この記事は以下の人に向けて書いています。
- 職場に退職を伝えたところ、執拗な引き止めにあっている人
- 退職・転職を考えているが、引き止められないか心配な人
- 退職引き止めの違法性について知りたい人
はじめに
早く会社を退職したいのに、上司に引き留められてしまってなかなか退職できない……。
そんな場合には、どうしたらよいのでしょうか?
会社にとっては、長い時間をかけて育成した社員が退職してしまうのは手痛いもの。そのため、退職を申し出ても執拗に引き留められるケースが後を絶ちません。
この記事では、退職時のトラブルの対処法や、スムーズに退職するための方法について解説します。退職を考えている人は参考にしてみてください。
1.退職の引き留めは基本的に違法!事前におさえたい4つのポイント
退職に関するルールは法律で決まっており、
そのルールに沿っている限り、労働者は自由に退職することができます。労働者が法律上の退職ルールに従っているにもかかわらず、会社が無理やり退職を引き留めることは違法です。
スムーズに退職するためにおさえておきたいポイント4つをまずはご紹介します。
①退職日の基本ルール
労働者が退職するときには、退職願(退職届)を出して、会社に退職の意思を伝える必要があります。ただし、
退職すると伝えてすぐにやめられるわけではありません。雇う・雇われるという関係性は一種の契約であり、その解除には一定の期間が必要となります。
たとえば、正社員のような
無期雇用(特に雇用期間を定めずに雇用されていること)、かつ月給制で働いている労働者の場合だと、
月の前半に退職を申し出た場合は翌月、月の後半に申し出た場合は翌々月に退社することができます。
(例)7月に退職を申し出た場合
- 7月1日~7月15日までに退職願を出す→8月1日以降に退職可能
- 7月16日~7月31日までに退職願いを出す→9月1日以降に退職可能
ただし、この期間は給与の締め日によって変わってきます。
たとえば、給与の締め日が毎月15日の場合、
当月15日~翌月15日を区切りとして退職日が決まります。それによって、退職を伝えるタイミングと退職日が変わってきます。
(例)月給の締め日が毎月15日の場合
- 7月16日~7月30日までに退職願を出す→8月16日以降に退職可能
- 8月1日~8月15日までに退職願いを出す→9月16日以降に退職可能
月給制ではなく、日払いや週給制で給料を支払われている労働者の場合は、退職願を出してから2週間以降から退職ができます。月給制の労働者よりは短い期間で退職できることになりますが、それでも余裕をもって早めに提出するのが無難でしょう。
なお退職の意思は口頭で伝えるだけでも有効ですが、後から争いになることを避けるためにも、書面で退職願を提出したほうが確実です。
②事前に聞いた雇用条件と違う場合はすぐ辞めてもOK
基本的な退職ルールでは①で説明したとおりですが、
例外として、事前に提示された雇用条件が実際のものと違う場合はすぐに退職することができます。
雇用条件とは、賃金、労働時間、休日の日数、残業代などの各種労働条件のこと。
- 残業代がもらえることになっているのに、実際は支払われていない
- 休日の日数が違う
- 基本給が契約時の金額よりも少ない
上記のように、契約時に書かれている内容と実際の労働条件が異なっている場合は、
労働者はすぐに労働契約を解除し、退職することができます。
③年俸制の場合は3か月前の告知が必要
年俸制など、
半年以上の期間を基準に給与が定められている場合は、退職日の3ヶ月前までに退職の意思を伝えなければなりません。
月給制の場合と比べると、かなり早めに退職願を出す必要がありますので、年俸制で働いている方は注意するようにしましょう。
④【例外】契約社員の場合の退職ルール
契約社員のように、
「2018年9月1日から2019年8月31日まで」などと、一定の期間を定めたうえで雇うことを
有期雇用と呼びます。この場合は正社員などの無期雇用と違い、
基本的には契約期間いっぱいまで働くことを前提としています。
そのため、契約期間の途中で労働者の都合により退職した場合は、
労働契約の不履行とみなされることがあります。事情によっては会社側から退職によって生じた損害の賠償を請求される可能性もありますので、注意が必要です。
ただし例外として以下のような事情がある場合、契約期間の途中であっても退職が認められています。
- 1年以上の雇用契約を結んでいて、契約日から1年を過ぎている
- 労働者にやむを得ない事情(介護・病気・妊娠など)がある
- 労働条件が事前に聞いた話と異なる(②のようなケース)
また上記のような理由がなくても、会社との合意さえあれば退職することは可能です。どうしても契約期間いっぱいまで働きたくない場合は、まず会社に相談してみましょう。
2.こんな引き止めに遭遇したら……ありがちなケースと対処法まとめ
退職の意思を会社に伝えたとき、いろいろな理由で引き留められたり、退職を妨害されたりしてしまうことがあります。その種類と対処法について、以下のようにまとめました。
内容 |
対処法 |
①雇用条件の変更を提示される |
待遇以外のことを退職理由にする |
②社内規定を理由に引き止められる |
退職ルールは法律が優先。ルールが理不尽すぎる場合は無視することができる |
③後任が決まるまで引き止められる |
後任を決める義務はない |
④退職届を受理してもらえない |
内容証明郵便で退職届を送ることで、退職の意思を伝えたとみなされる |
⑤損害賠償を請求すると脅される |
ごく一部の例外をのぞき支払う必要はない |
①雇用条件の変更を提示される
- 概要
「給料を上げるから辞めないでくれ」「今の部署が不満なら異動させてあげるよ」などと言われて、退職させてもらえないというケースです。会社を辞める理由が待遇面だけであれば、給料を上げてもらって今の会社に留まるというのもひとつの選択肢ではあります。
ただし会社を辞めない場合は、待遇の改善がただの口約束で終わらないように注意しましょう。
- 対策
もし退職の意思が固い場合は、給与や福利厚生などの待遇面を理由にしないことがベターです。転職後の会社でしかできないことがある、両親や家族を引き合いに出すなど、会社側ではどうしようもない理由をつけて納得してもらうしかありません。なにを言われても退職の意思はゆらがないという姿勢を見せることが大切です。
②社内規定を理由に引き止められる
- 概要
就業規則などの社内規定に、「退職の通知は退職日の1ヵ月前までにおこなうこと」というような規則が定められているケースです。
- 対策
退職のルールに関しては、社内規定よりも法律のほうが優先されます。仮に社内規定に反していても、法律的に問題のない期間であれば退職することは可能です。しかし、円満に退職したいのであれば、ある程度は社内規定に従ったほうがよいでしょう。
ただし、社内規定に「退職日の半年前までに通知すること」などと、法律よりも極端に長い期間が定められている場合は、従う必要はありません。社内規定をたてに引き止められた場合も、退職を主張することができます。
③後任が決まるまで引き止められる
- 概要
「後任の社員が見つかる前に辞めるなんて、無責任だ」などと言われて、強引に引き留められてしまうパターンです。会社で社員が退職するのは当たり前のことであり、新たな人を雇うのはあくまで会社側の責任です。しかしこのように強く言われると、退職をためらってしまう人もいます。
- 対策
後任の社員が見つかるまで辞めてはいけない、という法律はありませんので、退職の意思を強く伝えましょう。ただし、あなたが期間を定めて雇用されている契約社員で、辞めたことが原因で会社に直接的な金銭被害が発生する場合(取引先から違約金を求められるなど)は、損害賠償を請求されるリスクが多少あります。
転職先がすでに決まっているなど、退職しなければならない日が迫っている場合は、退職届を出して強引に退職することも可能です。しかし円満に退職したいのであれば、事前に引継ぎの準備をきちんとおこなうなどの配慮をしておいたほうがよいかもしれません。
④退職届を受理してもらえない
- 概要
上司に退職届を渡そうとしても、「今忙しいから後にしてくれ」「退職は認めない」「とりあえず預かっておく」などと言われてしまい、退職届を受理してもらえないケースです。その後の退職の手続きが進めることができず、辞めるタイミングが決まりません。
- 対策
そもそも、法的には相手が受理するかどうかにかかわらず、自分が退職の意思を伝えて一定期間がたったあとは、一方的に退職してもかまいません。
ただし悪質な会社の場合、こちらが退職届を渡しても、「そんなものは受け取っていない」と言い張る場合があります。そのような場合は、退職届を内容証明郵便で会社に送り、退職の通知をおこなったという証拠を残したうえで退職するという手段があります。
内容証明郵便は、郵便局が送った書類の内容を保証してくれるサービスで、この方式で送られた書類の内容は、法的な証拠として扱うことができます。
相手が内容証明郵便を受け取った時点で、「退職の意思を伝えた」という事実が確定しますので、以降所定の期間後には退職することができます。相手が受け取ったという配達証明もあわせてつけておくのがベストでしょう。
また、近年増加している退職代行サービスを使うのもひとつの手です。数万円程度の費用はかかりますが、退職届の提出など退職に必要な手続きを代行してもらい、自分で会社と連絡をとる必要なく退職することができます。
⑤損害賠償を請求すると脅される
- 概要
退職しようとしたときに「損害賠償を請求するぞ」と脅されてしまうことがあります。在職中に社用車や備品などを壊してしまっていたため、その費用を請求されるケースや、雇用契約に「1年以内に退職したら罰金10万円を支払うこと」などと書かれているケースです。
- 対策
法律上の退職ルールに従って退職している限り、会社は労働者に損害賠償を請求することはできません。わざと会社に損害を与えようとした場合をのぞき、労働者のミスで会社に損害が発生するのは普通のことであり、労働者でなく会社がカバーすべきだからです。
過去には会社側が損害賠償請求を求めて訴訟をしたが認められず、逆に不当な賠償請求をしたとして労働者に賠償金を支払うよう命じたケースもあります。
また。雇用契約に違約金や罰金などを定めることは法律で禁止されています。たとえ契約書や社内規定に定められていたとしても、それは無効です。
在職中に会社の費用で研修を受けていると、退職時に研修費用の返還を求められることがあります。しかし会社の命令で研修を受けた場合や、業務をおこなううえで当然必要な研修を受けた場合は、研修費用を返還する義務もありません。
3.退職のトラブルはここに相談!労働問題の無料相談窓口3つ
退職に関連して会社とトラブルになってしまったとき、無料で相談できる窓口3つを紹介します。
各都道府県にある社会保険労務士会の相談窓口につながる無料ダイヤルです。退職させてもらえないトラブルだけでなく、退職金や未払い残業代の請求などさまざまな労働問題について相談して、解決に向けたアドバイスをもらうことができます。電話だけでなく、対面での相談も可能です。
また会社との話し合いでトラブル解決を図る
「あっせん」の手続きをしてもらうことも可能です。社労士が労働者と会社の間に入って、双方の意見を聞いたうえで和解案を提示し、問題の解決を図ってくれます。あっせんには費用がかかりますが、自分だけで会社と話し合うのが不安な場合は利用してみるとよいでしょう。
ただしあっせんの申し立てに会社側が応じる義務はないため、あっせんがそもそも成立しないという可能性はあります。
電話番号:0570-064-794
受付時間:都道府県により異なる
費用:相談は無料、あっせん費は1,080円~10,800円
各都道府県の労働局や労働基準監督署に設置されている、労働問題全般の相談窓口です。退職に関するトラブルだけでなく、
パワハラ・セクハラ、不当な配置転換など、あらゆる労働問題を対象としています。
無料の電話相談で問題解決に向けたアドバイスをもらえるほか、あっせん制度を利用することも可能です。あっせんでは、弁護士や社会保険労務士などの専門家が紛争調整委員となって労働者と会社の双方の意見を聞き、適切な和解案を提示してくれます。
電話番号:地域により異なる
受付時間:地域により異なる
費用:相談料、あっせん費ともに無料
労働問題に限らず法的トラブル全般に関する相談を受けつけている、国が設置した機関です。窓口に電話すると、専門のオペレーターがトラブル解決のための法制度の紹介や、適した相談窓口の案内などをおこなってくれます。
また
収入が一定額以下の人の場合は、無料で弁護士などの専門家に相談できる制度もあります。会社から損害賠償を請求されている場合など、訴訟になりそうなときは利用を検討してみてください。
電話番号:0570-078374
受付時間:平日9時~21時、土・日9時~17時
費用:専門オペレーターによる情報提供は無料、弁護士への法律相談は収入などの要件を満たしている場合のみ無料
4.まとめ
- 会社が労働者の退職を引き留めることは、基本的には違法
- 月給制の正社員の場合は、退職の通知が給料の閉め日の前半か後半かによって退職できる日が異なる
- 事前に聞いた雇用条件と実態が違う場合は、すぐに辞めることが可能
- 契約社員が期間の途中で退職する場合は、損害賠償を請求されるおそれもあるので注意
- 退職に関するルールは社内規定よりも法律が優先されるので、法律に従っている限り損害賠償の必要はない
- 退職でトラブルになりそうなときは、無料で相談できる公的機関に相談してみるとよい
おわりに
退職の引き留めは基本的には違法です。
退職の基本的なルールを理解して、きちんと退職の通知をおこなってから一定期間の後に退職すれば、会社側からの賠償請求に応じる必要もありません。
それでも執拗に引き留められて困っている人は、スムーズに転職するためにも、ひとりで悩まずに公的機関の窓口に相談してみてください。