この記事は以下の人に向けて書いています。
- 2013年以降に契約社員として働いている人
- 納得できる理由もなく、契約の更新を打ち切られた人
- 契約期間や契約の更新回数に上限を決められている人
はじめに
「雇い止め」とは、派遣社員や契約社員の雇用契約を会社が更新せず、退職させることを指します。
契約期間途中での解雇ではなく、もともと約束していた契約期間が終わったあとのことであるため、雇い止めそのものがただちに違法となるわけではありません。
しかし
「契約更新を前提としていたはずなのに突然雇い止めにあった」「実質的な仕事内容は正社員とかわらないのに雇い止めになった」といった場合などは、たとえ契約書に雇い止めのことが書いてあったとしても、
不当な雇い止めとして取り消せる可能性があります。
この記事では、
・会社はどんな理由で雇い止めをするの?
・突然雇い止めにあったときはどうすればいい?
といった内容について、詳しく解説をしていきたいと思います。
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1.増加する雇い止め問題…その理由となっている「無期転換ルール」とは
雇い止め問題は、過去にも
「派遣切り問題(派遣労働者の契約の打ち切り)」としてクローズアップされてきましたが、2018年以降、再び大きな問題になると予想されています。
その原因となっているのが、2013年の労働契約法改正。
この章ではまず、その改正内容と、それによって起きている雇い止めのトラブルについてみていきましょう。
①5年以上働いたら無期限で雇ってもらえるように
改正によるもっとも大きな変更点は
「無期雇用転換」です。
これは同じ会社で一定期間働いた契約社員に、無期限での雇用契約を保証するもので、不安定になりがちな契約社員の雇用を安定させるために定められました。
契約社員は通常、1年から3年までの一定期間だけ働く
「有期雇用」という形で雇われています。契約期間が終わったあと、会社側は契約を更新して雇い続けるか、更新せずに雇うのを辞めるかを選び、更新されない場合、労働者は退職しなければなりません。
しかしこの改正により、
・2013年4月1日以降に契約社員となった、あるいは契約を更新した人
・1回以上契約の更新が行われている人
・同じ会社で通算5年以上働いている人
という3つの条件をすべて満たしている人は、次回の更新から契約期間の制限なしに雇ってもらうよう、会社に申し込みをすることができるようになったのです。
さらに会社側は、
この申し込みを断ることはできません。
②5年未満の労働者の雇い止めが大量発生
契約社員を無期限で雇用した場合、会社側は業績に応じて社員数を調整することが難しくなります。
そのため、2013年から5年が経った2018年以降、契約期間が5年になる前に契約更新を止める
「雇い止め」問題が大幅に増加しました。
こうした状況を受け、厚生労働省は
無期転換ルールに関するポータルサイトを設置。会社側に「無期転換ルールを避けるために雇い止めや解雇を行うことは望ましいものではない」と注意をうながすなど、対策を行っています。
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2.雇い止めにあったらまずチェック!事前に確かめたい3項目
では、もしあなたがこのような
「雇い止め」に実際にあってしまった場合、どうすればよいのでしょうか?
まずチェックすべきは、その雇い止めがどのような手続きで、どんな理由で行われたのかを確かめることです。
①契約内容が適切かどうか?
②手続きは正しく行われているか?
③雇い止めの理由は正当なものか?
という3つのポイントから、会社に雇い止めを告げられた際にまずチェックすべきポイントについて解説をしていきましょう。
①契約内容が適切かどうか?
そもそも、あなたが会社側と交わした雇用契約は、適切なものでしょうか?
まずは下記2つの部分をチェックしてみましょう。
- 契約更新の有無
会社が契約社員を雇用するときには、その契約がどのように更新されるのか、事前に必ず説明をしなければなりません。
自動的に更新されていくものなのか、契約更新される可能性があるものなのか、そもそも契約更新をするつもりはなく、1回限りの契約なのか……。
こうした内容を、労働条件通知書と呼ばれる書類に書き、雇用時に必ず渡さなければならないきまりとなっています。
こうした書類をきちんともらっているかどうか、また交わした通知書の中に書かれているのかどうか、まずはチェックしてみましょう。
もし労働条件通知書を契約時にもらっていない場合は会社側の法律違反となりますので、請求するようにしてください。
- 契約更新の判断基準
契約更新の有無と同様に、契約更新をどのような基準で行うのかも、労働条件通知書に記載しておく必要があります。
例として、「会社の経営状態により判断する」「行う仕事の進捗などによって判断する」といった内容が書かれているはずです。こちらもあわせて確認しましょう。
これら2つの内容は、あとで述べる雇い止めとなった理由とあわせて、雇い止めが正当なものであるかどうかを検証する大切な資料となります。
特に訴訟を起こす際には重要となりますので、必ず保管するようにしてください。
②手続きは正しく行われているか?
次に、雇い止めのプロセスに問題はなかったかどうかを確認してみましょう。
- 雇い止めの予告がきちんとされていたか
下記の基準を満たす契約社員の契約更新を辞める場合、会社は最低でも契約終了日の30日前までに、雇い止めをすることを労働者に伝えなければなりません。
契約を3回以上更新している
通算で1年以上の契約社員を続けている
契約期間が1年以上 |
- 一時的な雇い止めではないか
全章で説明したとおり、通算5年以上同じ会社で働いた契約社員は、無期限での雇用を会社に申し込むことができます。
ただし、この基準を満たすには連続で5年以上勤めている必要があり、契約終了から次の契約までに6ヶ月以上あいた場合は、通算の契約期間が1年目から数えなおしとなります。このことをクーリングと呼びます。
この制度を悪用し、契約期間が5年に迫った社員を一時的に雇い止めし、6ヶ月後に再び契約社員として雇用する……という手法を会社側がとるケースがあります。
こうしたクーリングを前提とした契約が行われていないかどうかも確認してみましょう。
これら2つの基準は、厚生労働省が
「望ましいものではない」と
はっきり名言しています。ただちに違法というわけではありませんが、破った場合は労働基準監督署などによる指導対象ともなり、また後ほど会社と争う際にも有力な証拠となります。
こうした雇い止めの手続き・プロセスに問題がないかどうかも、あわせてチェックをしてみてください。
③雇い止めの理由は正当なものか?
会社は、雇い止め予定の社員が希望した場合、雇い止めの理由を書面にして渡さなければなりません。これを
雇い止め理由証明書といいます。
逆に言えば、
「理由を示してほしい」と自分から言わない場合、会社は理由を告げずに雇い止めができてしまうということ。
もしもらっていない場合は、必ず雇い止め理由証明書をもらいたい旨を会社に伝えるようにしましょう。
雇い止め理由証明書には、契約を更新しない理由を記載する必要があります。ただ「契約期間が終わったから」という理由だけではNGで、なぜ、どんな事情で更新しないのかをはっきりと書く必要があります。
・開発期間が決まっているプロジェクトが終了したため
・あらかじめ定めていた更新の上限にかかったため
・無断欠勤やルール違反などを行ったため
といった例が具体的なものとしてあげられるでしょう。
いっぽうで厚生労働省は、前章で書いた
無期雇用転換を避けるためだけに雇い止めをすることについては
「望ましいものではない」と注意を促しています。
つまり、
無期雇用を避けるためだけに、契約年数の上限を5年としたり、更新回数に制限を設けていた場合、雇い止めが認められない場合もあるということです。
いずれにせよ、あなたがもし雇い止めに納得できず会社と争う場合、労働条件通知書と雇い止め理由証明書をベースに、交渉・訴訟をしていく形となります。
きちんと理由証明書をもらい、そこに書かれている内容を確認しましょう。
参考資料:雇い止めが正しいかどうかの判断基準
雇い止めの訴訟で雇い止めが正しいかどうかを判断する際の基準について、厚生労働省の資料から紹介してみます。
証拠を集める際の参考としてみてください。
業務の客観的内容 |
仕事内容は持続的なものなのか臨時的なものだったのか。正社員との仕事内容や勤務形態の違いはどのようなものだったのか。 |
契約上の地位の性格 |
重要な立場だったのか、それとも嘱託や非常勤講師などの臨時的な立場だったのか。労働条件は正社員とどう違うのか。 |
当事者の主観的態様 |
継続雇用を期待させるような言動はなかったか。 |
更新の手続・実態 |
何度も更新したり勤続年数が長期になっていないか。契約更新の際に機械的ではなくしっかりと更新手続きを行っていたか |
他の労働者の更新状況 |
同様の仕事に従事していたほかの労働者を雇い止めにしているかどうか |
(参考:厚生労働省「
有期労働契約の雇止めに関する裁判例の傾向」)
これらを踏まえると、たとえば以下のようなケースは不当な雇い止めとされる可能性が高いと言えます。
・実質的に正社員と同じような無期契約としての扱いだった
・長期間の更新が続いており、今回も当然更新が期待できる状況だった
・形式として雇用契約を結んでいるが、口頭で無期契約を前提としていた
あなたの契約がこれらのケースにあてはまっていないかどうか、確認してみましょう。
3.納得できない雇い止めにあったら…とるべき行動3ステップ
これまでの内容から、「自分が雇い止めされたのはやはりおかしいのではないか?」と思った人もいるでしょう。
そんな場合、どうしたらよいのでしょうか?
この章で詳しく解説していきます
①まずは会社に交渉&必要な資料を請求
前述のとおり、通算1年以上、あるいは3回以上の契約更新があった場合、雇い止めをすることを社員に予告しなければなりません。
予告から契約満了までのタイムラグの間に、会社とまずは交渉・相談を行いましょう。
またその際にかならず、前章で紹介した
雇い止め理由証明書をもらうようにしてください。あわせて自分の勤務状況がわかる資料を集めておくとより良いでしょう。
②公的機関の窓口に相談
会社との交渉によって、雇い止めが撤回されるケースは稀です。またそもそも、雇い止めの理由が法的に見て適切かどうか、自分で判断するには限界があるでしょう。
そんなときに強い味方となってくれるのが、各公共機関の窓口。
無料で専門家によるアドバイスをもらうことができ、場合によっては会社との交渉や弁護士の案内なども行ってくれます。
相談の際は、以下のようなものを用意しておきましょう。些細なものでもかまいませんので、なるべく多くの情報を用意し、まとめておくことがベストです。
雇い止め理由証明書
雇用契約書・労働条件通知書
会社とのやりとりや日報など、仕事内容がわかるもの
契約から雇い止めとなるまでの経緯をまとめた紙
そのほか、少しでも証拠となりそうなもの |
以下、具体的な相談窓口を紹介していきます。
- 無期転換ルール緊急相談ダイヤル
厚生労働省が設置した相談窓口で、これまで解説してきた「無期転換ルール」に関する質問や、雇い止めなどの問題についての相談をすることができます。
- 総合労働相談コーナー
労働基準監督署や労働局が運営している総合労働相談コーナーは、労働問題を専門的に扱う相談窓口で、電話か直接訪問で相談を受けてもらうことができます。場合によっては会社との交渉をあっせんしてくれたり、弁護士の紹介なども行っています。
③弁護士に依頼する
上記の窓口は主に相談・交渉・および通報のための窓口です。
会社との話し合いをあっせんしてくれたり、不適切な雇い止めをやめるよう指導してくれることはありますが、必ずしもあなた個人の問題をすぐに解決してくれるわけではありません。
費用はかかってしまいますが、労働問題を扱う弁護士に相談・依頼をすることで、会社との交渉にすぐ取り掛かることができます。
- 会社に請求できること
会社に「雇い止めが無効である」と主張する場合、具体的には2つのことを請求する形となります。それが「引き続き雇い続けること」と「未払い賃金の支払い」です。
雇い止め自体がそもそも無効であるならば、あなたはまだ同じ会社に勤めていることになります。当然ながら、会社は特別の理由がない限り、あなたをそのまま雇い続けなければなりません。
そのことにより、もし契約期間が通算5年を超えていたのであれば、会社はあなたの無期雇用の申し込みを受け入れる必要があります。
また同時に、雇い止めが無効である場合、会社は雇い止めの日からいままであなたに賃金を支払っていないことになります。そのぶんをさかのぼって、会社に請求することができるのです。
弁護士に依頼したあとの流れ
弁護士に相談・依頼を行ったあとは、まずは弁護士を通じて会社との交渉が行われます。そこで条件面などに折り合いがつかない場合は、裁判所を通じて解決をしていく形になります。
その場合によく利用されるのが、労働審判手続と呼ばれるもの。
これは、労働問題のトラブルを迅速に解決するために制定された制度で、通常の民事訴訟よりも迅速・簡易的に解決できることが特徴です。
おおよそ3か月~6か月間で上限3回以内とするの審理(お互いの主張の確認・整理)と話し合いを経て、解決を目指します。ここで合意した内容は裁判での判決と同様の効力があり、後から撤回したりすることはできません。
話し合いでも解決せず、また裁判所が最終的に出す審判にも納得できない場合は、通常の民事訴訟に移行する形となります。
多数の雇い止めがある場合は集団訴訟も検討しよう
もしあなた以外にも突然雇い止めにあった人がいた場合は、力をあわせて集団訴訟を起こすことも検討してみましょう。
集団訴訟は、同じ加害者(会社)から被害を受けた被害者(労働者)どうしが協力し、訴訟を起こすことをいいます。
証拠なども共有することができるため、ひとりで訴訟を起こすよりも有力な証拠を出しやすくなるほか、一緒に訴訟を起こす人数が多ければ、訴訟費用を共同負担して、ひとりあたりのコストを下げられる可能性もあります。
雇い止めの場合、同時に雇い止めにあった労働者がいるケースがほとんどです。周りに協力しあえる仲間がいないかを探し、検討してみましょう。
4.まとめ
- 5年以上働き続けた契約社員に無期限での雇用申し込みを認めた「無期限転換ルール」が原因となり、5年未満の契約社員の契約を更新しない「雇い止め」が増加している。
- もし雇い止めにあった場合は、①そもそもの契約内容、②雇い止めのプロセス、③雇い止めの理由が適切かどうかをそれぞれチェックしてみよう。
- 雇い止めが無効である場合、引き続き同じ会社で働き続けたり、未払い賃金を求めたりすることができる。会社への交渉、外部窓口への相談、弁護士への依頼といった手法を利用するほか、ほかにも被害者がいる場合は集団訴訟も検討しよう。
おわりに
2018年に大きな話題となった雇い止め問題ですが、今後も引き続きトラブルは続くと思われます。
万が一、納得できない理由で雇い止めにあってしまった場合、泣き寝入りせずに解決に動いてみましょう。
この記事が皆様のお役に立てば幸いです。