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低賃金・長時間労働 メディア業界の内部で働く実態は?

投稿日時 2019年06月19日 11時57分
更新日時 2019年06月19日 11時57分
テレビや新聞、雑誌、webメディア。IT技術の発達とともに、新しいメディアが乱立し、そこで働く人の環境も変化してきています。大きなメディアが下請けの制作会社やフリーランスのクリエイターなどに発注し、「やりがい」や「好きな仕事」を掲げて働かせ、長時間・低賃金の労働で成果を搾取する構造は、メディアの形は変わっても常に存在します。

映像制作会社「クリエイティブネクサス」では、これまで過度な叱責や暴力行為を含むパワーハラスメントが横行し、複数のアシスタントディレクター(AD)が被害に遭っていました(出典:映像制作会社クリエイティブネクサスでの長時間労働・残業代不払い・パワハラ・職場暴力の事件が解決しました!)。同社の例から、メディア関連の企業の内部でどのようなことが起きているのか、見ていきます。(文・牧野 佐千子

労働者の様々な相談に応じている「総合サポートユニオン」は、被害に遭ったAD 2人から相談を受け、同社に団体交渉を申し入れました。この団体交渉を通じて、部下のADを殴る、蹴るなどの暴行に加え、「バカ」「カス」「死ね」と言った暴言を吐く上司の存在が明らかになりました。

同ユニオンの青木耕太郎さんは、同社含む最近のメディア業界で働く人からの相談で、昨年の相談1,233件のうち、多いものは「パワハラ」「賃金の問題」「長時間労働」としています。下請けの制作会社などは、「特に『働き方改革』で親会社の残業などが減った分そのしわ寄せがきている」と分析。

また、メディア業界では新しいメディアが乱立し、競争が激化。予算をギリギリまで抑えなければライバル社に発注を取られてしまうという危機感から、低予算での制作を余儀なくされます。実際の働く現場では、ますます低賃金・長時間労働に拍車がかかっているといいます。

同ユニオンがこれまでに受けた相談によると、制作会社での残業は平均的に月100~150時間に及ぶことが多く、ひどい場合は月に300時間。にもかかわらず、残業代を含む基本給は額面で20~25万円程度です。当事者は「会社の外の世界とも交流が絶たれてしまい、疑問に思ったり、考えたりする時間もないほど疲労し、精神的にも追い込まれている」といいます。このため、退職後に相談に来るケースが圧倒的に多くなります。

また、フリーランスのライターやエンジニアなどについても、労働基準法で守らなくてはいけない自社の社員で割りが合わない仕事などを、「安くて、すぐ切れる、使い勝手のいい」フリーランスに流すという構造が広がっているといいます。

別の例では、医療分野に特化した制作プロダクションを謳う「株式会社東京アドメディカ」のWeb制作等を担う別会社である「株式会社北風と太陽」で、プロジェクトマネージャー兼Webディレクターとして業務委託契約のもと常駐勤務をしていたフリーランスのAさんと、Web制作全般を担当していた元社員であるBさんが、ユニオンへ加盟しました。

以下、Aさんが書いた文章です。

フリーランスへと不当に安い金額での仕事を発注し、自分たちは顧客企業に対して他よりも「洗練された」商品として制作の提案をする

こういった企業の経営者達は「頭を使ってライバル企業を出し抜いてやるぜ!」といったような気分でいるようですが、知識・経験を備えたフリーランスは、金額に応じた時間の使い方をしますし、制作物の品質を担保することは並大抵の難しさではありません。

そんな中で、大量の「相場も知らないWebエンジニア志望者の群れ」が新規参入し、まともな契約書も作成しないまま仕事に着手。

経営者サイドからみれば、要件通りの制作物を納品されれば顧客にそのまま引き渡して差額分を丸儲け、開発が行き詰まった時には何ヶ月間作業に従事したとしてもそのフリーランスには1円も支払わずに使い捨て。

こんな企業にとっての夢物語、フリーランスにとっての悪夢が、私が働いていた「株式会社北風と太陽(東京アドメディカ)」では起きていたように思えます。

続きはこちら
フリーランスを「使い捨て」にするベンチャー企業の実態。 「株式会社北風と太陽/東京アドメディカ」が駆使するやり方とは。(エピソード1)

Aさんたちは、今年5月20日に団体交渉を申し入れ、現在交渉中です。

国内では、労働組合がある会社でもそれぞれの社内にあるため、「その条件を飲むとライバル社に負けるよ」と言われてしまうと強く出られないことが多くあります。青木さんは、メディア業界全体の労働環境を改善するためには、「その業界で働く人が集まってユニオンをつくり、業界全体の健全化に取り組む必要がある。海外ではそれは当たり前」と話します。

前出の映像制作会社「クリエイティブネクサス」の場合、団体交渉で、再発防止策として従業員に対しての研修、ポスター掲示、相談窓口の設置などを行うことを確認。当該上司は懲戒解雇処分となりました。

ユニオンに加入して、問題解決につながったADは「会社との交渉の中で、自分がいかに労働法について無知で、いかに何も主張できない”弱い人間”だったかを痛感しました。そんな私にとって、間違っていることを堂々と間違っていると訴える組合の人たちは心強い仲間でした」と話します。

また、「今も多くの人が各地の映像制作会社で苦しんでいると思いますが、悩まずユニオンに相談するべきです。ブラック業界に屈しない一人のクリエイターとしての尊厳を取り戻す事で、より良い作品が生まれるようになるのです。

会社の上層部に意見を言うのは怖いと思いますが、組合として声をあげれば会社の言いなりディレクターに成り下がることもなく、制作もうまくいくと思います。いつか業界全体がそういった誇り高い職人の世界になることを祈っています」とコメントしています。

関連リンク
総合サポートユニオン 相談受付ページhttp://sougou-u.jp/soudan.html



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