"福祉の谷間"に落ちた障害者 「眼球使用困難症」とは?

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投稿日時 2019年06月06日 11時30分
更新日時 2019年06月06日 11時30分
カツカツと白杖をつきながら、黄色の点字ブロックをたどり、真っ黒のゴーグルを付けて待ち合わせ場所の駅の改札に現れた女性。「眼球使用困難症」患者である立川くるみさんは、目を開いて物を見ることができない困難な生活をしていながらも、障害者手帳や障害年金も認められない「福祉の谷間」に陥っています。

眼球使用困難症とは、どのような症状なのでしょうか。なぜ、福祉の申請が認められないのでしょうか。聞きました。(取材 / 文 牧野 佐千子)


(白杖をついて外出する立川くるみさん=立川さん提供)

「光を見るのが苦痛」で目が開けられない生活

極度の光過敏で、強い光や動く光を見ると耐えがたい苦痛が起こる「眼球使用困難症」。向精神薬の長期服用によるものや、角膜手術、外傷など、様々な原因が考えられています。

取材場所に現れた立川さんは、前述のように、真っ黒のゴーグルを付けて白杖をつき、黄色の点字ブロックをたどって歩いてきました。見た目には、一般にイメージする自治体などからの支援が必要な視覚障害者と変わりません。なぜ、この状態で障害年金などが認められないのでしょうか。

2人で待ち合わせ場所近くのカフェに入り、着席。立川さんにはどのように世界が見えているのか、まずは「体験」させていただきました。立川さんが普段着用しているゴーグル(電気溶接サングラス)をお借りすると、世界は真っ暗。明るい方向を見ると、かろうじて人や大きなもの影がぼんやりとわかります。

(下はそのイメージ図です。視界がこの状態で外出することを想像できますか…?)



立川さんは、同じような状況で悩む患者が集まる「みんなで勝ち取る眼球困難フロンティアの会(G-frontier)」の代表で、精力的に活動されています。今やこのような活動に欠かせないSNSなどのメディアを、どのように使っているのでしょうか。

立川さんが利用しているのは、視覚障害者用の画面読み上げ機能。スマホの画面に指を置くと、触っているアイコンが何か、読み上げてくれます。例えば、Twitterの画面を開くと、アカウント名とID、本文を読み上げてくれます。

TwitterはIDに絵文字やアルファベットの組み合わせを使う人も多く、例えば「□xvwh781xx><□」さんだとしたら(実在しません)、読み上げ機能では「アジアとオーストラリアが正面の地球エックスブイダブリューエイチななはちいちエックスエックス大なり小なり頭のうえにマルジェスチャー」といちいち読み上げられます。(長い…)

これがどれほど不便か、知りたい情報にたどり着くのにどれほど大変か、音声読み上げ機能を使ってアイマスクをして自身のスマホで試してみると、体感できます。

この状態で、ご自宅でどうやって食べるものを準備したり、お風呂に入ったりするのだろう…。
この状態で、家事や買い物など、どうやって生活しているのだろう…。
とその不便さ怖さを想像すると、取材のために外に出てきていたたいだことにとても頭が下がります。


眼球使用困難症にも障害年金を認めてほしい

立川さんは、「自分はまだいいほう」といいます。眼球使用困難症の方の中には、1日中暗室から出られない人、体調不良や精神症状を伴い、不自由な生活を強いられている人がたくさんいます。それにもかかわらず、障害者手帳は認められておらず障害年金も立川さんの疾患である眼瞼けいれんで最高3級までしか認められていません。

認められない原因は、現在の視覚障碍者の「障害」の認定が、「視力」と「視野」を基準とされているため、光過敏でものが見ることができない、まぶたが開けられないなどの眼球使用困難症の症状は、障害と認められないことになってしまいます。

参考リンク
障害者手帳 障害認定基準(厚生労働省)
視覚障害の障害年金認定基準(日本年金機構)

立川さんは、2013年に申請した障害年金が棄却されたため、眼瞼痙攣に障害年金2級以上が認められるよう、国を相手に障害年金裁判を起こしました。

裁判の内容(要約)は以下の通りです。

【原告の主張】
・視力・視野はあるが、目を使える時間が極めて短いことにより、視機能活用能力でいえば1級認定の「両目の矯正視力の和0.04以下」と見なせる。少なくとも2級の「両眼の矯正視力の和0.08以下」には入る
・症状の軽重に関わらず、重症者も含めて眼瞼けいれんが一律「障害手当金」という国の規準はおかしい

【国の主張】
・障害の認定規準は現代科学にのっとって公平公正に定められたものである
・病院のカルテに目を使う検査を受けた記載がある(原告は目が使えているとの主張)


現行の基準では、立川さんが求める障害年金2級以上の認定について、視力は「両目の矯正視力が0.08以下」視野は「日常生活が著しい制限を受ける」などとしています。


年金申請時、動く光・強い光が見られず、部屋はカーテンを閉めっぱなしで、パソコン、スマホは全盲向けの画面読み上げ機能を用いて、外出時は白杖を使い、ほぼ全盲の状態だった立川さんは、日常生活に制限を受けていると言えるのではないでしょうか。

立川さんは、「眼瞼痙攣は福祉制度の谷間に落ちてしまっている。視力や視野の数値だけではなく、実際に苦しんでいる人の状況を見て障害と認めてほしい。この裁判で勝つことができれば、眼球使用困難症患者の障害年金申請の道が拓けると考えています」と話します。

裁判の判決は6月21日(金)。「福祉の谷間」の眼球使用困難症に苦しむ人の訴えにどう応えるのか、司法の判断が注目されます。

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