職場のモラハラを訴えるにはどうする?事例と準備がわかる3つの解説

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投稿日時 2018年12月14日 18時59分
更新日時 2018年12月14日 18時59分

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • モラハラを受けており、我慢の限界である人

  • すでに様々な相談窓口は利用しており、モラハラの確信がある人

  • 具体的な訴訟の準備に入りたいので、どのようにすればよいか知りたい人

はじめに

「モラルハラスメント」(モラハラ)は男女間で注目されやすい問題ですが、職場の同僚や部下からのいじめや嫌がらせもこの一環。我慢できない毎日に、訴訟を考えている人もいるでしょう。

しかし訴訟を上手く運ぶには、意欲だけではどうにもなりません。適切な準備や、そもそも可能かどうか、リスクはないかなど、検討するべき課題があります。

この記事では訴訟前の準備や、実際に弁護士に依頼した場合の手順や費用について解説します。

1.そのケースは、訴えられる?訴訟の前にまず考えたい事例



訴えを起こすとなれば、加害者本人、勤務先企業、場合によっては労働基準監督署(国)を相手取ることになります。

具体的にはどのような名目で訴えることができるでしょうか。


①加害者本人を訴える場合

まず加害者本人を訴える場合、焦点を当てるべきポイントを見ていきます。

  • 身体・精神的な苦痛を受けた

    暴力を振るわれたことによる傷害、精神的な苦痛を受けたことによる精神障害などで発生した治療費を請求することができます。この場合、診断書や領収書は忘れずに医療機関からもらっておきましょう。

    なお暴言に関しては、侮辱・名誉棄損・脅迫という名目で慰謝料を請求できる場合もあります。


  • 休職・退職に追い込まれた

    いじめや嫌がらせによって業務を続けることが困難になり、治療が必要になったり、休職・退職に追い込まれたりするケースは、損害賠償を請求することができます。

    この場合争われるのは「逸失利益」といい、「(勤務を続けている)本来の状態であれば得られたはずの利益」が加害者によって得られなくなったことに対して賠償を請求できるというものです。


②会社を訴える場合

社内でモラハラが発生し、労働者が正常な状態で勤務できなくなったり、その相談を受けていたにもかかわらず対応を怠ったりした場合は、企業にも使用者責任が発生します。

被害者に対してはもちろん、加害者にも事情を聞いたり、双方の配置転換をしたりするといったケアが求められるのです。

これは職場環境の整備が企業の義務として民法に定められているからで、企業は労働者と労働契約を結ぶ際に「職場環境の整備義務」「配慮義務」「改善義務」を同時に負うことになります。これを怠ると債務不履行として、労働者が損害賠償を請求できるのです。

  • 事例

    同僚からの長期にわたる陰口など集団いじめにあっていた女性社員が精神障害となり、治療が必要となった。勤務先には相談などをしていたものの、防止策は取られず、休職から退職に追い込まれた。

    これに対し「勤務先が職場環境を適切に整えなかったことが原因」として、労働基準監督署に労災申請や療養補償の給付を求めたところ、「いじめが認められない」として不支給になったため、これを取り消すよう国に対して訴えを起こした。

  • 結果

    不支給処分は取り消し。被害者が訴えた先は会社そのものではありませんが、女性の精神障害がいじめによるものであり、勤務先が適切な措置を取らなかったことが不手際として間接的に認められた形です。


③事前に確認!モラハラが認定されるポイントとリスク

辛い気持ちで感情的になるだけでは訴訟ができません。まず確実に訴えを起こせるかどうかを確認してみましょう。

訴訟はリスクもあり、時間や費用、精神的なエネルギーも消耗するもの。中途半端な結果になってしまっては、人間関係に無用な遺恨を残したり、自分自身も後悔したりすることになりかねないため、慎重に検討しましょう。

  • モラハラに相当するケース

    おおまかなモラハラは「本人の能力を否定する」・「無視をする、孤立させる」・「人格を否定する」の3つです。

    しかし、逆に加害者からの叱責が業務上必要なものであったり、発言内容が名誉棄損までは当たらないと判断されることもあります。この点には注意しましょう。

    職場のモラハラについては、この記事で詳しく説明しています。


  • モラハラ認定がされなかった場合のリスク

    もしもあなたの訴えが「モラハラには当たらない」という判決が出たとしたらどうしますか。裁判所に不服を申し立ててさらに戦うという手ももちろんありますが、必ず実現できるわけではありません。

    逆に問題がなかったものを「モラハラだ」としたことにより、相手方から名誉棄損や損害賠償を求められ、訴えられる可能性もあります。この点はよく考えましょう。

  • プライバシーのリスク

    裁判は誰でも、どんな内容でも傍聴できる、開かれたものです。勝ち負けにかかわらず、注目される裁判になった場合は報道されることもあります。それを目的としているならば別ですが、匿名とはいえプライバシーの一部を他人に知られることもあると思っておきましょう。

  • 必要な証拠は足りているか?

    裁判には証拠が必要です。これは自分が受けた被害、それによる様々な損害がモラハラによるものと客観的に因果関係が証明できるもののことで、揃わなければ訴えを起こせません。事実関係が確実なものがあれば裏付けがより強くなります。

    証拠の集め方については、次の2章で詳しく説明します。


2.証拠の集め方と弁護士への依頼はどうすればいい?



裁判についてある程度のイメージがつかめたら、まずは弁護士に依頼するところからスタートします。その際、手元に証拠があるとスムーズに話が進み、手続きがしやすくなります。

前の章で説明したように、モラハラの被害とそれによる損害が客観的に妥当だと判断できる材料が必要です。

①証拠に必要なものと集め方

具体的には以下の通りです。

必要なもの 集め方
日記やメモ 暴言や暴力、不快な思いをした都度記録。日付・時間・発言者・状況・それによる自分自身の感情や身体の変化など。
音声記録 小型ICレコーダーやスマートフォンの録音機能などを利用し、相手の発言を録音しておきましょう
画像や動画 被害がわかる写真や動画があれば保存しておきましょう。
通信記録 メール、チャットなどの記録。プリントアウトできないものは、スクリーンショットも保存しておきましょう。
診断書や領収書 モラハラ被害によって傷害を負ったり、精神的苦痛を受けて通院したりした場合、医療機関から両方を取得しておきましょう。
他人の証言 モラハラ現場を見ている他の同僚や信頼できる友人など第三者、日々の様子や体調・体形の変化を知る家族などに証言をしてもらいましょう。

  • いずれの場合も加害者や第三者に知られたり、破棄されたりすることがないよう、自分自身が管理できる場所に保管し、常にバックアップを取っておきましょう。職場支給のパソコンやスマートフォンの使用は避けるべきです。

  • 「これはあまりはっきりしないけれど……」という内容も、数が集まれば証拠として認められることがあります。気になるものは全て含めておきましょう。モラハラ行為1回ずつは小さくても、頻度が高い、期間が長いといった点は注目されます

モラハラは陰湿で目に見えにくい、証拠が残りにくいものもありますので、加害者にしらを切られないよう、集められるものは集めるつもりでいくのがおすすめです。


②弁護士に依頼しよう!探し方や費用は?

手元にある程度の証拠が揃ったら、訴訟を依頼する弁護士を探しましょう。
  • 日本弁護士連合会(日弁連)

    日本で登録している弁護士を探すことができます。各都道府県別の弁護士会のリンクに飛ぶことができますので、自分の身近にいる弁護士を探してみましょう。

  • 法テラス

    法律で解決したいトラブルの身近な相談窓口として、こちらも全国に相談できる拠点があります。弁護士の紹介のほか、無料相談や、条件を満たせば費用の立て替えにも応じてくれます。

いずれも「相談しやすい場所にある」「自分と合いそうな弁護士を尋ねてみる」のがポイントです。

相談から訴訟までは長い時間がかかることもあり、話し合いのために何度も事務所に足を運ぶことになる可能性もあります。 労働問題やモラハラに強いほか、通いやすく、話しやすいといった個人的な事情も考慮しましょう。


  • 弁護士費用の相場はどうなっているの?

    弁護士への依頼は費用がかかります。実際に裁判になると確定すれば着手金が発生し、損害賠償などの請求が通れば、成功報酬を支払うことになります。


日弁連が発表している費用の目安によると、

  • 初回の法律相談

    30分ごとに5000~1万円

  • 民事訴訟の着手金

    損害賠償などの経済的利益が300万円以下の場合はその8%、300万円以上3000万円以下の場合はその5%+9万円

  • 成功報酬

    経済的利益が300万円以下の場合はその16%、300万円以上3000万円以下の場合はその10%+18万円

となっています。こちらはあくまでも目安ですので、弁護士により金額の差があります。

勝訴すれば弁護士費用を請求できることもありますが、敗訴すれば入ってくる金額はありません。さらに相手側から訴えられて負けてしまうと、こちらが費用を支払う可能性もあります。

逆に言えば、それだけの金額をかけて訴えるだけの価値はあるかという問題でもあり、この点についてもよく考えたいものです。

  • 訴えてから終了するまでどのくらいかかるの?

    モラハラを一刻も早く終わらせたくても、裁判とはいえすぐに解決できません。一体どのくらいの期間が必要なのでしょうか。

    最高裁判所が2017年7月に発表した地方裁判所の労働関係訴訟データでは、2016年の平均審理期間は14.3ヶ月となっています。民事訴訟全体では8.6ヶ月。訴訟内容にもよりますが、おおむね1年未満から2年以上かかるとみていいでしょう。

    ただし、これは「裁判が始まってから」の期間に当たりますので、その前の被害者と弁護士の準備期間は含まれていません。この期間は有用な証拠の有無、訴訟可能性の難易度にも関わりますので、個人差があります。

    もしもどちらかが結果に不服を訴えるなど裁判が長期にわたれば、終了するまでの心理的・金銭的な負担も長引きます。

    たとえば仮に休職や退職を余儀なくされ、その損害賠償を求めたりしている場合は、勝訴するまでの収入や裁判費用の工面が発生します。敗訴すればこれは補償されません。また職場に残っても、周囲の反応など気になる点もあるでしょう。

    とはいえ、裁判は必ずしも早期解決が最良の選択ではありません。最終的に自身が納得する結果を得られる方が、その後の人生を安心して過ごせるようになるとはいえるでしょう。


3.いざ訴訟!その手順はどうなっている?



本格的な訴訟に入る前に、加害者本人や勤務先へ「内容証明郵便」を使って、モラハラをやめるよう警告(差止要求)することもあります。

それでもモラハラが止まらなかった場合は、訴えを起こしましょう。

①訴訟の方法

裁判の大まかな流れは以下の通りです。

  • 裁判所に提出する書類を作成

    弁護士が被害者(原告)から聴取を行い、提出された証拠を元に「どのような案件で」「誰に対し」「何を訴えるか」をまとめていきます。まとめられたものは「訴状」といい、裁判所に提出します。

  • 裁判所が加害者(被告)に書類を送る

    裁判所が訴状を確認後、被告側に送ります。このとき同時に「口頭弁論」という双方が申し開きをする日時が決められますので、被告側はそれまでに自分たちの認識している事実関係や主張を決めます。

  • 双方が法廷で争う

    双方が裁判官を前に、法廷で口頭弁論を行います。次回の弁論は約1ヶ月後が目安です。双方が欠席をした場合、1ヶ月以内に期日を指定しなければ訴えが取り下げとなります。また、弁論とは別に当事者に質問や確認をする「本人尋問」が行われることもあります。

  • 判決が出る、不服であればさらに上へ

    何度か弁論を繰り返し、双方の言い分と確認が終われば、裁判官が判決を下します。勝訴・敗訴以外に和解するよう勧告があることもありますし、判決が不服ならさらに上級の裁判所へ訴える「上訴」をすることもできます


②被害者が他にもいれば、集団訴訟を検討しよう

もしも、社内で同じ加害者からモラハラを受けている被害者が自分ひとりだけではなかったら、集団訴訟も検討しましょう。

人数が多くなればその分証拠が多く提出できることになりますし、個人の訴訟費用も抑えることができます。

職場の嫌がらせが集団訴訟に発展したケースでは、2018年6月に最高裁でパワハラによる退職が認められた例があります。

このケースは原告が女性4人で、上司が一部の原告らに対し、年齢などを理由にした間接的な退職の強要をしており、それを聞いていた別の原告が「自分にも当てはまる」として退職したこともパワハラの影響と認めたものです。

今後はこのように直接的に嫌がらせを受けたわけではない被害者も、原告として集団訴訟に参加できる可能性が出てきたということになります。

4.まとめ

  • 自分のケースは訴訟できるか、証拠はあるかを確認

  • 証拠を集めてから弁護士へ相談すれば話がスムーズに

  • 訴えれば万事解決ではない、訴訟の費用や期間も考えよう

おわりに

モラハラで訴訟を検討しているということは、すでに十分苦悩に耐え、検討した結果、導いた結論といえるでしょう。

しかし、主張が認められなかったり、反対に訴えらえたりする事態になれば、さらなる悩みを抱え込むことにもなりかねません。

戦い抜くには準備が必要。自身の主張したい内容とそれを証明できるかをよく吟味して、権利や名誉を守り抜いてください。

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