残業代の計算はどうやるの?3つのステップ&モデルケースで徹底解説

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投稿日時 2019年03月08日 20時10分
更新日時 2019年03月08日 20時13分

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • 会社から支給された残業代が思ったよりも少なかった人

  • 残業代を正しく計算できる方法が知りたい人

  • 本来もらえるべき残業代を会社に請求したい人

はじめに

「今月は結構残業したけど、思ったより残業代が出てない気がする……」

もしそう感じたとき、どう確認すればよいでしょうか?

残業代は基本的に、「残業時間×時給×割増率」という式で求められますが、業務形態などにより、細かくルールが変わってきます。

この記事では残業代を自分で算出する方法を詳しく解説しています。本来もらえるべき残業代を、会社にきちんと請求できるようにしていきましょう。


1.残業時間を調べよう!基本は「1日8時間&週40時間」



残業時間は、決められた1日の勤務時間を超えて働いた時間です。

ただ現在、フレックスタイム制や裁量労働制などさまざまな勤務形態があり、それに伴って残業時間の扱われ方が多様になっているのが現状。

この章では、基本的な知識を抑えつつ特殊な勤務条件で働いている場合の計算方法をご紹介します。

事前に

・雇用条件通知書(就職時にかわす書類)
・給与明細
・タイムカード


を用意したうえで読んでいきましょう。

①まずは労働条件をチェック!

残業時間を調べるためには、まずはどこからが残業時間にあたるのか把握することが重要です。1日の勤務時間や休日の日数など、基本的な労働条件をチェックするところから始めましょう。

  • 1日の勤務時間

    1日の勤務時間の計算方法は、終業時間-始業時間-休憩時間です。休憩時間が設定されている場合は、その時間は勤務時間に含まれないので注意しましょう。

    例えば1日9時から17時まで働いていて、その間に休憩を1時間取っている人は、17-9-1=7で勤務時間は7時間となります。

    この7時間を超えて働いた時間が残業時間にあたり、労働者は会社にその分の賃金を求めることができます。


  • 休日の日数と曜日

    本来休日だった日に働くことは時間外労働にあたり、残業時間にあたります。雇用条件通知書などに目を通し、実際の休日と比較してみてください。

    休日には法定休日法定外休日の2種類があります。かんたんに言えば、

    ・法定休日は「毎週1回(または4週に4回)は労働者に休日を取らせなければならない」という法律に従って会社が定めた休日

    ・法定外休日は「週40時間を超えて働かせてはいけない」という法律にしたがって会社が定めた休日

    という違いになります。

    それぞれ労働条件通知書で決められている場合が多いため、チェックしてみてください。

②特殊な労働条件がないかチェックしよう

続いて、自分の労働条件が特殊なものでないかどうかを確認してください。

  • 変形労働時間制

    変形労働時間制は、あらかじめ決められた月や年単位の労働時間を、繁忙期や閑散期に合わせて割り振ることができる制度です。

    例えば月の労働時間を170時間と定め、「最初の20日間は閑散期なので勤務時間を7時間」「月末3日間は繁忙期なので10時間」といった調節ができます。

    この制度が導入されている場合、週の労働時間ではなく、月の合計労働時間を基準にして残業が計算されることがあります。

    そうした内容も労働条件通知書に書かれていますので、チェックしてみましょう。


  • フレックスタイム制

    フレックスタイム制は、会社が必ず出社するようにと決めた時間(コアタイム)以外であれば、自由に出退勤の時間が決められる制度です。

    こちらも変形労働時間制と同じく。あらかじめ「月○時間働く」と決められた時間をもとに、残業代が発生する形となっています。


  • 裁量労働制

    裁量労働制は、完全に個人の裁量で労働時間を決められる制度です。

    あらかじめ○時間だけ働いているという「みなし時間」が取り入れられていて、基本的に残業代は支払われません。

    仕事が捗って5時間で退社した場合だけでなく、なかなか終わらずに10時間以上かかってしまった場合でも、「みなし時間」が8時間であればその時間で計算されます。

    ただし深夜手当などは労働者に支払うように法律で定められているので、22時~翌5時の勤務記録があるかどうかは確認しておいてください。


  • みなし残業制度

    みなし残業制度は、事前に一定時間分の残業代が含まれた給与が支給される制度です。

    例えば月の労働時間180時間に「みなし残業」が20時間分含まれている場合、残業時間が20時間より少なくても一定の残業代を得ることができます。

    この制度が導入されている場合、一般的には週40時間を超える労働、深夜手当、休日出勤による割増賃金は支払われることはありません。

    ただし、みなし残業による手当よりも実際に働いた残業代のほうが上回る場合、会社は労働者に差額分を支払わなければならないともされています。

    みなし残業制度で定められている残業時間と比べながら、実際の残業時間を計算してみてください。


  • 高度プロフェッショナル制度

    残業代ゼロ法案とも呼ばれている高度プロフェッショナル制度は、「働き方改革関連法」で定められた制度のひとつです。

    これによって2019年4月から、年収1075万円以上の金融ディーラーやアナリストは法律で定められている残業の上限がなくなり、かつ残業手当などの支払対象から外れることになります。

    もちろん制度の対象者だからといって「いくらでも働かせていい」わけではなく、会社は「年間104日以上、かつ4週4日以上」の休日は与えなければなりません。

    しかし残業代を支払わなくていいことに、会社側で意図的に職種や年収の操作をするケースも出てくる可能性があります。制度開始以降に不自然な職種や収入の変更があり、残業代が支給されなくなった場合は疑ってみてもいいかもしれません。

    高度プロフェッショナル制度の対象者や細かいルールについては、下記で詳しく紹介しているので参考にしてください。


③タイムカードから残業時間を割り出そう

労働条件のチェックが終わったら、次は残業時間を割り出しましょう。

一口に残業と言っても、割増賃金の対象にならない場合や時間によって割増対象になるなどさまざまな種類があります。

最後に代表的な残業の種類を紹介しますので、タイムカードから残業時間を割り出しながら、その残業時間がどのカテゴリーに入るのか確認してみてください。

  • 法定内残業

    法定内残業は、事前に決められている労働時間以上に働いた場合の残業です。

    例えば「1日4時間、週3日働いている人」が30分余分に仕事をした、人員補強でその週だけ4時間勤務の日を1日増やした、などの場合にあたります。

    1日8時間または週40時間内に収まっているため、残業時間にはあたりますが割増賃金の対象にはなりません。

    時給1000円の場合、「働いた時間×1000円」が支払われる形となります。


  • 法定外残業

    法定外残業は、1日8時間または週40時間以上の労働が対象となる残業です。

    先ほどの1日7時間勤務が2時間残業した場合を考えると、最初の1時間が法定内残業、残りの1時間が法定外残業として扱われます。

    また、法定外休日に出勤するなど、週40時間を超えた労働時間も残業とみなされます。

    ただし、変形労働時間制やフレックスタイム制の場合は、事前に会社が定めた一か月単位での総労働時間をもとに残業時間が計算されます。

    具体的な数字は労働条件通知書に記載されているため、確認するようにしましょう。

    なお、法律で決められている上限は下記の通りとなっています。

    月の日数 月の労働時間
    28日 160時間
    29日 165.7時間
    30日 171.4時間
    31日 177.1時間

    特に労働時間の定めがない場合、この上限を超えて働いていた場合は残業代が発生すると思ってください。


  • 深夜残業

    労働時間が8時間を超え、かつ22時~翌5時の時間帯だったときの労働は深夜残業と呼ばれます。深夜残業では法定外残業と深夜勤務の両方の手当が支払わなければいけません。

    10時から18時まですでに働いた人が24時まで残業した場合は、18時から22時までは法定外残業、22時から24時までは深夜残業(法定外残業+深夜勤務)となります。


  • 休日出勤

    法定休日に出勤した場合、「休日出勤」として、通常よりも高い賃金が支払われます。

    これは「週40時間/1日8時間」の労働とは別にカウントされるため、出勤日および出勤時間を数えておきましょう。


2.あなたの「時給」はいくら?ベースとなる計算方法



残業時間を割り出すことができたら、次に残業代を計算する際の基礎となる「時給」を算出します。

この章では、月給や年俸を時給に計算し直す方法をご紹介します。

①まずは基本給を割り出そう

月給や年俸から時給を計算するために、まず基本給を割り出しましょう。

基本給は給与から各手当を引いた額になります。対象となる手当は次のとおりです。

・家族手当
・通勤手当
・住宅手当
・単身赴任手当
・ボーナス・報奨金

など。

ただし、たとえば

「通勤手当は距離に関わらず一律1万円」
「住宅手当は実家暮らしであっても全員に支給」


というように手当が一律で支払われる場合は、実質的に月給の一部とみなされ、基本給に含まれます。

また年俸制の場合も同様で、事前にボーナスの額が定められているときには、手当ではなく月給として換算できます。

例えば年俸1400万円で「月給は100万円、6月と12月にボーナスとして100万円ずつ支給」と決められていたとしても、基本給は100万円ではなく116万円(1400万円÷12か月)となります。

この基本給が高ければ高いほど時給が高くなり、もらえる残業代にも関わってくるため、もれのないように計算しましょう。

②次に1か月の勤務時間を計算!

基本給を算出したら、今度は1か月の勤務時間を計算します。

給与制度 1か月の勤務時間計算式
月給制 勤務時間=1日の勤務時間×勤務日数(月間)
例:154時間=7時間×22日
年俸制 勤務時間=1日の勤務時間×勤務日数(年間)÷12
例:160時間=8時間×240日÷12
その他の制度(変形労働時間制やフレックスタイム制) 変形労働制やフレックスタイム制の場合は月あたりの勤務時間が決められているため、そのまま使えます。

③基本給÷勤務時間が時給となる

基本給と1か月の勤務時間を出したら、割り算をすれば時給を求めることができます。

たとえば、各種手当を抜いた基本給が25万円で、1か月の勤務時間が154時間だった場合の時給は、

25万円÷154時間=1623

となります。


3.残業したときの時給は割増しに!その計算方法とモデルケース



残業時間と時給まで出したら、最後に各残業の割増し率を掛け算して残業代を出します。

この章では、計算方法とあわせてモデルケースを紹介しますので参考にしてください。


①割増し率の種類



第1章でご紹介した各残業の割増し率は次のとおりです。


残業の種類 割増率 時給1200円とした場合の1時間あたりの残業代
法定内残業 0% 1200円
法定外残業 25% 1500円
深夜残業 50%(※) 1800円
休日出勤 35% 1620円
長時間(一か月に60時間を超える)残業 50% 1800円
(※)深夜残業は法定外残業(25%)と深夜勤務(25%)を足した計算です。他に例えば休日出勤で深夜まで労働した場合は、60%(35%+25%)となります。

なお、休日出勤は残業とは別扱いとなります。

そのため、休日出勤(35%)+法定外残業(25%)=60%……とはなりません。注意してください。

②計算してみよう!モデルケースと残業代

「残業時間」「時給」「割増率」がわかったら、いよいよ残業代を算出することができます。

実際にどのように出していくのか、下記モデルケースを見ながら計算してみましょう。

モデルケース
雇用形態 正社員
給与形態 月給制
給与 月給25万円(うち20時間のみなし残業代3万円 住宅手当1万円)
勤務時間 9:00~17:00(うち休憩1時間)一日7時間勤務
月の勤務日数 20日
休日 週休2日(うち法定休日は日曜)
残業内容 毎日20時に帰宅
第一・第三土曜日に出勤あり(3時間のみ)

  • まず各残業の時間を出す

    平均して20時帰宅なので、1日の残業時間は3時間(勤務時間10時間)。

    1日7時間勤務であるため、その内訳は

    法定内残業→1時間
    法定外残業→2時間

    となります。

    20日出勤したとあるので、それぞれ×20します。

    また休日出勤6時間(3時間×2日)は法定外休日にあたります。

    1日の勤務時間が10時間なので、毎週平日だけで10×5=50時間働いていることになり、週40時間の労働をすでに超えているため、この6時間も法定外残業としてカウントできることになります。

    これらを合計すると、

    法定内残業:20時間(1時間×20日)
    法定外残業:46時間(2時間×20日+6時間)


    となります。


  • 次に時給を出す

    給与からみなし残業代と住宅手当を引いて基本給を求めます。

    25万円-3万円-1万円=21万円

    また月の勤務時間は7時間×20日=140時間。

    したがって時給は、21万円÷140時間=1500円となります。


  • 割増率を掛けて残業代を求める

    残業時間の詳細と時給を出したので、あとは割増し率を掛けて残業代を算出しましょう。

    1500円(時給)×20時間(法定内残業)=30000円
    1500円(時給)×46時間(法定外残業)×1.25(法定外残業割増率)=86250円

    そこから、みなし残業代20時間分×1500円(時給)=30000円を引きます。

    よってモデルがもらえる残業代は、

    30000円+86250円-30000円=86250円となります。

③もし残業代が少ない場合は……

算出した残業代と実際に支給された金額を比較して、もし少ない場合は会社に請求しましょう。単なるミスであれば、「○○円足りない」と正確に金額を指摘すれば対処してくれるはずです。

ただわざと残業代を減らしている場合は、まともに対応してくれない可能性があります。労働基準監督署に報告しても是正勧告をするだけなので、必ずしも会社が支払ってくれるとは限りません。

その際は、やはり専門知識を有している弁護士などに相談するのが無難。万が一会社を訴えることになったときに備えて、

・給与明細
・1か月分のタイムカード
・雇用条件通知書
・「どんな仕事をして残業したのか」「残業代を請求したときに会社はどういった対応をしたのか」などを記録したメモ

などの証拠を事前に集めておきましょう。


4.まとめ

  • 残業をたくさんしたのに残業代があまり支払われなかった場合、会社がミスをしているかわざと減らしている可能性あり。

  • 残業代は「残業時間」×「残業代」×「割増率」で求めることができる。

  • 万が一少ないことがわかったら速やかに会社に請求を。応じてくれなかったら証拠を集めて弁護士に相談する。

おわりに

労働者は働いた分だけお金をもらう権利があります。

残業代を計算して少ないことがわかったら、会社や上司のプレッシャーに負けることなく毅然とした態度で請求しましょう。


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