未払い賃金を取り戻すには?2つのケース別に公的制度や請求法を紹介

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投稿日時 2019年03月20日 20時02分
更新日時 2019年09月17日 17時13分

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • 会社が賃金未払いのまま経営破綻となり解雇されてしまった人

  • 勤務先の賃金が支払われたり支払われなかったり、不安定な人

  • もしも賃金未払いにあってしまったらどうするのか、予備知識を持ちたい人

はじめに

2019年2月ごろ、SNS上で「勤め先の会社から即日解雇された」とする投稿が相次ぐ騒ぎが起こりました。

その際に話題となったのが、会社が倒産した場合の未払い賃金を立て替えてもらえる「未払賃金立替払制度」です。

これは、会社の倒産などにより未払いとなった賃金を、政府機関が一時的に立て替えてくれるというもの。その仕組みや利用方法について、この記事では解説していきます。

会社が倒産していない場合の対処法も取り上げていますので、万が一の際に備えて、参考にしてみてください。



1.会社が倒産した…そんな時に!「未払賃金立替払制度」の仕組みと利用法



未払賃金立替払制度は、独立行政法人労働者健康安全機構に申請することによって利用することができます。

まずはその利用条件や、手続きの方法について解説していきましょう。

①どんな時に利用できる?

この制度が利用できるのは、会社が倒産したことで賃金が支払われなくなった…という場合のみ。

さらに加えて、以下の2つの条件を満たさなければなりません。

・倒産した会社が一年以上活動を行っていること

・請求者が、会社の破産が確定した日の6ヶ月前から、数えて2年間のうちに退職していること




②いくらもらえる?

立替えてもらえる金額は、未払い賃金の総額の8割です。

ただし、この金額には上限があり、退職日の年齢によって下記のように定められています。

退職日時点での年齢 未払い賃金の上限 立替えられる額の上限
30歳未満 370万円 296万円
30歳以上45歳未満 220万円 176万円
45歳以上 110万円 88万円
(参考:厚生労働省「未払賃金立替払制度の概要と要件について教えてください」)

また、立替えてもらえる未払い賃金は、「毎月定期的に支払われていた給与」「退職金」のみ。

そのため、たとえば以下のような内容のお金を立て替えてもらうことはできません。

・ボーナス
・出張費
・祝い金
・年末調整の還付金
・そのほか福利厚生の名目で支払われていたもの
・支払いの延滞利息

②どうやって利用する?

制度を利用するには、

「未払い賃金があること」
「会社が倒産していること」

の2つのことを証明する必要があり、その手続きは会社が倒産するまでの経緯によって大きく2つに分けられます。

  • 会社が法律上の倒産手続きをとっている場合

    会社が破産特別清算、民事再生、会社更生といった法的な手続きを踏んで倒産をしている場合は、破産した会社の資産を管理する人に、会社が倒産したことや、未払い賃金の額などについて証明してもらわなければなりません。

    倒産した会社の資産を管理する人は、それぞれ下記のように名前が変わります。

    法的な手続き 倒産した会社の資産管理人
    破産 破産管財人
    特別清算 清算人
    民事再生 再生債務者または管財人
    会社更生 管財人

    これらの管財人の名前や連絡先は、手続きが開始された段階でオフィスの正面に貼られたり、連絡がある場合がほとんどです(これを告示と言います)。

    もしわからない場合は会社が破産手続きをしている裁判所や取引先企業などに問い合わせてみるとよいでしょう。


  • 会社が事実上の倒産をした場合

    中小企業の場合、会社が法的な手続きをとっていない場合もあります。

    そのときであっても、事業が止まっていて再開のめどが立たず、かつ会社に賃金を支払う能力がないという場合であれば、事実上倒産しているとして賃金の立替えをしてもらうことができます。

    その場合に必要となるのは、労働基準監督署に会社の倒産を認定してもらう手続き。

    会社所在地を管轄している労働基準監督署へ行って事情を相談し、「認定申請書」と呼ばれる資料に記入をしてください。

    労働基準監督署の連絡先一覧

    その際に、手形の不渡などがあるかどうか、不動産の抵当権があるかどうかといった様々な情報が必要となりますので、必要な資料を事前に聞くなどして、なるべく多くの証拠を持っていくようにしましょう。

    無事に倒産が認定された場合、労働基準監督署から「認定通知書」が届きます。

    その後に再度、労働基準監督署に倒産の証明や未払い賃金額といった内容を確認する「確認申請」を行い、そのあとで未払賃金の立替えを申し込む形となります。


<手続きまとめ>
法的な倒産の場合 事実上の倒産の場合
①会社の管財人に証明書をもらう ①労働基準監督署に倒産認定を申請する
②未払賃金立替払の申請を行う ②認定後、労働基準監督署に必要事項の確認申請を行う
  ③未払賃金立替払の申請を行う

③もしもわからなかったら、相談窓口へ

未払い賃金立替払制度でわからないことがある場合は、労働者健康安全機構の立替払相談コーナーか、最寄りの労働基準監督署に相談しましょう。

  • 労働者健康安全機構の立替払相談コーナー

    本人からのみの問い合わせに対応しています。また、その際には本人確認が必要となる可能性があります。相談方法は、電話か来所となっており、メールやファックスなどでは相談できません。

    相談場所 神奈川県川崎市中原区木月住吉町1番1号
    労働者健康安全機構 医療企画・賃金援護部 審査課内
    電話番号 044-431-8663
    相談時間 月~金9:15~17:00
    定休日 土日祝


  • 労働基準監督署

    未払い賃金立替払制度を含め、労働に関する様々なトラブルを相談できます。最寄りの労働基準監督署は、こちらから検索してください。



2.立替え制度が利用できない場合はどうする?未払い賃金の請求方法



これまで説明してきた制度は、あくまで会社が倒産した場合にのみできる方法です。

もし、倒産はしていない場合はどうすればよいでしょうか?

その方法について解説していきましょう。

①働いていた証拠を集めよう

まずは、賃金が支払われなければならないことや、未払いであることを証明する証拠を集めましょう。

・給与明細
・タイムカード
・就業規則
・勤怠管理表
・雇用契約書
・給与の振込口座の通帳

上記の他、業務日誌の控えや給与、勤怠に関する資料などが証拠となります。全て揃えることができなくても証拠として認められるケースも多いため、まずは集められるだけ集めておきましょう。

②労働基準監督署に相談しよう

賃金を支払わないのはそもそも違法行為です。

そのため、まずは労働基準監督署に相談・通報を行いましょう。

その際、あくまで勤務先を管轄している監督署に行くのが肝心。所在地についてはこちらを参考にしてください。

③それでもダメだったら…会社に直接請求しよう

労働基準監督署が、必ず是正に動いてくれるとは限りません。他の案件を優先して、なかなか動いてくれないという場合も考えられます。

そうなった場合、残された道は法的手段による直接請求です。

以下、詳しい内容を解説していきます。

  • 内容証明郵便による請求

    内容証明郵便とは、日本郵便が「いつ、誰が、どのような書類を誰に送ったのか」を証明してくれるサービスのこと。

    この郵便で送られた内容は法的な証拠としての効力を持つため、訴訟などを起こす前段階として使われます。

    まずはこの郵便を使い、会社に直接未払い賃金を請求しましょう。

    詳しくは、こちらの記事も確認してください。



  • 民事調停

    民事調停とは、裁判所が行うトラブル解決方法のひとつ。裁判官が判決を下す訴訟とは違い、調停委員と呼ばれる人の助けを借りて、話し合いと合意によって解決を図ることを目的としています。

    訴訟と違って手続きも簡単で、また必要な手数料も安価なのが特徴。また話し合いの結果は法的な効力を持つため、支払いがなければ裁判所に申し立てて強制的に支払わせることも可能です。

    ただし、訴訟と違って相手を強制的に呼び出すことはできないことには注意が必要。会社の協力が前提となる制度と言えるでしょう。


  • 少額訴訟

    訴訟の中でも、簡単・安価で行うことができるのが少額訴訟です。

    60万円以下の支払を求める場合にのみ利用でき、1回の審理(互いの主張や証拠を確認すること)で判決をくだすというものです。

    ただし、民事調停と同じように、少額訴訟を行うこと自体を会社側は拒否することが可能です。その場合、通常の訴訟をしなければなりません。

    相手が顧問弁護士などを雇っていた場合は一方的に不利な状況に立たされますので、状況を見て利用を検討するようにしましょう。


  • 労働審判

    労働者と雇用主の間で起きるトラブルについて主に扱う制度で、こちらも一般の訴訟よりも比較的短期間で結論が出るのが特徴です。

    ただし、労働審判の場合は法的な専門知識が必要となってきますので、行う際は弁護士への依頼が必要となってくるでしょう。


    これらの手段の中には本人ができるものも多くありますが、相手が比較的大きな企業であったり、弁護士に依頼するだけの体力がある場合は、専門的な知識のない状態では不利となります。

    ケースバイケースではありますが、確実な結果を求めるのであれば弁護士に依頼したほうが無難でしょう。

    また、もしあなた以外にも賃金未払いの被害者がいる場合は、協力して集団訴訟を起こすこともできます。

    多くの人が協力すればそのぶん証拠も強固となるだけでなく、弁護士費用を折半して経済的な負担を抑えられる可能性もあります。


4.まとめ

  • 会社の倒産によって賃金が支払われない場合には「未払い賃金立替払制度」の利用によって公的機関に立て替えてもらうことができる。もらえる賃金の額や利用手続き方法は会社がどういう形で倒産したのかによって変わるため、事前によく調べよう。

  • 会社が倒産していないにも関わらず未払い賃金がある場合は法律違反。労働基準監督署に通報するか、会社に直接請求を行おう

おわりに

給与の未払いは、生活に重大な影響をおよぼします。

万一の際はすぐ動けるように、知識として知っておきましょう。


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