この記事は以下の人に向けて書いています。
- 転職活動を行おうとしている人
- 避けたほうが良い業界を確認したい人
- ブラック業界への規制がないのか気になる人
はじめに
他の業界への転職を目指すとき、いわゆる
「ブラック業界」と言われやすい業界ではないかどうかは気になるもの。
希望する仕事があっても、業界全体で長時間労働・低賃金の傾向がある場合は、二の足を踏んでしまうことが多いかもしれません。
この記事では、主に最近「長時間労働・低賃金」の業界としてニュースで取り上げられたりした業界をピックアップしました。
もちろん、業界内の全ての企業がブラックとは言えませんが、業務の内容や仕組みなどの影響により、厳しい環境が多くなってしまう傾向があると言えるでしょう。
また、労働基準法の改正による新規制やブラック企業を見極めるポイントも解説していますので、参考にしてみてください。
1.比較的「ブラック」と呼ばれがちな業界4つ、その理由は
誰もがブラックではない業界で働きたいと考えるものの、
業務内容や業務の仕組み上、現実的にはそうなりやすい傾向がある業界がどうしても存在します。
長時間勤務や体力が必要な労働環境、競争激化による低コストなどがそれに当たります。
ここでは近年ニュースなどで取り上げられた
①「運輸業」
②「建設業」
③「介護・保育士」
④「飲食・サービス業」
をピックアップし、それぞれ理由や背景をご紹介します。
①運輸業
国土交通省が2019年4月8日に、乗務時間等の遵守違反などの法令違反があったとして、千葉県の運送事業者の事業許可を取り消しました。
運輸業は、次の理由で業務負担が大きくなります。
- 深夜労働が多い
日中に荷受けして夜中に輸送する仕組み上、深夜労働が多くなります。
- 人手不足
多くの会社で人手不足になっており、1人のドライバーが長時間運転して業務を補うことになるのです。
- ネット通販の普及により業務量が多い
最近では、ネット通販の普及により、業務量が増えてドライバーに負担がかかりやすくなっています。運輸業の経営者としては、荷受けの量が増えることで売上が延びるため歓迎されるものの、現場のドライバーとしては、負担が大きくなり心身を壊しやすくなります。
- 道路状況や荷受人の都合で業務量が増える
渋滞によって、仕方なく有料道路を使ったり、荷受人が不在のため再配達が必要になったりするので、業務量が増えます。いつ業務量が増えるか予測できないため、精神的な負担を強いられます。
②建設業
厚生労働省が定期的に発表している「労働基準関係法令違反に係る公表事案」のうち、
2019年3月29日発表の資料によると、労働基準法に違反したとして送検された建設業の事案では、
◆18歳未満に危険な作業をさせた◆高所に手すり等を設置しなかった◆労災の報告遅延◆危険な作業や場所で安全措置を講じなかった――などの違反が公表されており、
労働者に負担やリスクがかかるケースがあることがわかります。
もともと危険な作業と隣り合わせではあるものの、なぜブラック化してしまうのでしょうか。
- 納期が短い
下請けの建設業が大手ゼネコンなどから仕事を請けるためには、納期の速さや技術などをアピールしなければなりません。技術に関しては、他の会社と大きく差をつけることが難しいため、納期の早さに重点を置く企業があるからです。
その結果、現場の労働者が負担を強いられ、長時間労働や違法な連続勤務が横行することになるようです。
- 人手不足
売上を延ばすために多くの業務を請け負いますが、業務量に対して人手が不足しており、1人あたりの業務負担が増えます。
- 東京五輪や震災復興などによる需要増
オリンピックや震災復興など、一時的に建設の需要が高まっているため、経営者にとっては稼ぎ時と言えます。
本来は稼ぎ時に合わせて従業員数を増やすべきですが、正社員ではなく非正規雇用で賄うことが多いとみられています。その結果、現場での人員管理の負担が増えたり、業務効率が落ちたりすることに繋がります。
- 事故が起こりやすい
建設業は所からの落下や重機による怪我など労災が起こりやすく、健康を害するリスクが高い業界です。しかし、納期や工賃を節約するため、作業内容や従業員に無理をさせるケースが多発していると言えるでしょう。
③介護・保育
介護と保育業界は、どちらも
福祉施設で人の命を預かる仕事であるにもかかわらず、低賃金で重労働であることが長年指摘され続けています。
2018年10月、東京都世田谷区の保育園で、保育士が給与未払いなどを理由に一斉退職するトラブルが発生しました。
(
参照:2018年11月2日・朝日新聞『保育士の一斉退職、企業主導型で相次ぐ 世田谷で休園も』)
いっぽう介護職では、介護施設の職員による高齢者への虐待が増加。
厚生労働省が2019年3月26日に発表した資料によると、施設職員の「ストレスや感情コントロール」による高齢者への虐待が、全体の約3割を占めたという結果が出ています。背景には人手不足による重労働などがあるとみられています。
- 給与が低い
一般社団法人全国保育士養成協議会が発表した「保育士等における現状」によると、保育士における職場の改善希望のうち、最も多かったのが「給与・賞与等の改善」でした。
介護職員の給与水準は、厚生労働省の「介護従事者処遇状況等調査結果の概要」(2017年度版)でみると、看護や生活相談員などよりも低いことがわかります。
- 人手不足
介護士は人手不足により、1人あたりの業務負担が増えがちです。単に介護士への就職を望む人が少ないのではなく、少子高齢化によって高齢者に対して若者の数が少ないことが関係しています。
- 長時間労働が多い
保育士は、朝早くから登園し、子供を迎える準備をしたり、その日の保育終了後に翌日の準備をしたりするため、長時間労働になりやすい傾向があります。
④飲食・サービス業
飲食やサービス業は、全体的に厳しい職場環境と言われています。近年では、大手コンビニエンスストアの24時間営業の仕組みにより、フランチャイズオーナーが大きな負担を強いられていることが話題になっています。
- ノルマが厳しい
サービス業はノルマが厳しく、ノルマを達成できなければ給与を下げたり、反省文を書かせたりと、労働基準法に違反する企業が多い傾向があります。また、労働基準法に違反していなくても、ノルマ未達成の従業員を厳しく攻めることもあるのです。その他、自分で店の商品を買ってノルマを達成するよう指示するなど、様々な問題点があります。
- 長時間労働
先輩社員や上司よりも早く帰ってはいけないなど、労働者に負担をかける社風の企業もあります。正社員ではなくアルバイトが主体となりますが、正社員が常に現場にいなければならないルールを定めている会社も多く、正社員の数が少ないために長時間労働を強いられます。
- 従業員への責任追及が厳しい
消費者がクレームを入れた際には、従業員に落ち度がなくても従業員に責任を追及するケースがあります。理不尽な扱いを受けることで仕事を辞める人が増え、それによって人手不足になるという悪循環に陥ります。
2.長時間残業はなくなるかも?労働基準法改正で残業時間に縛り
ブラック企業に代表される特徴と言えば、長時間労働をイメージする方が多いのではないでしょうか。
実は、労働基準法が改正されたことで、残業時間にルールが定められるようになりました。改正の内容について詳しくみていきましょう。
①2019年4月から労働基準法が改正
政府が推進する働き方改革に伴い、2019年4月から労働基準法が改正されました。中小企業の場合は、2020年4月からの適用となります。内容は、
36協定で定められた残業時間の上限を超えて働かせた場合、罰則が科せられるといものです。
- 残業時間は月45時間が基本
使用者と労働者の間で交わされる36協定では、一部の業務を除き、1ヶ月あたりの労働時間の上限が45時間、年間320時間と定められています。
また、変形労働時間制では、月42時間、年320時間が上限です。ただし、特別条項を定めることで臨時的に上限を超えて働かせることが可能でした。今回の改正では、上限を超えて働かせた場合に罰則が科せられるようになり、さらに特別条項を設けた場合でも、上限を超えて働かせられなくなるため、労働者を守るための改正と言えます。
その他、複数の項目で改正されています。
労働基準法の改正について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
②猶予される業種と期間は?
改正後の労働基準法の適用が2024年4月1日まで猶予される業種があります。下記の表にまとめました。
業務 |
特別ルール |
適用後の取り扱い |
建設業 |
2024年3月31日までは、改正によるルールが適用されない |
・災害の復旧と復興の事業のみ、引き続き上限が規制されません。
・災害の復旧と復興の事業については、時間外労働と休日労働の合計を月100時間未満とし、2~6ヶ月の平均を80時間以内に収める内容の規制が適用されません。 |
自動車運転の業務 |
2024年3月31日までは、改正によるルールが適用されない |
・特別条項を定めた場合の年間の時間外労働の上限が960時間となります。
・時間外労働と休日労働の合計を月100時間未満とし、2~6ヶ月の平均を80時間以内に収める内容の規制が適用されません。
・月45時間以上の時間外労働が許されるのが年6ヶ月までとする内容の規制は適用されません。 |
医師 |
2024年3月31日までは、改正によるルールが適用されない |
今後、具体的な上限時間が省令で定められます。現時点では確定していません。 |
鹿児島県と沖縄県の砂糖製造業 |
時間外労働と休日労働の合計を月100時間未満とし、2~6ヶ月の平均を80時間以内に収める内容の規制が適用されません。 |
例外なく、上限規制が適用されます。 |
(
出典:2019年3月・厚生労働省『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』)
医師の時間外労働の上限については様々な意見がありますが、上限を2000時間とする案もあるなど、現実的な議論が進んでいない状況です。
過労死ラインとされる月80時間以上の時間外労働をしている医師は2人に1人とされています。医師のサービス残業の実態について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
補足:パワハラ・セクハラが横行しているときは?
ブラック企業の特徴として、長時間労働の他にもパワハラやセクハラが横行していることが挙げられます。どのようなケースがパワハラやセクハラと言えるのかみていきましょう。
- パワハラの特徴
上司など相手よりも優位な立場を利用して、業務範囲を超える指示をしたり、暴言を吐いたりすることはパワハラに該当します。「お前はバカだ」、「そんなことも知らないなんて人間の恥だ」など、人格を否定されるケースがよく知られています。
- セクハラの特徴
相手との立場の違いに関係なく、性的な内容の言動や行動をされることはセクハラに該当します。「彼氏との性生活はどうなんだ?」、「だから女はダメだ」などの発言をされたり、自分の立場を利用して性的な関係を迫ったりすることもセクハラです。
パワハラやセクハラについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
3.業界傾向は関係ない…ブラック企業を見極めるポイント3つ
長時間勤務や低賃金の常態化がそれほど見られない業界だったとしても、企業によっては、また人によっては「ブラック」と感じる企業もあるでしょう。ここでは、よくみられる特徴をご紹介します。
①求人の文言が怪しい
あくまでも傾向ではありますが、求人に次のような文言がある場合は、ブラック企業の可能性があります。
- 若いうちから責任ある仕事ができる
キャリアを重ねている年長者が退職するような環境であるため、若い人しか残っていない可能性があります。離職率が高く、その背景に長時間労働やセクハラ、パワハラなどがみられるかもしれません。「未経験歓迎」や「学歴不問」などの文言も同様です。キャリアのある人がすぐに辞めるような職場と考えられます。
- プライベートでも仲がいい
プライベートにまで踏み込まれ、休日を自分の好きなように過ごせない可能性があります。「アットホームな職場です」といった文言も同様です。
- あなたの夢はなんですか?
夢について語っている場合は、夢という形のないものを隠れ蓑として、社員に無茶な要求をする可能性があります。夢を達成するための努力を強制させたり、努力が足りないなどといい、正当に評価をしなかったりする会社もあるため注意が必要です。
②面接時にこちらの話を聞いてもらえない
面接時にこちらの話をしっかり聞いてもらえない場合は、ブラック企業の可能性があります。
人を一度雇うと、簡単には辞めさせられません。そのため、本来は面接時に転職希望者の話をよく聞き、十分に吟味して採用するかどうかを決めるべきなのですが……。
ブラック企業は、とりあえず人を確保しようとするため、転職希望者の話に耳を傾けず、会社の理念ばかり話す傾向があります。また、採用担当者が自分の自慢話をしたり、「最近の若者は……」など相手を攻めるような発言をしたりすることもあるのです。
③雇用契約書や労働条件通知書が渡されない
転職の際には、雇用契約書や労働条件通知書などが企業から渡されます。
これらの書類を渡さないことは、労働基準法違反となります。法律違反をしている企業は、労働時間や年間休日など様々な部分で法律違反をしている可能性があるため注意が必要です。
また、雇用契約書は雇用契約を結ぶために必要なため、入社前に渡されます。労働条件通知書は、入社後に渡されることもありますが、事前に労働条件を確認したい旨を伝えれば、入社前に受け取れる可能性があります。
また、健康診断書や資格免許証、身元保証書、給与振込先の届出書などの提出を求められない場合も注意が必要です。
4.まとめ
- 長時間労働や低賃金、人手不足が慢性化している業界はブラック化しやすいかもしれません。
- 一部の業務を除き、2019年4月から上限を超えての時間外労働をさせた場合に罰則が科せられるようになりました。
- 求人に書かれている内容や面接での態度、言動、入社前や入社後に渡される書類の有無などから、ある程度ブラック企業を見抜けることもあります。
おわりに
転職活動中に、企業に対して疑問や不安を感じた場合は、様々なリサーチを重ねたいもの。給与水準が高く、残業も少ない業界だからといって、全てOKとは限らないのが難しいところ。法令に違反したり、セクハラやパワハラが横行したりしている企業もありますので、常に自分を守ることを心掛けておきましょう。
逆に、労働環境が厳しい業界にあっても、ブラック化を避けようとしている企業も存在するはずです。