有給休暇取得の義務化は2種類の抜け道が…注意すべきポイント解説!

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投稿日時 2019年04月12日 14時39分
更新日時 2019年09月18日 11時25分

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • 有給休暇取得の義務化に隠された抜け道について把握したい人

  • 抜け道の違法性のある疑いについて知りたい人

  • 抜け道を使われた場合、どう対処すればいいのか知りたい人

はじめに

2019年4月施行の働き方改革関連法に伴って始まった、年次有給休暇取得の義務化。

10日以上の有給休暇が付く人には5日間必ず取得できるようにしなければならないと会社に命じられた取り組みです。

ところがこれには、実質休みを増やさずに有給休暇を消化できるという抜け道が存在し、SNSでは不安の声があがっています。

この記事では抜け道の種類とそれぞれの注意すべきポイント、もし利用されて不利な立場になってしまったときの対処法などを紹介します。会社の悪質なやり口から身を護る術を身につけていきましょう。



1.抜け道は2種類!よくある手口とその違法性



有給休暇取得の義務化に隠された抜け道は多種多様ですが、大きく分けると法的な判断が分かれる可能性があるもの違法性の可能性について注意が必要なものの2種類があります。

ここではそれぞれの手口についてご紹介します。

①法的な判断が分かれる可能性があるもの

まずは法的な判断が分かれる可能性があるものです。

これらには、労働条件さえ変更できればOKとなってしまうという共通点があります。

ただ労働条件は労働者の合意がなければ勝手に変えることはできないため、事前の連絡なしに以下のことが行われていたら違法となることもあります。

  • 休日を有休にすり替える

    抜け道の中でも代表的な方法です。

    労働基準法で4週で4日間(1週間に1日)の休みが取れればOKとしていることを利用し、週2日ある休日のどちらか1日を有給休暇に差しかえて有給休暇を消費させます。


  • もともと休暇だった日が平日にされ、そこに有休が当てられる

    夏季休暇やお盆休み、年末年始など会社の規定で特別休暇だった日を平日にして、そこに有給休暇をあてる手口です。

    特別休暇をそのまま有給休暇に入れ替える方法もあります。


  • 計画年休が会社都合になりすぎている

    計画年休とは有給休暇の使用率が著しく低い労働者に対して、会社が事前に有給休暇を指定して休みやすくさせる手続きのことです。

    基本的には労使協定などを交わし労働者と相談しながら決めていくもので、会社都合で勝手に指定するのはNG。ところが「この月は忙しいんだ。わかるよね?」と時期をずらすように促して、結局会社都合の休みで組まされるケースもあります。

    ちなみに計画年休では、最低でも5日間は労働者が自由に使えるように残しておかなければいけないため、全部の有給休暇を指定してきた場合は違法となる可能性があります。


  • 有給休暇が10日発生しないように再契約をする

    有給休暇取得の義務化の対象になるのは、1回で10日間以上の有給休暇が付与される労働者全員です。

    10日以上有給休暇が付く条件は、正社員やフルタイムの契約社員の場合は「6か月以上継続勤務」、パートやアルバイトなどは「週30時間以上かつ6か月以上勤務」または「週4日出勤かつ3年半以上勤務」または「週3日出勤かつ5年半以上勤務」となっています。

    この制度を逆手に取り、一度契約を切って勤務年数をリセットし、有給休暇が付かないようにする手口があります。


  • 基本給を下げる

    有給休暇を使わせる代わりに基本給を下げ、帳尻を合わせようとする方法です。賞与を減らすパターンも見られます。

②労働条件にかかわらず注意すべき手口

続いて労働基準法に抵触している可能性がある手口をご紹介します。

  • 有給休暇の申請日に仕事をさせる

    有給休暇を申請した労働者に多量の仕事を与えるなどして休めない状況を作り、出勤をさせる手口です。

    一方で、出勤しなくていい代わりに仕事の持ち帰りを強要するケースもあります。ただし、自主的に持ち帰った場合は会社の命令ではなく、自発的にやったものと判断される場合もあるので注意が必要です。


  • 休日出勤を有休扱いにする

    休日出勤をしたつもりが、給料明細をあけてみたら有給休暇扱いになっていた……というケースです。


  • 有給休暇の買取

    有給休暇分の給与を支給して消化させる方法です。

    会社が法で定める以上の日数を与えていたり時効消滅した分の買取は認められていますが、休みを増やさないという理由の場合は違法となる可能性があります。



2.もし抜け道が使われていたら……損をしないための4つの対応



企業が有給休暇取得の義務化を免れようと抜け道を利用する行為は、労働者の立場からすれば納得のしえないものばかりです。

基本的に応じる必要はないのですが、プレッシャーをかけられて同意しなければならなかったり、勝手に手続きされていたりする可能性もゼロではありません。

ここでは抜け道が使われていた場合の対処法についてご紹介します。

①証拠を集める

まずは会社側の違法性の疑いを問えるよう、以下のような証拠を集めてください。

・就業規則や労働契約書
・就業日数や入社日などがわかる書類
・有給休暇の使用状況が載っているもの
・給与明細など有給休暇の使用状況が載っているもの
・上司や人事部の発言を録音したデータ
・有給休暇に関係するメモ

②すぐに連絡したい相談先3選

証拠を集めたら以下の連絡先に相談をしてみましょう。

  • 労働基準監督署

    有給休暇に関するトラブルをはじめ、職場におけるさまざまな相談にのってくれる窓口です。状況に応じて会社に労働環境の是正を勧告することもあります。

    電話番号 こちらで確認してください。
    受付時間 平日8時30分~17時15分


  • 総合労働相談コーナー

    各都道府県労働局、全国の労働基準監督署内などに設置されている窓口で、専門の相談員が解決のためのアドバイスをしてくれます。

    電話番号 こちらで確認してください。
    受付時間 地域により異なる


  • かいけつサポート

    法務大臣によって認証されたサービスで、各都道府県の民間業者が行っています。身近なことから専門的なものまでさまざまな法的トラブルの解決をサポートしてくれるので、気軽に連絡したい人は利用してみてください。

    電話番号 こちらで探すことができます。
    受付時間 地域により異なる


③集団訴訟を起こす

労働基準法や労働契約法に違反した場合、会社には罰金などが科せられることになりますが、個人では勤務先に損害賠償を請求するのもひとつの方法です。

ただ弁護士への着手金等を含めた費用が被害額を上回る可能性が高いので、同じ被害にあった人たちと一緒に訴える集団訴訟を検討してみてください。この訴訟方法であれば弁護士の費用などの分担や、証拠の共有もできることがあります。

集団訴訟について詳しくは、「集団訴訟ってなに?普通の訴訟との違いは?4つの特徴と事例を紹介」でご紹介しています。参考にしてください。

④転職を考える

わざわざ法の抜け道を利用してまで休暇を増やさないようにする会社は、労働者をないがしろにしていると言わざるを得ません。これを機に転職を検討するのもいいでしょう。

下記では、退職のルールや起きがちなトラブルを紹介しているので参考にしてください。





3.これって危険信号?抜け道を利用したい会社が取りがちな行動



有給休暇取得の義務化に隠された抜け道は、違法性を問われる可能性があります。

しかし実際に解決するためには、専門機関に相談しなければならないなど手間や時間がかかる場合がほとんどです。

最後の章では、被害を未然に防ぐために、抜け道を利用したい会社が取りがちな行動をご紹介します。

①就業規則や労働条件の変更に対する同意を急かす

最初の章でご紹介したように、法的な判断が分かれる可能性のある手口は、就業規則や労働条件さえ変更してしまえばセーフとなってしまいます。

会社が「きょう中にサインをしてほしい」などと急かしてきても、安易に応じないようにすることが大切です。

②明らかに忙しいときに有休を取らせるようにしてくる

計画年休を組み立てる際に、明らかに繁忙期に有給休暇を入れさせようとしてきた場合も要注意。

有給休暇日に出勤させたり自宅で仕事をさせようとしている可能性が高いので、別の日を提案してみましょう。

③有休を申請した労働者の仕事量を極端に増やす、または減らす

有給休暇を取った労働者を不利な立場に追い込む会社もいます。有給休暇を積極的に使わせないようにし、会社が勝手に指定したとしても反発してこないようにするためです。

似たような手口に申請した直後から暴言を吐いたり、暴力をふるうなどの嫌がらせ行為も該当します。

実際の事例として、こうした嫌がらせによって有給休暇の申請を取り下げざるを得なかったとして、進学塾の社員が上司や会社を提訴し、損害賠償を勝ち取ったケースもあります。(全基連「日能研関西ほか事件」)

④脅迫する

「労働基準監督署などに報告したらこちらも相応の対処をする」と、あらかじめ釘を刺しておこうとするのもありがちな行動のひとつ。

脅迫行為は立場の優位性を利用した強要でありパワハラに該当するため、相手の言うことに臆することなく速やかに専門機関に連絡してください。


4.まとめ

  • 抜け道には法的な判断が分かれる場合と、それよりさらに注意が必要であるものの2種類がある。グレーゾーンの手口は、こちらが同意しなければ違法性の疑いを問うことが可能である場合も。

  • もし抜け道による被害にあったら証拠を集めて、労働基準監督署や総合労働相談コーナーへ。

  • 被害にあわないためにも、抜け道を利用したい会社の取りがちな行動を把握して未然に防げるようにしよう。

おわりに

本来、会社と労働者は平等の立場にあるべき関係です。

有給休暇取得の義務化に隠れた抜け道の利用は許してはならない行為なので、専門家のアドバイスをもとに毅然とした対応をしてください。


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