この記事は以下の人に向けて書いています。
- 有給休暇の義務化についてきちんと理解したい人
- 本当に有給休暇が取れるようになるのか知りたい人
- ありがちなトラブルを知ってすぐに対処できるようになりたい人
はじめに
2019年4月から施行された働き方改革関連法で、
年次有給休暇取得の義務化が始まりました。
現在、周りの人への配慮や仕事の忙しさなどから有給休暇を使うことにためらう人は多いもの。旅行予約サイトのエクスペディア・ジャパンでは、
世界19カ国の中で日本の使用率が最も少ないという調査結果を出しています。(日本経済新聞「
有休取得率、日本が最下位 エクスペディア調査」)
この記事では、対象者や起こりがちなトラブルを詳しくご紹介。有給休暇が取れなかった場合、会社にどんな罰則があるのか、どこに相談すればいいのかなども解説しています。
どうせ取れない……と思わず、この記事を参考に行動してみてください。
1.有給休暇取得が義務化!これまでとの違いや注意点
まずは有給休暇取得の義務化で何が変わるのか、実際の流れや注意点を見ながらご紹介します。
①有休の確実な取得が目的
有給休暇取得の義務化は、有休の取得率が悪い状況を改善するために会社に課せられた取り組みです。
有休を付与した日(基準日)から1年の間に、
5日間の有給休暇を取らせる時季指定義務を果たさなければいけません。
②有給をとるまでの流れ
有給休暇を取得するまでの流れは次のとおりです。
- 10日以上の有給休暇が発生
義務化によって対象となるのは、有給休暇が10日以上付与される労働者です。
10日以上の有休が発生する条件は下記になります。
雇用形態 |
条件 |
正社員 |
6か月以上勤務 |
契約社員 |
フルタイムかつ6か月以上勤務 |
パート・アルバイト |
週30時間以上かつ6か月以上勤務 |
週4日出勤かつ3年半以上勤務 |
週3日出勤かつ5年半以上勤務 |
- 一定期間後に雇い主が対象者に声をかける
今回の義務化によって変わる最大のポイントです。
これまでは有給休暇を取得するとき自ら申し出なければならなかったため、有給の取得率が低くなりがちでした。しかしこれからは、有休休暇が発生してから半年後など一定期間を目安として、雇い主が使用率の悪い対象者に面談やメールなどで使いたい日を聞く必要があります。
- 労働者の意思を尊重しながら決定
雇い主は原則として、労働者の希望日に沿って有給休暇を取らせなければなりません。会社に都合のよい日を一方的に指定するのは原則としてNGとなります。
ただし、たとえば飲食店や工場などで有給休暇の日が重なり、業務全体が停止してしまうような場合などは、時季変更権というルールにより、会社は有給休暇をずらすよう労働者にもとめることができる場合があります。
- 計画年休
過去の年休取得率が非常に悪い場合などは、計画年休と言って、あらかじめ有給休暇をとって休む日を指定するケースもあります。
しかしこの場合でも、会社が好き勝手に休む日を指定してよいわけではありません。労働者の代表と話し合い、労使協定と呼ばれる約束を交わす必要があります。
また計画年休が指定された場合であっても、会社がすべての有給休暇を指定することはできません。最低でも5日、労働者が自由に休める有給休暇を残しておく必要があります。
自分で有給取得を申請する必要がないため、ほかの人の負担などを気に病むことなく休める点がメリットと言えます。
③こんなときはどうなるの?
- すでに5日間有休申請しているor使っている
一年間で有給をとらせる義務があるのは5日間のみであるため、それ以上の日数について、会社が指定する必要はありません。それ以上休みたい場合は、自分で会社に有給の取得を申請しましょう。
- 使える有給休暇の合計が、前年分と合わせて10日以上ある
義務の対象となるのは、1回で10日間以上の有給がもらえる場合のみです。
正社員の場合、入社半年後に10日の有給休暇が与えられるため毎回対象となりますが、問題となるのは有給の日数が10日未満であるパート・アルバイトの場合。
たとえば「前年の有給休暇が7日残っていて、今年は8日もらえたため、あわせて15日」といったケースはありますが、この場合は義務化の対象とはなりません。
- 入社日に合わせて有休を前倒しでくれた
例えば4月1日に入社したタイミングで有休をもらったときは入社日が基準日となり、会社には翌年の3月31日までに5日間有給を取得させる義務が発生します。
- 半日だけ有休にした
有給休暇は労働者と使用者がお互いに合意すれば、半日単位で取ることが可能です。このとき、まだ5日間有休使っていないのであれば0.5日分として換算されます。
ただし時間単位で取得する有給休暇は、制度の対象外となります。
④もし会社が違反したら
5日間の有給休暇を取得させることができなかった場合、会社には労働者ひとりにつき
罰金30万円が科せられます。労働者が希望する日程に応じなかった場合は、6か月以下の懲役または罰金30万円です。
また会社が時季指定をするとき、対象者や方法を就業規則に記載しなければいけません。違反すると罰金30万円が発生します。
2.こんな事態に要注意!起こりがちな4つのトラブル
会社側が率先して有給休暇の取得を促していくのが今回の取り組み。
ところがなかには
制度の抜け道を利用して、実際の休みの日を増やさないようにしたり、希望日に取らせないようにする会社もあります。
この章で、義務化に伴って起こりがちなトラブルについてご紹介しましょう。
①休みのすり替え
夏季休暇や冬季休暇などの特別休暇だった日を平日にして有給休暇をあてがう、特別休暇をそのまま有給休暇に変更するというケースです。
なかには全部の祝日を出勤日してその分の有給休暇を上乗せしておきながら、5日だけしか取らせないようにし、義務化を果たしつつ出勤日数を増やそうとする悪質な会社もいます。
②実は夏季休暇ではなくて年次有給休暇だった
特別休暇だと思ったら実は有給休暇でまかなわれていた……というパターンです。
労使協定で事前に決まっているときは違法ではありませんが、そうではない場合で会社がお盆休みや夏休みと称して勝手にあてがうのはNGとなります。
③希望通りに取れない
「人手が足りないから別の日にしてよ」「君はこの日に取りなさい」と、労働者の希望を無視するトラブルも起こりがち。
単に拒否をすると違法になるため、言葉巧みに労働者を追い詰めて変更を促す手口もあります。
④有給休暇取得を理由に嫌がらせをされる
最後にありがちな嫌がらせ(ハラスメント)について3つご紹介します。
- パワハラ
よくあるのは暴力や暴言で相手を萎縮させて有休を自由に取らせない、取得の理由をしつこく聞くというパターンです。
有給休暇を申請したら明らかに仕事の量が増えた、業務とは関係のない用事をさせられたというのも該当します。
- セクハラ
希望日に休むことと引き換えに、性的な行為をするよう求められるケースです。
「男/女のくせに生意気だ」など性別面で決めつけた根拠のない暴言や「独り身なのにそんなに休んでどうするの?」といった発言も当てはまります。
- モラハラ
有給休暇を取得したことで上司や先輩から無視をされるようになった、「こんなに忙しいのに遊んでばかり」と陰で悪口を言われるようになった、というのもよく見られるトラブルです。
3.もしもトラブルが起きたら?すぐに取りたい対処法と3つの相談先
有給休暇取得の義務化にまつわるトラブルはさまざまです。
共通しているのは、いずれのケースもひとりでは解決が難しいということ……
この章ですぐに取りたい
対処法と
相談先をご紹介しますので、巻き込まれてしまったときの参考としてください。
①まずは上司や人事部へ
有給休暇に関するトラブルが起きたら、すぐに
目上の人に相談をしましょう。直属の上司との間で発生しているときは、さらに上の立場の人に話をするようにしてください。
声をかけづらい場合は、会社の
人事部に行くのもひとつです。
②相談先
休日をすり替えたり有給休暇を勝手に使っていたときは、会社全体で悪質な対応をしている可能性が大。その際は社外の機関に連絡してアドバイスをもらうようにしましょう。
- 労働基準監督署
厚生労働省が全国各所に設置した機関です。有給休暇に関するトラブルやハラスメントなどさまざまな相談を受け付けていて、場合によっては勤務先企業に対して労働環境の是正勧告などをしてくれます。
電話番号 |
地域により異なる。こちらで確認できます。 |
受付時間 |
平日8時30分~17時15分 |
- 総合労働相談コーナー
各都道府県労働局、全国の労働基準監督署内などの380か所に設置されている窓口です。専門の相談員と問題の内容を整理したり、相談員から解決のためのアドバイスをもらうことができます。
電話番号 |
地域により異なる。こちらで確認できます。 |
受付時間 |
地域により異なる |
- 職場のトラブル相談ダイヤル
全国社労保険労務士連合会が設置している相談窓口で、電話相談や詳細な対面相談を行ってくれます。話し合い(あっせん)による解決を手伝ってくれますが、申立には1080~1万8000円程度の費用が必要です。
電話番号 |
0570-07-4864 |
受付時間 |
11時~14時 |
4.まとめ
- 年次有給休暇の義務化で対象者は必ず5日間使用しなければいけない。
- もし義務を果たせなかった場合は会社側に罰則がある。
- 有休取得にかかわるトラブルに巻き込まれたら、ひとりで悩まずすぐに相談を。
おわりに
有給休暇の取得は、法律の制定によって会社に取らせる義務が発生しましたが、労働者の権利であることに変わりはありません。
会社側の都合や不利益を被るような規則の変更があった場合は決して納得せず、速やかに相談するようにしましょう。