この記事は以下の人に向けて書いています。
- マンション・アパートの退去費用が高すぎて払えない人
- なぜ退去時にお金がかかるのか詳しい仕組みを知りたい人
- 退去時のトラブルについて、どこに相談すべきか知りたい人
はじめに
国民生活センターによると、退去費用のトラブルに関する相談件数は
毎年13000件を超えています。
「もともとあった傷を自分のせいにされて、高額な原状回復費用を請求された」
「一部しか汚れていないのに、壁紙の全張替え分を要求されている」
原因はさまざまですが、ありがちなのが
本来大家さんが支払うべき費用を負担させられているというもの。
もしそうした場合は直接交渉することで、
減額してもらえる可能性が高くなります。
この記事では、退去費用が高すぎる感じたときに取りたい行動を解説しています。いざというときの相談先や、訴訟方法についても紹介しているので参考にしてください。
1.退去費用が高すぎる!…そんなときにまず取りたい5つの行動
「退去費用が高すぎる」と感じたら、まずは
自分で適正な価格を調べてみてください。
もし正しく計算されていないことがわかれば、貸主である大家さんと再交渉して価格を下げられる可能性があります。
この章で適正な価格の調べ方や、万が一話がこじれたときの相談先などをご紹介します。
①まずは請求書の内訳を確認!
まずは
請求書の内訳を見て、何にいくら請求されているのか確認しましょう。
退去時に請求される名目は主に次の2種類です。
名目 |
内容 |
原状回復費用 |
普段の生活ではつかないような壁のシミや床の傷などを復旧する費用 |
ハウスクリーニング代 |
エアコンのクリーニング費用、水回りの清掃費用、壁紙や天井クロスの張替えなどにかかる費用 |
それぞれの名目を見て、例えば原状回復費用であれば「床のどの部分のキズに対する費用なのか」、ハウスクリーニング代であれば「どこを清掃する費用なのか」などをチェックします。
もし退去費用の総額しかわからない場合は、大家さんに明細を出してもらうようにしてください。
②価格が適正かどうかを大家さんと交渉
退去費用が高すぎるときにありがちなのが、
本来なら大家さんが負担するべき費用が借主に回っているパターンです。
請求書の内訳を確認し、もし「床の傷は一部分なのに床全面の修繕費用が請求されている」など、おかしな点があったら大家さんに交渉を行います。
どんな費用が貸主負担で、どんな費用が借主負担になるのか、国土交通省が発表している「
原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をもとに表としてまとめました。参考にしてください。
- 床の場合
貸主負担 |
借主負担 |
家具を置き続けたときにできたヘコミ |
飲み物をこぼしたときにできたシミやカビ |
経年によるフローリングの色落ちや畳の変色 |
雨の吹き込みによるフローリングの色落ちや畳の変化 |
- 壁や天井の場合
貸主負担 |
借主負担 |
冷蔵庫の裏についた黒ずみ(電気ヤケ) |
タバコによる変色 |
日焼けによる変色 |
結露を放置したことでできたシミやカビ |
画鋲などの小さな穴 |
くぎやネジなどの大きな穴 |
エアコン設置によるビス穴 |
天井に直接つけた照明器具の跡 |
- 建具(襖・網戸)の場合
貸主負担 |
借主負担 |
破損していない網戸の張替え |
家具の移動で破損した網戸 |
地震やひょうなど自然災害で破損した窓ガラス |
不注意による転倒で割れた窓ガラス |
- 設備(キッチン・風呂・トイレなど)
貸主負担 |
借主負担 |
エアコンの内部洗浄
(タバコの臭いがついていない場合) |
ガスコンロや換気扇にこびりついた油汚れ |
風呂・トイレの消毒 |
風呂・トイレ・洗面所の水アカやカビ |
破損していない浴槽・風呂釜の取り替え |
重たい物を落としたときにできた浴槽のひび割れ |
経年劣化による各設備の破損 |
手入れを怠ったことによる各設備の破損 |
これらはほんの一例ですが、
通常の生活で発生する汚損や破損などは大家さんが負担することがほとんどです。
ただ原状回復に関して
特別な内容(特約)が決められていた場合、上記の内容とは異なる処置が取られる可能性があるので注意しましょう。
③専門の相談窓口にアドバイスをもらう
もし「これはどっちが負担するべきなんだろう」と判断に迷った場合や、交渉をしても大家さんがなかなか応じてくれない場合は、次に紹介する窓口に相談してみてください。
- 消費者ホットライン
消費者庁が設けている相談窓口です。契約に関するトラブルなどに対して、専門の相談員が対処法をアドバイスしてくれます。
つながらない場合は国民生活センターの「平日バックアップ相談」に連絡してみましょう。
電話番号 |
03-3446-1623 |
受付時間 |
平日10時~12時 13時~16時 |
- 一般財団法人日本消費者協会
消費者が不利な立場とならないようにサポートを行っている団体です。相談員が賃貸におけるトラブル解決のための情報提供やアドバイス、あっせんをケースに合わせてしてくれます。
電話番号 |
03-5282-5319 |
受付時間 |
平日10時~12時 13時~16時30分 |
- 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会
賃貸住宅市場が健全に行われることを目指している協会です。大家さんや管理会社と良好な関係を築けるように、トラブルに対する助言がもらえます。
相談方法はweb・FAX・郵便の3種類です。
web |
相談フォーム |
FAX |
03-6265-1556 |
郵便 |
〒100-0004
東京都千代田区大手町2-6-1 朝日生命大手町ビル17階
(公財)日本賃貸住宅管理協会 日管協総合研究所宛 |
※回答は電話のみとなっているので、電話番号と平日10時~17時の中で都合のつく時間帯を記載する必要があります。
④弁護士に相談する
今ご紹介した団体に相談しても解決がのぞめなさそうな場合は、弁護士に相談をしましょう。
弁護士が代わりに交渉してくれたり訴訟を起こしてくれるので、精神的な負担を減らすことができます。また裁判を起こされたくないと大家さんが思って、すんなりと交渉に応じてくれるかもしれません。
ただ弁護士に相談するときには、次のような費用が必要です。
- 相談料
弁護士にトラブルの内容を説明したり、訴訟が可能かどうか聞く場合にかかる費用です。1時間5000円以上が相場となっています。
- 着手金
正式に交渉や訴訟の依頼をする際にかかる費用です。ケースによりますが、大体10万円以上かかります。
- 報酬金
裁判を起こして勝訴した場合に支払う費用となります。判決によって支払われるお金の数%が相場です。
こうした費用が必要になることから、弁護士に相談するだけでも大体
20万円前後かかります。
請求されている退去費用が少ないと弁護士費用のほうが上回る可能性もあるので、依頼する前に確認をしてください。
⑤弁護士費用がない…そんなときはどうする?
「大家さんが交渉に応じてくれない、でも弁護士に相談する費用もない……」
そうした場合でも、まだ諦める必要はありません。弁護士を通さずに安価で行える手続きが2つあるのでご紹介します。
- 民事調停
大家さんと話し合う際に、裁判官と調停委員に間に入ってもらう方法です。専門知識を持っている第三者が仲介することで、納得のいく解決を目指すことができます。
手続きをするための手順は次になります。
1.相手方の住所がある区域を管轄している簡易裁判所を探す。簡易裁判所を探したいときはこちら。
2.申立書(各簡易裁判所のウェブサイトからダウンロードするか、窓口に備え付けられたものを使う)を提出。
3.その際に手数料を支払う。 |
あとは裁判所のほうで日程を調節し、双方の話し合いの場を設けてくれます。
メリット |
・簡単に手続きできる
・費用がかからない(10万円の退去費用の場合は500円) |
デメリット |
・相手を強制的に出席させることはできない(欠席が可能)
・必ずしも解決できるとは限らない
・場合によって1年以上かかる |
- 少額訴訟
60万円以下の金銭の支払いを求めるときに起こせる訴訟です。
訴えを起こす場合の手順は次のとおり。
1.相手方の住所がある区域を管轄している簡易裁判所を探す。簡易裁判所を探したいときはこちら。
2.訴状(各簡易裁判所のウェブサイトからダウンロードするか、窓口に備え付けられたものを使う)を記入。
3.当事者が法人の場合は登記事項証明書1通、当事者が未成年の場合は親権者を証明する戸籍謄本1通、相手の人数分の訴状副本を用意。
4.訴状と書類を裁判所に提出する。その際に手数料を収入印紙で納める。手数料の参考額はこちら。 |
あとは裁判所が決めた日程に法廷へ行き、自分の言い分を述べることになります。
メリット |
・費用が手数料(印紙代)1000~6000円+郵送代4000程度で済む。
・その日のうちに判決が下され、すぐに解決できる
・訴えたときに相手から逆に訴えられる心配がない |
デメリット |
・相手が訴訟自体を拒否したときはできない
・訴訟の通知が相手に届かない場合はできない
⇒さらに訴えたい場合は通常訴訟となり、結果的に費用がかさむ |
- 集団訴訟
同じ被害を受けている仲間と一緒に訴訟を起こす方法です。弁護士費用を分担でき、ひとりあたりの費用を減らすことができます。
この場合、たとえば同じ大家さんや管理会社から高額な退去費用を言われた人たちであれば、利用できる可能性があるかもしれません。
⑥無視は絶対にNG!必ずなんらかのアクションを
明らかにおかしい金額なのに、なぜ自分が弁護士費用を払ったり面倒な手続きをしなければならないんだろう、と思うことがあるかもしれません。
しかし納得できないからと言って、
退去費用を踏み倒そうとするのはNGです。
いつまでも支払いを無視し続けていると、
・連帯保証人に請求がいく
・法的措置を取られ、退去費用以上の慰謝料を請求される
といった事態になる可能性があります。
2.退去時のトラブルを予防するために…事前に気を付けたい項目
もし高額な退去費用を請求され、納得ができなかった場合は大家さんと速やかに交渉しなければいけません。
そのような事態はできれば避けたいもの。
この章では退去時のトラブルを予防するために、事前に気を付けたいことをご紹介します。
①入居時・退去時には必ず立ち合いを!
入居時と退去時に、
大家さんや仲介業者と一緒に傷や汚れを確認してください。
・もともとあった傷や汚れなのか
・生活の中でついた傷や汚れなのか
誰がつけたものなのかがはっきりわかれば、無用なトラブルを避けられます。
大家さんが部屋の写真を撮影していることもありますが、実は数年前の写真だったという可能性はゼロではありません。
自分でも入居前や退去時の写真を撮っておくとよいです。
②退去時には可能な限り自分で掃除しよう
立会前には床の雑巾がけや窓拭き、水回りの清掃など掃除をしておくことも重要です。
自分が汚した箇所をできるかぎりきれいにしておけば、ハウスクリーニング代などを貸主の負担にすることができます。
③「敷金ゼロ」の落とし穴…退去時の費用が高額になりがち?
敷金とは、前もって部屋の原状回復費用として支払うお金のこと。
例えば契約時に敷金1か月分として7万円を支払っていた場合、もし原状回復費用が8万円なら退去時の支払金額は8-7=1で1万円です。
ただ賃貸物件の中には、敷金の負担がないことを売りにした
「敷金ゼロ」の物件があります。
入居時の負担を減らすことは確かにできますが、退去時に原状回復費用を
まるまる支払う必要があるので注意しましょう。
④入居時の「特約」は事前に要確認!
原状回復については国土交通省が発表した
ガイドラインによって決められています。
通常使用による損耗や経年劣化の原状回復であれば貸主負担、また借主負担分については敷金から差し引かれ、あまったら全額返還されるのが通常です。
ところが賃貸契約の際に、
・通常であれば貸主が負担するような原状回復費用を借主が負担する
・原状回復費用にあてて残った敷金の一部を差し引く
というような
特別な事項(特約)が記載されている場合、借主はそれに従わなければいけない可能性があります。
特約のすべてが貸主が不利になるようなものではありませんが、内容が納得できるものか確認するようにしてください。
補足:2020年の民法改正で原状回復と敷金のルールが明確化
実はこれまで、原状回復と敷金のルールは法律で規定されていませんでした。
しかし
2020年の民法改正に伴い、法律で明確に定義づけられることとなります。
内容自体はこれまでと同じですが、もし借主が一方的に不利になるような原状回復や敷金に関する特例は、
消費者契約法によって否定されるようになりました。
新しいルールに関してはこちらの記事でご紹介しています。
3.まとめ
- 退去費用が高すぎると感じたら内訳を見て内容を確認しよう。
- おかしな点を見つけたら大家さんに交渉する。もしこじれたら裁判の検討を。
- トラブルを未然に防ぐために、傷や汚れを大家さんたちと一緒に確認。契約の特例にも注意する。
おわりに
高額な退去費用を言ってくる大家さんは、立場を利用して高圧的な態度を取ってくる人がいます。
しかしそれに反発してしまうと、交渉がますます難しくなってくるかもしれません。
専門機関のアドバイスをもらいながら、冷静に対処することを心がけてください。