東京医科大学、女子受験者を減点…訴訟は可能?弁護士がポイント解説

2018年08月06日その他
(画像出典:東京医科大学ウェブサイトより)

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • 東京医科大学を2011年以降に受験した女性

  • 知り合いに同大学の受験生がいる人

  • 同大学の不正採点疑惑のニュースを見て、サポートを考えている人

■はじめに

東京医科大学(東京都新宿区)が、2018年2月の医学部医学科一般入試で、女子受験生の点数を一律で減点していたことが読売新聞の報道により明らかとなりました。(編集部注:のちに全受験者の点数を減点し、一部の男子受験者および三浪以内の受験者に加点していたと修正)

この採点方式は2011年ごろから続いており、また受験者にその内容は知らされていなかったとのこと。

得点の操作の有無については内部調査による確認が進められている段階ですが、もし事実であれば、本来なら合格していたはずの女子受験生が、性別を理由に、かつそれを事前に伝えられることなく不合格にされていたことになり、2018年8月3日には同大学の正門前で抗議活動が行われるなど、怒りの声が広がっています。

こうした場合、大学側に法的な責任を問うことはできるのでしょうか。トップコート国際法律事務所の山田政樹弁護士に聞きました。

1.一律減点は違法か?過去の判例との比較と争点



――今回の医科大学の受験方式について、法的に責任を問える可能性はあるのでしょうか。

「詳細な公開情報は得られていませんが、報道によれば『女性医師は出産などで仕事をやめるケースが多く』、女性の合格者が『3割を超えるとまずいという意識があった』から、マークシート方式の一次試験で、女子受験生の『得点に0.9や0.8の係数をかけて、減点し』ていたとされています」
(編集部注:のちに全受験者の点数を減点し、一部の男子受験者および三浪以内の受験者に加点していたと修正)

このような性別を理由とした差別についてはその目的や差別的な結果の程度、性差別に対する現在の社会の考え方や、入試における大学の裁量がどの程度まで認められるべきか等、さまざまな事情を評価する必要がありますが、今回の医科大学側のケースは、不合理な差別として違法となる可能性はあると思います。

――過去にこうした性差別に関する判決が出たケースはあるのでしょうか。

「性差別という面では、日産自動車事件最高裁判所判決があります。男性の定年年齢を60歳、女性の定年年齢を55歳とする男女別定年制に対し、これを不合理な差別として無効としたものです。

また、大学入試という面では、国立大学の医学部医学科の入学試験を受験して不合格の判定を受けた55歳の方が、不合格となったのは年齢を理由とするものであって合否判定権を濫用するものであるとし、『入学を許可せよ』と求めた事案があり、こちらは受験者の敗訴となっています」

――結果だけ見ると対照的ですが、今回のケースではどのような部分がポイントとなるでしょうか。

「年齢を理由に不合格とした事案では、

①『面接における評価については,試験実施機関が専門的知識経験に基づき判断すべき事柄であり、裁判所が審理するに適さない事柄であると解される上、評価の対象となる控訴人の面接の状況を確定することはできないのであるから、面接官(ないし試験実施機関)が、年齢を理由として控訴人を差別したと認めることはできない』

②『(大学は)合格のためには、知力、体力、気力が必要であるとし、医師として活躍するには、6年間の課程に加えて、臨床研修2年間も含め卒業後10年くらいの経験が必要であることを考慮するように入学試験応募者に説明しているが、このような点を考慮することには合理性があり、受験者を合理的な理由なく単に年齢によって差別することとはならない』

といった理由から、原告の主張は認められませんでした。

今回のケースと比較すると、面接ではなく、客観的に点数を出すマークシート方式の一次試験において、受験者が女性か男性かという要素のみで減点することが、①の『試験実施機関が専門的知識経験に基づき判断すべき事柄』といえるのかどうかという部分がポイントとなるかと思います。

また、当該判決では、②知力、体力、気力を必要となること等を考慮することは合理性があると判示していますが、今回の問題では、単に女性である点を理由とすることに合理性があるかどうかも重要になるかと思います。

それらの前提として、単に女性であることを理由に一律に何点・何割減点していたかなど、性別を理由として差別が行われたことについて、適切に証拠を収集して立証できるよう、準備する必要があるでしょう」

2.訴訟を起こした場合、どんなことが請求できる?



――訴訟によって大学側に賠償金を請求することは可能なのでしょうか。

「たとえば、慰謝料として損害賠償が認められる可能性はあると思います。ただし、類似の事案が蓄積されているわけではありませんので、裁判所が認定するであろう金額については予測が難しいところです」

――受験料(60,000円)の返還を求めることは可能ですか?

『減点の事実を事前に聞かされていたら受験しなかった』という事実があれば、返還を求めることは可能かと思います。ただ訴訟の際の弁護士費用の方が高額になってしまいますので、現実的ではないかもしれません」

――訴訟によって入学を認めさせることはできるのでしょうか。

「入試での年齢差別を理由に大学入学を請求したケースでは、高裁判決で『入学者選抜の合格者ではなく、また、入学手続の期間内に、入学金、授業料等の諸費用の納付を含む入学手続を完了したことも認められない』という理由で否定されています。判例に従う限り難しいと思われます」

――再発防止策などを要求することは可能ですか?

「法的根拠がなく困難だと考えます。一般論ですが、裁判上の和解をする場合に和解条項に盛り込むことを求めるということは考えられます」

3.実際に訴訟を起こす場合には、どんなものが必要なの?



――仮に訴訟を起こす場合、どういう証拠が必要でしょうか。

「考えつく限りでは、

  • 入学者選抜に関する募集要項や実施要項
  • 大学の規則
  • 具体的にどのように得点の加減を行っていたかを裏付ける資料(受験者の得点の集計データ、減点処理に関する内部資料・文書、合格最低点・合格者数の統計資料など)
  • 受験者の得点を記載した書面

などかと思われます。多岐にわたりますので、詳細については弁護士に相談し確認することをお勧めします」

――受験者自身が大学に試験結果の開示請求をする必要がありますか。

「必要になるでしょう。基本的には大学の成績開示制度にもとづいて請求することになりますが、その制度で開示されない場合は、個人情報保護法にもとづく請求を検討することとなると考えられます」

文部科学省局長の裏口入学問題からもちあがったこの疑惑については、不正採点のマニュアルの存在があきらかとなり、また日本医師会が「受験生に対する公平性、平等性を欠く行為」との見解を発表するなど、大きな波紋が広がっています。

すでに「東京医大等入試女性差別訴訟を支える会」も立ち上がっており、大学への公開質問状の送付や、被害者からの連絡・相談の受け付けが行われています。

「医学部入試における性差別について、訴訟によって事実を明らかにし、その是非を問うということには社会的意義があると思います」(山田弁護士)

今後の動きに、注目が集まります。

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