残業代ゼロ法案ってなに?対象者となる2つの条件と運用ルールを解説

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投稿日時 2019年02月12日 19時36分
更新日時 2019年02月12日 20時08分

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • 残業代ゼロ法案について情報がほしい人

  • 高所得者で法案の対象になる可能性がある人

  • 制度がどのように運用されるのか気になる人

はじめに

2006年ごろから国会でたびたび審議されていた、いわゆる「残業代ゼロ法案」が2019年4月から開始されます。

その正式な名前は「高度プロフェッショナル制度」。一定の条件を満たした労働者には、残業代を支払わなくてよいとするものです。

これまで「残業を助長する」と批判の対象になってきたこの制度、あらためて、どのような人が対象となるのでしょうか? また制度の適用者は、どのような働き方になるのでしょうか?

この記事では、2018年12月までに行われた労働政策審議会の内容を元に、制度の内容について解説していきます。もしかしたら対象者になるかも…と不安な人は、参考にしてみてください。


1.2019年4月から開始!残業代ゼロ法案はどんなもの?



残業代ゼロ法案は、どういったものなのでしょうか。また対象となるのは、どのような場合なのでしょうか?

厚生労働省の労働政策審議会で議論された内容をもとに、まずは導入されるであろう制度の内容や対象者となる人の条件について、くわしく解説していきましょう。

①そもそも残業代ゼロ法案とは?

残業代ゼロ法案(高度プロフェッショナル制度)は、2019年4月から開始される、いわゆる「働き方改革関連法」で定められた制度のひとつ。

労働時間と成果が比例しない、短時間で高い能力を発揮できる人に、より柔軟な働き方を認めることが目的とされています。

それだけ聞くと、一見よさそうな制度にうつりますが、ここでいう「労働時間に縛られない」とは、具体的にいうと下記2つの法律の対象外になることを指します。

・残業時間や休日労働の規制である36協定
・時間外労働(残業代)や休日・深夜労働の割増し賃金についての規定

(参考元:厚生労働省「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」2019年1月掲載)
 
つまりこの制度の適用者は、法律で定められている残業上限がなくなり、かつ残業代や夜勤手当、休日出勤手当などの支払対象外となるのです。

この制度が「残業代ゼロ法案」と批判される理由はこの点にあります。

②対象者は5つの職種&高所得者のみ

では、この制度の対象者とされる「短時間で高い能力を発揮できる人」とは、どのような基準で判断されるのでしょう。

厚生労働省は、制度の適用基準について、職種年収の2つを設けています。この両方とも満たす人にしか、制度は適用されません。

  • 条件1:特定の職種であること

    まずは職種による制限です。

    適用されるためには、以下の5つの専門職種のいずれかである必要があります。

    金融ディーラー
    アナリスト
    金融商品開発
    コンサルタント
    研究開発

    くわえて、これらの仕事内容は事前にきちんと決められていなければなりません。

    たとえば「金融ディーラー」という名目でありながら、それ以外の営業や事務といった仕事もさせられているような場合は、制度の対象者とはならないのです。


  • 条件2:年収が高いこと

    次に、年収でも制限が設けられます。

    その基準は「平均給与額の3倍を相当上回る水準」というもの。

    具体的な金額は省令で定められており、2018年12月の省令案では、年収1075万円以上とされています。
    (参考元:第151回労働政策審議会労働条件分科会「労働基準法施行規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令案要綱」2018年12月14日)

これらを見てもわかるとおり、適用対象者はごく一部にすぎないのです。

③制度を利用するには働く人の同意が必須

もし制度が適用される条件を満たしていた場合も、すぐに残業代がゼロとなるわけではありません。

この制度は条件を満たせば自動的に適用されるものではなく、会社が必要に応じて導入するものだからです。

さらに、導入前に会社は2ステップにわたって許可をとらなければなりません。

詳しく解説していきましょう。

  • 事業場の労使委員会で許可を得ること

    労使委員会とは、経営者と労働者の代表とで構成される委員会のこと。

    これまでにも労働時間を固定する裁量労働制を導入する際などには設置する義務がありましたが、高度プロフェッショナル制度でも、導入前の設置と決議が義務となっています。

    具体的には以下の10項目について話し合い、委員の5分の4以上の賛成を得て決議しなければなりません。

    ①対象業務 労働者に就かせる業務を明確にする。
    ②対象労働者の範囲 業務内容や職位、求める成果について書面で明確にし、基準平均給与額の3倍(1075万円)を上回る年収基準を定める。
    ③対象労働者の在社時間の把握 在社時間を把握するため、タイムカード記録などの客観的な方法を選択する。
    ④休日の確保 年間104日以上、かつ、4週4日以上の休日を与え、取得の手続き方法を定めること。
    ⑤対象労働者の健康確保措置 インターバル確保・深夜業制限、1か月または3か月の在社時間の上限措置、2週間連続の休日、臨時の健康診断、のいずれかを選択する。業務ごとに措置を変更することも可。
    ⑥対象労働者の在社時間の状況に応じた健康確保措置 在社時間の状況に応じて、⑤で選択した以外の3つの中から1つ、もしくは、厚生労働省令で定める措置のどちらかを選択する。
    ⑦同意の撤回 同意の撤回に関する手続方法を決める。なお、同意撤回をした人への不利益は禁止。
    ⑧対象労働者の苦情処理措置 苦情を申し出やすい仕組みを整え、手続方法を決める。
    ⑨不利益扱いの禁止 同意をしなかった労働者に不利益な取扱いをしない。
    ⑩その他厚生労働省令で定める事項 決議の有効期間は自動更新とはせず、期限を設けることなど。
    (参考元:厚生労働省第119回労働政策審議会安全衛生分科会「「高度プロフェッショナル制度」の導入フロー」2018年11月14日)

    この10項目が決議されたあとに、決議書を労働基準監督署に届けることで、その事業場で制度を使用できることになります。

    なお、委員会は事業場、つまり子会社や支社ごとに設置する必要があるため、「本社で決定したから支社も従え」という理由は通りません。個別で同意・届け出をする必要があります。

  • 労働者本人が制度適用に同意すること

    くわえて、制度を適用する対象者に労働者本人の同意(書面)が必要となります。適用拒否を理由に降格や減給はできないため、「この制度は適用したくない」という労働者に対し、会社は無理強いできないのです。

    また、一度同意した後に「やっぱり適用したくない」と思えば、労働者の意思で同意を撤回することもできます。


2.「休みゼロ」はNG!適用されたあとの仕組み



これまで、残業代ゼロ法案を企業が導入するまでの条件について解説してきました。

これらをクリアしたあとも、会社は働く人の健康を守るために、さまざまな対策をとらなければなりません。「対象者はいくらでも働かせてOK」というわけではないのです。

厚生労働省資料「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~ 健康の確保」(2019年1月掲載)をもとに、具体的な仕組みを紹介していきましょう。

①年間休日

高度プロフェッショナル制度の対象者であっても、会社は一定の休日を確保しなければいけません。

その基準は、

・年間104日以上

かつ

・4週4日以上

となっています。具体的にいつを休日と定めるかは自由ですが、単純に平均すると、週2日の休日をとらせなければいけない計算となります。

②健康管理措置

以下の4つのうち、どれか1つの導入が義務付けられています。どれを選択するのかは、先ほど紹介した労使委員会の決議で決定されます。

①終業・始業時刻の間に11時間以上を開ける(インターバル規制)+ 深夜業(22~5時)の回数を1ヶ月あたり4回までとする。

②1週間あたりの在社時間が40時間を超えた場合、その超えた時間は1ヶ月あたり100時間・3ヶ月あたり240時間までとする。

③1年に1回以上、2週間連続の休暇取得(労働者が希望する場合には1年に2回以上連続した1週間)について休日をあたえる。

④ 1週間あたりの在社時間が40時間を超え、超えた時間が月80時間を超えている、もしくは労働者から申し出があった場合、健康診断を実施する。

(参考元:厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について 「働き方改革~1億総活躍社会の実現に向けて」2019年1月掲載)

時間や回数などの詳しい数字:第151回労働政策審議会労働条件分科会「労働基準法施行規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令案要綱」2018年12月14日)

③厚生労働省令で定める健康管理措置

制度適用者が一定時間以上会社にいた場合、先ほど紹介した対策のうち、選択しなかった3つのうちの1つ、もしくは、厚生労働省令で定める健康管理措置どちらかを追加で導入する必要があります。

厚生労働省令で定める健康管理措置は以下の通りです。

代償休日または特別な休暇の付与
心とからだの相談窓口の設置
配置転換
産業医の助言指導に基づく健康指導
医師による面接指導
(引用元:厚生労働省第119回労働政策審議会安全衛生分科会「「高度プロフェッショナル制度」の導入フロー」2018年11月14日)


このように、高度プロフェッショナル制度は、一部の専門職だけにしか適用されず、また適用された後にも、働く人の健康を守るために様々なルールが設定されています。

しかし、企業の中には「残業代を支払わなくていい」という規定を悪用するため、労働者が対象職種だと偽装する、年収を1075万円以上で設定し様々な名目で減額するなど、法の網をかいくぐる方法を取るかもしれません。

そうした事態に陥った場合、どうすればいいのでしょうか。


3.適用したくないのに強制適用?おかしいと思った時の相談先5選



「同意しなければ問題ない」と思っていても、会社に「高度プロフェッショナル制度の対象者だから、この書類にサインして」「これにサインしないと解雇」などと突然言われるかもしれません。

制度では拒否する権利が与えられていますが、会社が高圧的に適用を迫ったり、様々な理由を付けて解雇しようとする可能性もあります。また、「これが正しい」と言われてしまうと、不安になることも考えられます。

そんなときは、社外の相談窓口を利用し、どうするべきなのかアドバイスをもらいましょう。

①総合労働相談コーナー

全国の労働基準監督署内と各都道府県労働局に設置されている相談窓口です。

パワハラやいじめ、解雇など、労働問題全般を対象にしており、専門家からアドバイスをもらうことができます。

さらに、会社側に解決案を示し当事者間でのトラブル解決を促す都道府県労働局長による助言・指導や労働問題の専門家が当事者の間に入り、話し合いを促進して問題解決を目指すあっせんの制度を利用することも可能です。

電話・メール・直接訪問のいずれかで相談することができます。ただし、メールや電話は情報提供として扱われることがほとんどなので、実際に会社へ何かしらの働きかけを希望するなら、直接訪問して相談してください。

メール 労働基準関係情報メール窓口
電話・直接訪問 全国労働基準監督署の所在案内
受付時間 平日 8:30~17:15

労働条件相談ほっとライン

違法な残業や過重労働、未払い残業代などの問題についてアドバイスを行う相談窓口です。

法令に基づいたアドバイスだけでなく、トラブルに応じて関係機関の紹介も行っています。ただし、あくまで助言を行う機関であり、会社への指導や働きかけを行うことはできません。

電話番号 0120-811-610
受付時間 平日:17時~22時 土・日:9時~21時

法テラス・サポートダイヤル

法テラスでは、法律が絡むトラブルについての問い合わせを受け付けています。高度プロフェッショナル制度についてのトラブルは、違法性が疑われるので利用してみましょう。

法律に基づいたアドバイスや関係機関の紹介をしてくれます。

電話番号 0570-078374
受付時間 平日:9時~21時 土曜:9時~17時

労働相談ホットライン

全国労働組合総連合が運営している相談窓口です。職場でのいじめやパワハラ、未払い残業代など、労働に関わる問題全般を扱っています。

電話番号 0120-378-060
受付時間 地域によって異なる

なんでも労働相談ダイヤル

日本労働組合総連合会が設けている相談窓口です。労働関係のことはすべて受け付けており、フリーダイヤルに連絡すると、最寄りの連合につながります。

電話番号 0120-154-052
受付時間 地域によって異なる
インターネットからも相談可能


4.高度プロフェッショナル制度だけではない!残業代がでないほかのパターン



高度プロフェッショナル制度の対象ではなくても、残業代が出ないパターンがいくつかあります。

「制度を適用してないのに、残業代が出ない……」という人は、これらのパターンに該当しているかもしれません。

①固定残業代制度(みなし残業)を導入している

固定残業代制度とは、あらかじめ一定の時間分の残業、休日労働、深夜残業代を給与のなかに含めて支給する方法です。

この場合、あらかじめ給与に含まれている残業時間(みなし残業時間)を超える残業をしない限り、給与にプラスして残業代が支払われることはありません。

逆に言えば、みなし残業時間を超えても残業代が支払われていなければ、違法となります。

みなし残業について、詳しくはこちらの記事でご紹介しています。



②裁量労働制を導入している

裁量労働制は、会社と労働者が決めた労働時間分、働いたとみなす制度です。

つまり、月150時間働くとみなした場合、実際の勤務時間が1時間でも200時間でも、150時間働いたことになります。

ただし、裁量労働制を導入していても、深夜残業や休日労働をした場合は、その分の賃金が支払われます。

また、裁量労働制を導入できる職種は、「専門業務型」「企画業務型」の2種類に限られています。

詳しい職種は、厚生労働省の「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」を確認してみてください。

これらの職種にあてはまっていないのにも関わらず、裁量労働制を導入されていた場合は、違法となります。

③管理監督者である

管理監督者とは、出退勤が管理されておらず、一般社員と給与に大きく違いがあり、会社の経営に口が挟めるような労働者のことです。役員クラスの立場と考えるとイメージがしやすいかもしれません。

管理監督者には、高額な役職手当が支給されているため、それが残業代相当とみなされます。

ただし、管理監督者でも深夜残業を行った場合は、その分の残業代(深夜手当)が支払われます。

そのほか、残業代のルールについては、以下の記事で解説しています。



「もしかしたら、残業代が支払われていないのかもしれない」「自分が裁量労働制なのは違法だ」という場合は、会社を労働基準監督署に告発したり、会社に未払い残業代を請求することができます。

詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。




4.まとめ

  • 残業代ゼロ法案は2019年4月から開始される高度プロフェッショナル制度のこと。職種や年収で対象者を制限し、制度導入は労働者本人の同意が必要とされている。また、労働者の健康を守るためのきまりも設けている。

  • 残業時間を支払わなくて済むよう、会社が制度を悪用した場合、適切な社外の相談窓口を利用しアドバイスを受けたり、会社へ指導をしてもらう。

  • 高度プロフェッショナル制度以外にも、①固定残業代制度②裁量労働制③管理監督者などの理由で残業代が支払われないことがある。

おわりに

「残業代ゼロ法案」は、対象職種や年収で制限を設け、さらに適用するかどうかは、本人の意思で決定できます。

制度のメリット・デメリットを把握して適用するか判断し、いざというときはすぐに社外の相談窓口に連絡しましょう。


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