「医師の残業は上限2000時間」案も…医師のサービス残業の実態と訴訟例

2019年02月01日労働問題

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • 自分以外の医師の労働時間について知りたい人

  • 医師の残業や労働について詳しい説明がほしい人

  • 長時間労働に悩んでおり、ほかの人の事例が知りたい人

はじめに

医師の長時間労働が問題となっています。

長時間労働の改善などをめざして2019年4月から実施される、いわゆる「働き方改革」においても、2019年1月現在、医師の残業時間の規制についてはまだ上限が決まっていません(2024年4月に実施予定)。

また2019年1月に行われた検討会では、一部の勤務医に対して年間1900~2000時間という通常をはるかに上回る残業上限を設定する提案がなされ、議論ともなりました。

実際のところ、医師はどの程度残業をしているのでしょうか?

この記事では、残業時間や残業代といった、医師の労働環境をめぐる実態について、政府統計などを元に解説していきます。

あわせて残業代をめぐる訴訟事例なども紹介していきますので、勤務医として働いている人は参考としてみてください。

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1.2割の病院で過労死の危機…常態化する医師の長時間労働



まずは厚生労働省の調査統計などをもとに、医師の残業実態についてみていきましょう。

なお、この章ではいわゆる勤務医(病院に雇われている医師)について扱っています。自分で病院を開設している、いわゆる開業医は含まれません。

参考:厚生労働省 「平成29年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況

①「過労死レベル」の残業が2割以上

厚生労働省が全国の病院4000件に行った調査(有効回答は1078件)によると、月45時間以上の残業をしている医師が1人以上いると回答した病院は35.3%

そのうち、80時間超の残業をしている医師が1人以上いる病院は20.4%、さらに100時間を超える残業をしている医師が1人以上いる病院は12.3%という結果が得られています。

「80時間」「100時間」以上の残業時間は、いわゆる「過労死ライン」と呼ばれる基準に達する数字。

過労死ラインとは、厚生労働省が「これ以上残業すると、労働者が疲れやストレスによって死亡する危険性が高い」としたもので、

・死亡する直前のひと月、100時間を超える残業を行っている
・死亡する前の2~6ヶ月間の平均残業時間が月80時間を超えている

という2つの基準が定められています。

つまり、20%を超える病院で、過労死レベルで働いている医師がすくなくとも1人以上いるという判断になります。

何故、このような長時間の残業が起きているのでしょうか。

②長時間残業の大きな要因となっている「当日直制度」

医師は診療以外にも、会議への出席やスタッフの教育・指導、書類作成、研修会への参加など、様々な業務を抱えています。

なかでも特に大きな負担となっているのは、当直・宿直・日直と呼ばれる制度。

いずれも患者の急変などに備えて待機することを指し、通常の勤務時間とは別に設定されています。

厚生労働省による「医師の働き方改革に関する検討会」の資料によると、1月あたり1~4回の当直を行っている医師は全体の42%。また勤務時間の長い医師ほど、当直・宿直中の待機時間が高い割合を占めているということがわかります。

法律では、医師は患者の診療希望を正当な理由なく拒否できないとする「応召義務」という義務が定められており、それに基づいて当直などの制度は定められています。

こうした状況が、医師の長時間残業を生み出す背景となっているのです。

③検討される残業規制案も「上限2000時間」とほぼ野放し

こうした現状を受け、いわゆる「働き方改革」の一環として、医師の残業時間に上限が設けれることになりました。

規制の実施は2024年4月。しかし、その具体的な上限時間についてはまだ検討段階にあり、2019年1月時点ではまだ議論が続けられている状況です。

そんな折、2019年1月11日に発表されたのは以下のような上限案でした。

・一般的な医師の場合は年960時間(1月あたり80時間)
・地域医療などのやむを得ない場合は年1900~2000時間(1月あたり158~160時間)


単月で100時間の残業を超える場合は翌月の労働時間を減らす、例外ケースに関しても段階的に年960時間に近づけていくといった一定の配慮はあるものの、日本医師ユニオンが声明を出すなど、反発の声が出ています。


この章では、医師の残業時間についてみてきましたが、もうひとつ問題となっているのが「残業代の未払い問題」

法律では、残業した従業員にはその分の賃金を支払う必要がありますが、その残業代が医師に対して適切に支払われていないケースがあるのです。

次の章で詳しく解説していきましょう。

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2.医師の残業代未払いはなぜ起きる?3つの主要原因を解説



では、医師の残業代未払いの原因には、下記3つのケースに分けられます。

①当直・宿直の取り扱いが不適切なケース
②給与携帯の取り扱いが不適切なケース
③一部の仕事を労働時間に含んでいないケース


それぞれについて詳しく解説していきます。

①当直・宿直の取り扱いが不適切なケース

前章で解説した「当直」「宿直」「日直」は、一般的に通常の労働時間とはみなされず、残業代ではなく、「当日直手当」と呼ばれる手当の形で支払われるのが一般的。

これらの業務は「必要なときだけ働く」という性質のものであるため、通常の業務とは性質が異なると考えられるからです。

ただし、宿直・当直・日直中に行う業務は、下記の条件を満たしたものに限られます。

名目 NG例
ほとんど働く必要がないこと ×当直のほとんどの時間に、通常の勤務と同じ仕事を行っている
通常勤務が完全に終わったあとに行うこと ×通常勤務を延長してそのまま当直に入る
宿直は週1回、日直は月1回以下 ×同じ週に2回宿直を担当する
夜間の場合は十分睡眠がとれること ×徹夜で宿直業務をこなした
定時巡回などの短時間業務であること ×宿直中に緊急手術を行った

これらの条件を満たさない場合は、宿日直ではなく、残業とみなされます。

たとえば宿直中に緊急で手術を行った場合、手術している時間は働いているものとみなされ、病院は別途残業代を支払わなければなりません。

また、非常時に病院から呼び出しを受けて働くオンコールという業務形態もありますが、同じく呼び出されて診察などの対応をした時間は残業時間として扱われます。

②雇用契約・就業規則に問題があるケース

もうひとつのケースとして、雇用契約に問題があるパターンがあります。具体的にいうと、特殊な給与形態を理由に、残業代の支払いをしないというもの。

詳しく見ていきましょう。

  • 年俸制

    年俸制とは、1年間の給与をあらかじめ決めて起き、それを月割りにした金額が毎月支払われるという給与の支払い方。

    この場合によく起きがちな問題が「年俸制は1年分の給与をまとめて支払っているので、残業代も支払う必要はない」というもの。

    しかし、年俸制の場合も、特別の定めがない限り残業代を別途支払う必要があります。年俸制であることだけを理由に、無償で残業をさせることはできません。

    また、事前の取り決めで「年俸の中にあらかじめ残業代を含む」としていた場合であっても、あらかじめ年俸に含む残業時間と残業代を明確にしていない場合は、残業代が含まれているとは認められません。

    さらに、当初決められていた残業時間を超えた場合は同様に支払が必要となりますし、超えていない場合であっても、深夜労働休日出勤があった場合は、その分の割増し賃金を支払う必要があります。

  • 名ばかり管理職

    もうひとつ問題になっているのが、名ばかり管理職問題です。

    法律上、「管理監督者」とされる人は残業代支払いの対象とは必要がありません。このことを逆手に取り、「医師は管理職だから残業代はでない」と言ってくるパターンです。

    しかし、医師が法的に「管理監督者」とみなされるケースは稀です。

    管理監督者であると法的に認められる職種は、自分で出勤時間や仕事内容を自由に決められたり、人事権を広く持っていたりする場合に限られます。

    該当するのは病院の院長といったクラスの立場であり、単にほかの医師や看護師に指示を出す立場というだけでは、管理監督者とはみなされないのです。

    また、仮に管理監督者に該当されるケースであっても、深夜労働に関しては別途割増し残業代を支払う必要があります。

そのほか、あらかじめ一定の残業代を月々の給与に含む「みなし残業代」についても、年俸制と同様、「給与のうち、基本給の金額と残業代の金額が区別されていない」といった問題がある場合があります。

③一部の仕事を労働時間に含んでいないケース

本来は労働時間としてカウントしなければならない時間を無視しているという場合です。

いくつか例をあげてみましょう。

  • 院内研修・勉強会

    病院側が参加が義務づけている研修や講演会への参加は、労働時間として考えられます。

    自主的に研修に行った場合は労働時間とはみなされませんが、たとえば病院から暗黙の強制があったような場合であれば、労働時間とみなされる可能性もあります。

  • 着替えや朝礼といった業務前の時間

    白衣への着替え、定例ミーティングや朝礼といった、準備や片づけに関する業務も、労働時間として数えられます。勤務時間の30分前に来て準備をする…といった場合も残業している形となります。


こうした残業代未払い問題は、これまでにも訴訟となっています。
次の章では具体的な事例をみていきましょう。

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3.800万円以上が認められたケースも!医師の未払い残業代に関する訴訟例



高額な年俸を受け取っていた男性が未払い残業代を求めた事例

  • 概要

    年俸1700万円の賃金を受け取っていた男性医師が、残業代が未払いであると主張した裁判。病院側は、医師との雇用契約で時間外労働に対する割増賃金を年俸に含めるという合意をしているため、すでに支払っていると主張した。

  • 結果

    男性医師の主張を認め、病院側に未払い残業代273万円と、その同額の付加金の支払いを命じた。

  • ポイント

    この事例では、何時間分の残業代を支払うのか、あらかじめ規定していなかったことが問題とされました。

    病院側と男性医師は、年俸に残業代を含むと取り決め、病院側は男性に高額な給与を支払っていましたが、その契約の中に残業代に対する明確な規定を入れていませんでした。

    その結果、病院側が医師に対して適正な残業代を支払っているのかわからない状態のため、そもそも給与に残業代が含まれていたとはいえないと判断されました。

宿日直は待機時間を含めて労働時間なのか争った事例

  • 概要

    産婦人科医の男性2人が病院相手に宿日直の労働に対する2年分の残業代(時間外手当)の支払いを求めた裁判。病院は労働基準監督署長の許可を得て宿日直勤務手当を支給し、宿日直中の実作業時間は割増賃金を支払っていた。しかし、男性らは、宿日直中に通常と同等の業務を行っていたことから、労働基準監督署長の許可を受ける宿日直の基準に合致していないため、待機中を含め宿日直中すべての時間の残業代が支払われるべきだと主張した。

  • 結果

    裁判所は、宿直中の待機時間を含めてすべて勤務時間であると判断し、病院に対し、A医師に736万8598円、B医師に802万8137円を支払うよう命じた。

  • ポイント

    この事例では、産婦人科医という特性が宿日直の例外基準に合わないと判断されています。

    産婦人科医の場合、いつ患者が産気づくかわからない状況にあり、日中の勤務と宿日直のどちらも同等の仕事量があると考えられました。

    その結果、「ほとんど労働する必要のない勤務時間」という宿日直の例外基準に合致しないことから、労働基準監督署長の許可そのものが誤りであったとされ、宿日直中の待機時間も含め、すべての時間が勤務時間にあたると結論付けられました。


4.まとめ

  • 過労死のリスクを抱えて働く医師が多いのが現状。残業時間の上限規制を2024年4月に予定しているが、その具体的な数字についてはいまだ議論中である。

  • 医師に対する残業代の未払いもしばしば問題に。主な原因として、宿直・当直の不適切な取扱いや、給与形態の不適切な運用などがあげられる。

おわりに

長時間残業が常態化している医療業界。

残業時間や残業代について細かな取り決めがなされていないことも多く、「医師の良心に依存している」という状態となってしまっているのが現状です。

あまりに労働環境がおかしいと感じた場合、時には声を上げるのも大切です。

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