この記事は以下の人に向けて書いています。
- 残業時間のきまりや規制について知りたい人
- 自分の残業時間が違法ではないのか確認したい人
- 残業の仕組みについて全体的に知りたい人
はじめに
「社会人はある程度残業して当たり前」
……よく言われがちな言葉ではありますが、本当でしょうか。
実質的に残業が必要になる場面は多いものの、少なくとも法律上においては、残業は「労働者の許可を得て」させるものであり、当たり前のように押し付けてよいものではありません。
残業時間の上限や、残業させてもいい場合、ダメな場合といった、細かな規則が定められているのです。
場合によっては、会社に誤魔化され、本来はしてはいけない残業をしている可能性も……。
そんな場合に備え、この記事では、意外と知らない残業・残業時間のきまりについて解説していきます。
1.残業時間はどう決まる? 法律での定義を解説!
そもそも、「残業」とは法律ではどのように定義されているのでしょう。また、残業にはどのような決まりがあるのでしょうか。
残業についての基本的な知識について、まずは詳しく解説していきましょう。
①所定労働時間以上の労働が残業
残業とは、会社があらかじめ決めた勤務時間(所定労働時間)を超えて働いた時間のことを言います。
もう少し細かく説明すると、休憩時間を除いた始業~終業までの時間を超えて働いた時間は、すべて残業時間とみなされます。
ところで、残業時間には実は2つの種類があるのをご存知でしょうか。
それが
「法定内残業」と
「法定外残業」。
同じ残業ではあるものの、法律では違うものとして扱われています。
- 法定内残業
法定内残業とは、労働基準法で定められた労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えない範囲での残業のことです。
たとえば、休憩時間を除いて1日7時間働いている人が1時間残業した場合、働いた時間の合計は1日8時間以内に収まりますので、法定内残業ということになります。
- 法定外残業
先ほどの「1日8時間、1週40時間」を超えて働いた場合の残業時間のことを、法定外残業といいます。
1日7時間働いている人が2時間残業した場合、残業時間のうち1時間は先ほどと同じ法定内残業、それを越えた1時間は法定外残業ということになります。
この2つの残業時間の違いは、
残業代の金額に関わってきます。
法定内残業の場合、会社は残業した人の給料を時給に直し、残業した時間分だけ支払わなければなりません。仮に時給800円で働いていたとすると、法定内残業での残業代は、
800円×残業時間
となるわけです。
いっぽうで
法定外残業の場合、
会社は時給の25%増しの残業代を支払う必要があります。
時給800円の場合、法定外残業での残業代は
800円×残業時間×1.25
と計算されるわけです。
このように、働いている時間が法定内残業か法定外残業かで、
支払われる残業代に差が出てくるのです。
さらに、長時間の残業や休日出勤、深夜の残業といった場合は、会社はさらに多くの残業代を支払わなければなりません。
具体的な計算方法が気になる方は、下記の記事も参考にしてみてください。
②残業を可能にする36協定の仕組み
法定外残業は、文字通り
「法律で決められている時間を超えて働く」というもの。
そのため会社が従業員に法定外残業をさせようと思った場合は、事前に働いている人たちに許可をとったうえで、政府に届け出をしなくてはならないルールになっています。
この際に、会社と労働者の間で交わされる決まりのことを
「36協定」と呼びます。
原則として、会社は労働者と36協定を結び、
労働基準監督署にそのことを伝えない限り、法定外残業をさせることはできません。
また36協定の内容は、労働者に必ず知らせる義務があります。社内の就労規則に書かれていたり、働いている人がいつでも見られる場所に掲示してあることが多いでしょう。
とはいえ、36協定さえあれば無限に残業させてもよい!……というわけではありません。
36協定で認められている残業時間には、下記の表のとおり上限が決められています。
期間 |
一般の労働者 |
対象期間が3箇月を超える1年単位の変形労働時間制の対象者(※) |
1週間 |
15時間 |
14時間 |
2週間 |
27時間 |
25時間 |
4週間 |
43時間 |
40時間 |
1箇月 |
45時間 |
42時間 |
2箇月 |
81時間 |
75時間 |
3箇月 |
120時間 |
110時間 |
1年間 |
360時間 |
320時間 |
(引用元:厚生労働省「
時間外労働・休日労働に関する協定届 労使協定締結と届出の手引」)
(※)リゾート地での仕事など、季節や時間帯によって仕事量が大きく変わる仕事の場合の働き方で、忙しい時は多く働き、そうでない時は働かない……というように、一日の仕事時間をある程度自由に変えられる制度です。
ただし、以下の職種はこの残業時間の上限を無視して残業させてもよいことになっています。
① 工作物の建設等の事業
② 自動車の運転の業務
③ 新技術、新商品等の研究開発の業務
④ その他厚生労働省労働基準局長が指定するもの(造船事業における船舶の改造又は修繕に関する業務、郵政事業の年末・年始における業務等)
ただし、上記④については、1 年間の限度時間は適用されます。
|
(引用元:厚生労働省
時間外労働・休日労働に関する協定届 労使協定締結と届出の手引)
あくまで適用外となるのは上限だけであり、事前に36協定を交わし、届け出をしなければいけないことに変わりはありません。
- 「特別条項」で残業時間の延長ができる
残業時間の上限を定めている36協定には、上限を一時的に延長する「特別条項」というルールがあります。
この内容を事前に決め、働く人と合意をとっておくことで、年6回(6ヶ月分)に限り、通常の上限を超えて残業をさせることができるのです。
特別条項は名前の通り、「特別なとき」に限定されます。たとえば、決算間近の繁忙月や大型リコールの対応、デパートの年末年始商戦など、通常の労働時間ではカバーしきれない事情がある月に臨時措置として残業を延長してもよいとされているのです。
しかし、「特別条項を設けているから」といって、年6回のルールに関係なく長時間残業を強いている会社も多く、問題となっています。
③2019年4月から残業時間に罰則付きの規制がつく
これまで解説してきた様々なルールは、
労働基準法と呼ばれる法律で決められています。
この法律の内容が2018年に変わり、2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から、新しいルールが適用されることになりました。
その最も大きな変更点は、
上限を超える残業をさせた会社への罰則強化。
以前までの法律では、残業時間の上限はただの
「基準」であり、
守らなくても会社には特に罰則がありませんでした。
しかしこの改正で、上限を守らない会社には、罰則がつくようになったのです。
その内容は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」というもの。会社だけでなく、残業を命じた責任者にもこの罰則が適用されます。
それにくわえて、
・一か月の残業時間は、延長しても100時間が上限になる
・複数月にわたって残業時間を延長する場合は、1ヶ月の平均を80時間以内とする
・延長した場合でも、残業時間は年間720時間以下が上限となる
といった内容や、
有給休暇の消費を会社に義務付けるといった内容も盛り込まれています。
2.45時間、60時間……残業時間の「4つの数字」を徹底解説
これまで紹介してきたとおり、残業時間には、いくつかの
基準となる時間があります。
この章では、残業時間の仕組みで特に重要となる
4つの基準について紹介してきましょう。
①45時間
先ほども紹介した通り。36協定で定められている1ヶ月の残業時間上限の数字です。
この時間内の残業であれば、
時給×1.25の残業代が支払われることになります。
1日あたりに直すと、おおよそ1~2時間の残業が毎日ある、というイメージでしょう。
②60時間
60時間というラインは、主に残業代を計算するときによく使われる数字です。
先ほど説明した通り、法定外残業の場合、通常は時給の1.25倍の残業代が支払われます。
しかし、一か月に60時間以上の残業をしたとき、
会社は時給の1.5倍を残業代として払わなければなりません。
③80時間
月80時間の残業は、厚生労働省が定めた
「過労死ライン」と呼ばれる基準に関係しています。
これは、2~6ヶ月の残業時間が平均して80時間を超えて働いたとき、精神や身体に悪影響をおよぼしやすくなる……とするもの。
「過労死ライン」を超えて働いた結果、何かしらの健康障害を発症した場合、「残業との関連性が高い」と判断され、
労働災害(労災)が認定される可能性が高くなります。
労災と認定されると、医療費用の負担や休業中の補償を国が行ってくれるため、たとえば働きすぎて倒れた……という場合には重要な指標となるでしょう。
また、このラインを超えて働いた人が勤務中に死亡した場合、
「過労死」だと判断される可能性が非常に高くなります。
④100時間
月100時間の残業も、先ほどの
「過労死ライン」と関係しています。
先ほどの平均80時間ではなく、一か月に100時間以上残業したあとで何らかの健康被害が出た場合も、同様に労災や過労死認定の基準となります。
どちらにしても、月80時間や100時間といった残業は、国も認めるほど危険と考えてよいでしょう。
もしあなたの会社でこうした残業が当たり前になっている場合、一度自分の健康や働き方について見直してみたほうがよいかもしれません。
3.こんなケースはどうなるの?残業時間の気になるポイントQ&A
これまで残業時間についてご紹介してきた中で、「あれってどうなの?」と疑問が浮かんだ人もいるかもしれません。
この章では、残業時間に関する気になるポイントをQ&A形式でご紹介していきます。
Q.残業時間の平均ってどれぐらい?
厚生労働省「
毎月勤労統計調査 平成29年分結果確報 第2表 月間実労働時間及び出勤日数(事業所規模5人以上、平成29年確報)」によると、運輸業・郵便業が27.8時間で最も多く、製造業17.9時間、飲食サービス業等16.5時間と続きます。
ただし、この数値は業種別。運輸業の中でも、トラック運転手と事務員とでは残業時間が大きく異なるはずです。また、数値は自己申告であるため、サービス残業を強いている可能性もあります。あくまで参考程度にしてください。
管理職だと残業代は出ないと聞いた。これは本当?
一般的に、
「管理職は残業代が出ない」と言われていますが、事実ではありません。
残業代が出ないのは「管理監督者」とみなされる人だけです。これは
自由に出退勤ができて、
経営に口を挟むことができ、
一般社員と明らかに給料の差がある人のことを指します。
このケースにあてはめた場合、たとえば、主任や係長、課長といった役職の人は、管理監督者とはみなされないことがほとんどです。
このようなとき、
「管理職手当として残業代が出ている」と会社から言われていた場合は、違法な残業をさせられているかもしれません。
Q.残業代をもらえていない。違法じゃないの?
大半のケースにおいて、残業代を支払っていない場合は違法となりますが、一部例外となる給与制度・雇用形態もあります。
- 固定残業代制度(みなし残業)
会社側があらかじめ残業時間を設定し、その分の残業代をあらかじめ給与に含んでおく制度です。
毎月20時間分の残業代を給与に含める……という場合がこれにあたります。
この場合、最初に決められている残業時間を超えない限り、残業代は支払われません。すでに毎月の給与に含まれているからです。
ただし、決められている残業時間を1分でもすぎれば、会社は残業代を支払う義務が発生します。
- 裁量労働制
会社があらかじめ労働者の働く時間を決めておき、実際に働いた時間と関係なく、一定時間を働いたとみなす制度です。
たとえば、事前に月155時間働くとあらかじめ決められていた場合、実際に働いた時間が100時間であっても200時間であっても関係なく、155時間勤務したとみなされ、給料が支払われます。
ただし、裁量労働制を導入できる職種は制限されています。また、裁量労働制を導入していたとしても、休日労働や深夜残業があった場合は、残業代を支払わなくてはなりません。
詳しくは、下記の記事で解説しています。
Q.残業について誰かに相談したい。どこに相談できる?
特定の上司にサービス残業を強要されている場合は、社内の相談窓口や別の上司に相談してみましょう。社内で指導が行われ、改善されることがあります。
会社の体制として、長時間残業を強要されている場合は、社外の相談窓口を利用してください。
たとえば、労働基準監督署が運営している
総合労働相談コーナーでは、労働に関するトラブル全般の相談を受け付けています。
悪質な場合は会社への指導を行い、改善するよう働きかけてくれるなど、
「会社の環境・業務体制を改善したい」場合には適切な相談窓口です。
そのほかの相談窓口については、下記の記事を参考にしてみてください。
4.まとめ
- 残業には、法定内残業と法定外残業があり、それぞれ残業代の金額が異なる。
- 会社が従業員に残業をさせるためには、36協定というものを結ぶ必要がある。その場合も1ヶ月45時間以上の残業をさせてはいけないが、特別条項を設けることで、上限を延長することが可能
- こうしたルールを定めた労働基準法が改正され、2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から、上限を超えた残業をさせる会社には罰則が科されるようになった
おわりに
いかがでしたか?
できれば少なくしたい残業時間。自分で働き方を工夫するのはもちろんですが、いまいる会社の制度が適切なものなのかどうか、一度チェックしてみてください。
この記事が、皆さんのお役に立てば幸いです。