「過労死」となる基準とは?病死と自殺、2つのケース別に指標を解説

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投稿日時 2019年01月22日 11時07分
更新日時 2019年01月22日 11時18分

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • 過労死の基準について知りたい人

  • 長時間残業を規制する法律はないのか気になる人

  • 会社の体制を変える方法がないのか知りたい人

はじめに

働き方改革により減少しつつあるものの、いまだ問題となっている「過労死」。

厚生労働省の平成29年度「過労死等の労災補償状況」によると、脳・心臓疾患により死亡した人の労災請求は241件、精神障害により自殺した人の労災請求は221件となっています。

では、過労死とはどんな基準により判断されるのでしょうか。この記事では、厚生労働省が定めるガイドラインをもとに、「過労死」の基準について解説をしていきます。

また、過労死の原因となる長時間残業を防ぐ仕組みや、会社の長時間残業を改善するための相談窓口などについてもあわせて紹介しますので、参考としてみてください。

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1.過労死の基準となる「病気」と「過労死ライン」とは?



厚生労働省のガイドラインでは、いわゆる過労死について下記の2つのケースを定め、それぞれ別個に判断の基準を設けています。

①特定の病気による死亡
②心理的なストレスによる自殺など

この章ではまず、①の特定の病気による死亡ケースについて、その判断基準を解説していきましょう。

①対象となる病気

おもに脳や心臓などの病気で、具体的には下記がまとめられていす。

脳血管疾患 脳内出血(脳出血)
くも膜下出血
脳梗塞
高血圧性脳症
虚血性心疾患等 心筋梗塞
狭心症
心停止(心臓性突然死を含む)
解離性大動脈瘤
(参考:厚生労働省「 脳・心臓疾患の労災認定 「過労死」と労災保険」)

ただし、これらの病気で死亡したら必ず過労死になる…というわけではありません。仕事が原因で病気になったことを証明する必要があります。

その基準となるのが、死亡前の残業時間。簡単に言えば、死亡の前に一定時間以上の残業をしていた場合、過労死と判断されやすくなるのです。

この基準を「過労死ライン」と呼びます。

②過労死ライン

では、具体的にどの程度の残業をしていれば、過労死とみなされるのでしょうか。

80時間100時間という、2つの数字をもとに解説しましょう。

  • 80時間

    死亡する前の2~6ヶ月間で月の残業時間の平均が80時間を超えていた場合、過労死だと認定される可能性が高くなります。

    1か月の勤務日数を20日と仮定すると、1日あたり4時間の残業。もし2ヶ月以上毎日4時間以上の残業をしていた場合は、過労死ラインを超えているとみてよいでしょう。

  • 100時間

    もし、死亡時の直近一か月の残業時間が100時間を超えていた場合は、それ以前の残業時間と関係なく、過労死基準を満たしているとみなされます。

    2~6ヶ月前の平均残業時間とは関係なく、過労死ラインを超えていると考えてください。

ただし、80時間と100時間の基準は、あくまで目安のひとつにすぎません。これより短くても、ほかの基準と照らし合わせた結果、過労死だとみなされた事例もあります。

しかし、これらの基準が扱うのは、「病気」による死亡だけです。ニュース等で話題になる、過労によるうつや自殺などは、どうなるのでしょうか。

実は、ストレスや精神疾患による自殺は「過労自殺」とよばれ、病気での死亡とは別の基準によって判断が行われています。

次の章で詳しく解説していきましょう。

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2.ストレスで自殺…そんな場合に過労死と認定される基準



仕事のストレスよる自殺は一般に過労自殺などと呼ばれ、過労死と同じく、労災として扱われます。

その判断基準を定めるのが、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」と呼ばれる通達。

こちらを元に、この章では過労自殺の判断基準について解説していきましょう。

①該当する病気

まずは、仕事が原因で特定の疾患にかかっていることがひとつの基準となります。先ほどの厚生労働省のガイドラインで挙げられている疾患から、特に、仕事が原因となって発症する可能性が高いものを紹介します。

統合失調症
統合失調症型障害
妄想性障害
気分(感情)障害
神経症性障害
ストレス関連障害
身体表現性障害

そのほか、労災に認定されるケースとして、知的障害、行動症候群、などのものも該当します。

②残業時間の基準

①で挙げた疾患にかかっていた場合でも、過労死の場合と同じく、それが仕事が原因となって発症したことを説明しなければなりません。

その判定方法は、過労死と異なりますが、同様に残業時間もひとつの指標として定められています。

過労死ラインのような明確な数値基準があるわけではありませんが、こちらも目安となる数字をもとに紹介をしていきます。

  • 160時間

    自殺時の直近一か月で160時間以上の残業を行っているケースなどが該当します。1か月に満たない場合、3週間前に120時間以上の残業を行ったケースなども、病気に関わる強いストレスとみなされやすくなります。

  • 100~120時間

    2~3か月にわたって残業が長期にわたる場合は、こちらの数字が基準となります。2ヶ月連続で月120時間以上、3か月連続で月100時間以上の残業が例として挙げられています。

  • 100時間

    1か月であっても、たとえば転勤して経験したことのない業務についていた、などの事情があった場合は、月100時間の残業でも心理的に大きなストレスがかかったと判断されやすくなります。

一見、過労死よりもより基準が厳しく見えますが、これはあくまで長時間残業「のみ」がストレスの原因とする場合。

これ以下の残業時間であっても「一定のストレスはあった」とみなされ、ひとつの材料として扱われます。そのうえで、次に紹介する事情とあわせて、総合的な判断がくだされる形となります。

③その他のストレス要因

残業以外のストレス原因も、過労自殺においては広く判断の指標として扱われます。

いくつかの要素とその具体例を紹介してみましょう。

  • セクハラ

    胸や腰を触られるセクハラが継続的に行われる場合は強いストレスがあったとみなされます。直接の被害だけでなく、会社に相談しても対応してもらえず、相談後により状況が悪化した…といったケースも含まれます。

  • パワハラ

    人格や人間性を否定するような内容の指導が執拗に継続して行われるケースです。特に治療を必要とするほどの暴行を受けた場合などは、長時間残業などの要素がなかったとしても「強いストレスがあった」と判断される可能性が高くなります。

  • 退職強要

    たとえば、退職するつもりがないにも関わらず、執拗に退職を強要されたり、理由なしで突然解雇された場合などが該当します。いわゆる「追い出し部屋」などもここにあたる可能性が高いでしょう。

そのほか、昇進昇格に伴うストレス、転勤によるストレス、達成困難なノルマが課されたストレスなど、様々な要素がストレス要因として判断の基準となります。

残業時間にくわえてこれらの出来事を総合し、過労自殺だったかどうかを判断することになるのです。

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3.過労死の原因となる長時間残業…その実態と今からできる対処法



これまで見てきたように、身体的な病気が原因であれ、精神的なストレスが原因であれ、いずれも「残業時間」が大きな判断基準のひとつであることがわかります。

過労死の原因である長時間の残業が、なぜ起きてしまうのでしょうか?

この章ではその理由と、もしあなたが過労死ラインを超える残業をしていた場合の対応策について解説していきます。

①長時間残業の原因となっている「36協定の特別条項」

労働者の残業は、無制限にさせてよいわけではありません。労働者と会社が残業時間について定めた「36協定(サブロク協定)」と呼ばれ協定を結び、はじめておこなうことができます。

ただし、その場合の残業時間も、月45時間までが上限と定められています。

ではなぜ、月100時間以上の残業が横行するのでしょうか?

その原因となっているのが「特別条項」と呼ばれる、いわば36協定の例外規則。これは決算間近の繁忙期により、通常の残業では仕事が終わらないことを想定したもので、これを適用すると、会社は労働者に月45時間の上限を超えて残業させることができます。

この特別条項による残業時間の延長には、限界が定められていません(2019年1月現在)。このために、過労死ラインを超える80時間、100時間の残業が強いられる現状が生まれているのです。

そうした状況を受けて労働基準法が改正され、2019年4月から特別条項を定めた場合の上限が設けられましたが、複数月の平均が80時間、1か月100時間と、過労死ラインギリギリに定められているのが現状です。

②長時間残業に悩んだらどうすべき?いまからできる対処法

では、もしあなたが長時間残業に悩んでいた場合は、どうすればよいのでしょうか?

大まかに3つの方法を解説します。

  • 職場を離れる

    一番確実な方法は、退職をすることです。

    会社の環境が改善されるまで待っていたら、身体や心を壊してしまうかもしれません。

    手遅れになる前に、転職して新しい職場に入った方がいいでしょう。

  • 会社の相談窓口に相談する

    特定の上司により長時間残業を強いられていた場合、まずは会社内の相談窓口に相談してみましょう。

    会社そのものが長時間残業を強要しているわけではないのなら、相談窓口が改善を促すことで、部署の体制が変わる可能性があります。

  • 労働基準監督署に相談する

    労働基準監督署は、会社が法律を守って雇用しているかを監視し、相談者から寄せられた情報から、改善・指導・場合によっては経営者の逮捕なども行っています。

    相談の方法としては、メール・電話・直接訪問の3通りがあります。メールと電話は情報提供として扱われることが多いため、直接訪問して相談した方が具体的な調査に乗り出してくれる可能性は高いでしょう。

    メール 労働基準関係情報メール窓口
    電話・直接訪問 全国労働基準監督署の所在案内
    受付時間:平日 8:30~17:15

    ただし、相談してすぐ動いてくれるとは限りませんので注意してください。

    また情報提供者の個人情報を外部に出すことはありませんので、相談の事実が会社の人に知られることはありません。

    そのほかの相談窓口や対処法は、記の記事でも紹介しています。あわせて確認してみてください。


4.まとめ

  • 過労死には、①対象となる脳や心臓の病気により死亡した②死亡する前の残業時間が80時間or100時間だった、という認定の基準があり、これらの基準にあてはまった場合、過酷な労働環境と死亡との因果関係が認められることが多い。

  • 過労自殺の場合、①対象の精神疾患を発病していた②精神疾患を発病する前に強いストレスを受けていた、などの認定基準がある。

  • 2019年4月から改正労働基準法が施行されるものの、過労死ラインと変わらない上限となっている。長時間残業の対処法としては、①転職する②社内の相談窓口を利用する③社外の相談窓口を利用するの3つがある。

おわりに

いかがでしたか。

過労死は働きすぎる日本人を象徴する死亡原因です。自分の身体や心が悲鳴を上げる前に、とれる手を打ちましょう。


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