モラハラ」かも
学校における「いじめ」が社会問題になっていますが、職場で起こるいじめをモラハラといいます。一人にだけメールを回さない、無視をする、冷笑する、陰口を言うなどは全てモラハラに該当します。
モラハラとパワハラの違いは、当事者同士の力関係にあります。
パワハラは、職場での優位性を背景にしたものでしたが、モラハラは「部下が上司を無視する」といった形でも成立します。
いじめでも、被害者が「自分が悪い」と思い込んでしまうことが問題視されていますが、職場で起こるモラハラの場合、当事者が大人である分、自罰感情はより強くなります。また、モラハラは法律上の定義が曖昧であること、パワハラやセクハラに比べて認知度が低いことから表面化しにくく、被害者が一方的に我慢して事態が悪化するケースが多いことも問題です。
精神的苦痛から被害者が退職に追い込まれるなど、表面化しにくいがゆえに深刻化もしやすいのがモラハラです。やっている側では大したことは無いと感じていても、受け手にとっては深刻な苦痛を与えているかもしれません。相手がどう感じているのかを考えられる余裕が、ハラスメントを防ぐためには非常に重要なのです。
4.まとめ
- ハラスメントとは、さまざまな「嫌がらせ」。パワハラ・セクハラ・モラハラなどが代表的で、いずれも精神的・身体的苦痛を与える行為のこと
- ハラスメントを受けたら、1人で悩まず相談しよう。会社の窓口だけでなく、各都道府県の労働局などの外部機関に頼ることもできる。
- 相手に指導をする立場である場合、意図せずハラスメントをしてしまわないよう注意。受け取り手が嫌悪感を抱けばハラスメントとされる可能性がある。
おわりに
ハラスメントは、いい大人がする「いじめ」です。例え何か理由があったとしても許されるものではありません。
ハラスメントを受けていると感じたら、1人で抱え込まず、社内外の相談窓口を利用しましょう。