医療訴訟の費用は?どんな活動をするの?医療問題弁護団インタビュー

このエントリーをはてなブックマークに追加
投稿日時 2018年07月30日 15時11分
更新日時 2018年07月30日 15時11分

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • 医療訴訟を検討している人

  • 医療訴訟がどんなものか知りたい人

  • 集団訴訟について興味がある人

はじめに

医療ミスや悪質な美容整形など、医療の現場で起きている消費者被害を扱う医療訴訟。大規模な集団訴訟として報じられることもありますが、実際にはどんな活動をしているのでしょうか。医療被害の救済や医療事故の再発防止などの活動を行っている医療問題弁護団の木下正一郎弁護士にお話をうかがいました。


1.相談件数は年間250件!相談から訴訟に進むまで


写真=木下正一郎弁護士


――本日はよろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

――さっそくなのですが、医療問題弁護団は年間どのくらいの相談を受けていらっしゃるのでしょうか?

「電話で相談予約をした上で、面談での相談を受ける形をとっているのですが、2017年度は年間250件の問い合わせがありました

――かなり多いですね!

「ただ、相談の中には、医療の過程や結果に不満があっても、法的に医療ミスとは問えないものも多数あります。直接面談をして、実際に調査をしてみましょうとなるものは全体の1割程度、さらに損害賠償請求まで進むものとなると、さらにその半分程度となります」

――法的に医療ミスに問えないというのは、どういうことなのでしょうか?

「患者にとって悪い結果は出たけれど、その原因が行われた医療にあるとは言えない場合です。調査の結果、原因がほかにあることが濃厚になった場合や、行われた医療によって起こったと相当に疑われるのだけれども、ほかにも原因がいくつか考えられ、立証が困難を極めると予想される場合があります。この場合、法的な責任追及は難しいでしょう」

――原因となりそうなものが他にひとつでもあるとダメということでしょうか。

「いえ、必ずしもそうというわけではないです。原因になりそうな事実をすべて並べて、その中で医療行為が最も疑わしいと合理的に主張できそうであれば、依頼者にそのような説明をした上で、損害賠償請求に進むことを提案することはあります」

――医療行為そのものが主要な原因なのか、という点が大事なのですね。

「そうですね。ただ我々も、医療行為が原因で被害が起こり、かつその医療行為に問題があったと考える場合について、立証が困難だからといって何もせずにあきらめるというわけでもありません。損害賠償請求による被害回復を要求しつつ、被害にあった方々が納得いく形での解決を模索していきます。相手がいることなので、ここは交渉ということになると考えています」

――裁判外での返金、和解をしていくことでしょうか。

「はい。金銭的にはおよそ責任を認めたとは言えない金額しか得られなくても、誠意ある説明のもと、悪い結果が生じたことについて申し訳なかったという気持ちを表明してもらうことにより、納得して和解するということがあります。またひとつの事例として、高齢者の美容被害で高額な医療費を支払わされたという相談がいくつもあり、組織的詐欺だと考えられた事案がありました。その事件では個別の請求に対しすぐに返金をしてきたので、一層詐欺被害ではないかという確信を強めたということがあります

――すぐに返金される事は、被害者にとってはよい結果ではないのですか?

「確かにそういう面もあるのですが……ただ弁護団としては、返金されるだけではなく、裁判を通じて被害の真相究明と再発防止につなげていきたいとも考えています」

――返金されたあとも加害者側は営業を続けるのなら、根本的な解決には繋がらないと。

「返金されたあとだと、警察側も『示談をされているんじゃ仕方ないですよね』という受け取り方になるので……結局、真相がわからないままになってしまうんです」

――難しいところですね…。


2.相手を訴えるにはいくらかかる?医療訴訟の費用負担

――医療訴訟にかかる費用は一般的にどのくらいなのでしょうか?

「当弁護団の場合、電話での申込みから面談での相談までは無料です。ただし、医療事件の場合、自分にとって悪い結果があったからといって、ただちに医療ミスがあるとは言えません。そこで、まずは調査という手順を踏むことになります。当弁護団ではこの調査費用として30万円プラス消費税と実費を頂いています。その後、実際に裁判をするとなった場合には、別途相手に請求する訴訟額に応じて弁護士費用がかかります」

――費用面で断念される方などはいらっしゃらないのでしょうか?

「経済的に余裕がない方を担当する際は、法テラス(注)を使いましょうと言っています。ただ、団員の弁護士には最初から法テラスを利用しないという方もいて、その場合に利用を強制することはできません。医療事件の場合、徹底的に争うとなれば、医学文献を多数取り寄せ、医師の見解を聞き、意見書の作成も医師に依頼する必要があります。こうした事案では法テラスの支援にも限界がありますので、なおさら利用には慎重になります」

(注)法テラス……日本司法センター。経済的な余裕がなく弁護士費用が支払えないという人のために、無料相談や弁護士費用の分割払いなどの制度を提供している公的機関。

――やはり医療ミスを法的に問えるかどうか、損害賠償の立証ができるかどうか、という点がポイントになるわけですね。法テラスが使えるのは、あくまで費用がネックである場合のみだと。

「そうですね」

――医療問題弁護団はこれまで品川美容外科のフェイスリフト集団訴訟なども担当してこられていますが、こうした集団訴訟の場合、負担費用は変わってくるのでしょうか?

「事案ごとに適した判断をすることにはなりますが、先ほどもお伝えしたとおり、医療訴訟には事件の真相究明と再発防止につなげるという側面があって、集団訴訟では『これだけ被害者がいる。無視はできない』と相手方や裁判所に示し、そうした被害者を救済しなければならないと世に主張していく意義があります。そのためにはできるだけ多くの被害者に参加してもらいたいのですが、参加する方の経済的な事情は様々ですし、一方で集団訴訟には手間も費用もかかります。そのため、兼ね合いを見ながらですが、ある事案では着手金を一律で、また別の事案では、さらに低い額で一律でいただきます、というやり方をすることはあります」

――人数が増えるほど、ひとりあたりの負担が減るということはあるのでしょうか。

「必ずしもそうとは言えません。たとえば私はHPVワクチンの集団訴訟などにも関わっているのですが、国や企業を相手にすると、活動費用は莫大なものになります。ただ、それをすべて参加者個人に負担していただくというのは現実的に難しいので、弁護士の手弁当でやっているのが現状です」

――人数だけではなく、期間や訴訟の内容によっても負担は変わってくるんですね。


3.医療集団訴訟の意義と活動は?被害者はまずは相談を

――たとえば、医療被害が集団訴訟に発展するのは、どういう場合なのでしょうか?

「過去の事例ですと、保健所に同種の被害相談が寄せられたため、保健所から医療問題弁護団に相談が来たというケースがありました。そのほかには、被害者の会の支援活動をする中で訴訟に踏み切る判断をし、訴訟を決断した人たちが原告になる……という場合もあります。また、ある医療機関の問題についての報道をきっかけに、ひとりの方が当弁護団に相談に来られ、その方の代理人として弁護団を立ち上げたこともありました。その際は問題の医療機関に質問状を渡した際に記者会見を開き、ほかの被害者の参加を呼びかけたこともあります」

――弁護団側が積極的に人を集めていくことは多いのでしょうか?

「いえ、弁護団側が主体になって集めるケースは少ないです。私個人の考えではありますが、集団訴訟は『お金にならなくてもやる』というものが多く、弁護士も一定の覚悟と、相手に立ち向かうだけの知識・技量が必要になります。そのため、どんどん来てくださいという形で対応することはできません」

――賠償金を得られたらそこでゴール、というわけではないのですね。

「ですので、参加者側からしても、『こんなに大変だと思わなかった』という思いはあるかもしれません。弁護士だけが頑張っても社会の応援は得られないですし、相手側やその賛同者たちは、『弁護士はどうせ金目当てでやるんだろう』というキャンペーンをはることもある。医学的な意味での原因究明や、治療体制の確立というところまでつなげていくには、どうしても現実に被害にあわれている方が訴える必要があるんです。大変だとは思うのですが……」

――具体的にはどういう形で活動をするのでしょうか?

「原告やその家族に、学生・一般向けの勉強会や講演会などに参加していただいたり、行政・医療側がおかしな動きをしたときに、記者会見に同席して一緒に意見を発信したり……。当然ながら、裁判のときに出席・傍聴することもお願いしています

――確かに、すべてをやろうとするとかなりの労力ですね。

「そうですね。とはいえ、遠方の方など様々な事情の方がいらっしゃいますし、義務という言い方はしていません。あまり激しい動きについてこられない被害者を見捨てるようなことはしませんし、したくありませんので。また、原告が自発的に行う活動にこそ、大きな意味があるとも思っています」

――集団訴訟は、一般の訴訟とくらべて比較的長期間になるのでしょうか。

「たとえばHPVワクチン被害の集団訴訟の場合、3年くらいを目標にして始めてはいます。ただ、被告側の対応が予想どおりに行かないなど、どうしても進行は遅れがちで、現時点で3年での解決は難しいです。なるべく早く結審させようとは思っているのですが」

――途中で離脱されるという方もいらっしゃるのでしょうか?

「一般論ですが、長期化するにつれて、日常を大事にしたいと離脱をされる場合はあります」

――個別で和解しての離脱という形はあるのでしょうか。

そういうのは基本的にありませんね

――ないのですか?

「個別で和解をしてしまうと、真相究明や再発防止、特に被害者全員が必要としている恒久的な対策といった全体的な解決が難しくなってしまいます。そのため、あくまで全体、全員での解決という形を目指しています。だからこそ、全体の意見を慎重に調整していくということが必要となるのです。そこが難しい部分でもあるのですが」

――調整にあたって、どういうことを心がけていらっしゃるのでしょうか。

「被害の程度も含めて、弁護士、原告にもそれぞれいろんな考え方の人がいます。そのうちの一部とだけ信頼関係を作れればよいということではありませんので、弁護士としての覚悟を持って、全員と話し合えるような場を築いていかなければならないと思っています。……私が偉そうに言うことでもありませんが……」

――ありがとうございます。最後に、いま医療被害にあって悩んでいる人へ、メッセージをお願い致します。

「被害に遭われた方というのは、いままで弁護士なり裁判なりに関わったことのない生活をされている方がほとんど。だから最初は、なんでこんなことがあったんだろう? どうしたらいいんだろう? という疑問符だらけだと思います。そんな時、当弁護団にご相談ください。できるところから一緒に考えていきましょう。……当たり障りのない言い方で申し訳ないです(笑)」

――いえいえ! ありがとうございました。


おわりに

いかがでしたでしょうか? 時として取り返しのつかない被害をもたらす医療問題。失った健康は、お金に代えられるものではありません。だからこそ、『ただ賠償金を請求して終わり』ではなく、その先にある再発防止の仕組みや医療体制の確立が大切なのだと語る木下弁護士の姿が印象的でした。

医療問題弁護団にはこちらからアクセスできますので、被害を受けた方はまずご相談を。


このエントリーをはてなブックマークに追加