アルハラ訴訟の事例2つ…被害にあわないための心得ともしもの相談先

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投稿日時 2019年04月10日 18時27分
更新日時 2019年04月10日 18時27分

この記事は以下の人に向けて書いています。

  • 20歳になったばかりでこれからお酒を飲む機会が増える人

  • 新社会人となり会社の飲み会に誘われている人

  • 所属しているサークルで「伝統」といわれる飲み会がある人

はじめに

上司や先輩が飲酒を強要する「アルコールハラスメント」、通称「アルハラ」

飲み会が多くなる新入生歓迎会や忘年会・新年会などのシーズンに、よく問題となっています。

大学生協の学生総合共済によると2017年4月~2018年3月までの間、急性アルコール中毒による支払(入院)が133件あったなど、お酒による問題がなくなることがありません。

飲酒を強要されるアルハラだけでなく、周囲の空気に合わせて飲みすぎてしまう「空気飲み」も頻発しているようです。

この記事では、アルハラが原因で起きた実際の訴訟事例について詳しく解説し、さらに、被害にあわないための心得やいざというときの相談先も紹介していきます。

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1.アルハラ訴訟の代表的な事例2つ



まずは、アルハラ訴訟の有名な判例2つをご紹介します。

事件が発生した具体的な経緯を知り、「もしかしたら自分も巻き込まれるかもしれない」身近なケースとして理解しましょう。

それぞれ、アルハラだと判断されたポイントや周囲の対応などをみていきます。

①神戸学院大学飲酒学生死亡事件

  • 事件が発生した流れ

    2008年、大学部活の春合宿中の事件。引退した3年生8人が、2年生男子13人に対し、「きまり」として4リットルの焼酎原液の回し飲みを指示した。この回し飲みがこれから部を率いていく2年生の団結の決意表明だとされ、伝統的な恒例行事とされていた。

    ひと回りしても飲みきれなかった残りの500ミリリットルを飲み干した男子学生(20歳)が意識を失ったが、他の学生は適切な処置をせず翌朝までほぼ放置。その後、救急車で病院に運ばれたが、急性アルコール中毒を遠因とする吐瀉物による窒息で亡くなった。

    民事訴訟では両親が学生や大学を相手取り、アルハラの事実認定と損害賠償を求めたが、相手側は男子学生が自らの意思で進んで飲んだものとし、アルハラではないと主張した。


  • 訴訟の結果

    大学と部員全員がアルハラであったことを認め、和解。部員が連帯して和解金を支払い、大学側は見舞金の支払いに加え、再発防止策をとることとなった。


  • ポイント

    この事例のポイントは以下の2つです。

    ・全国ではじめて、飲酒による死亡がアルハラによるものだったと認められた

    この判例では、物理的な強要がなくとも、心理的に飲まざるを得ない圧力をかければ飲酒の強要となりアルハラにあたると判断されました。

    これまでの判例では、飲酒は本人の意思によるものとしてアルハラが認定されてきませんでしたが、この事件により、アルハラの存在が法的にも認められたのです。

    ・飲酒を強要されたとわかるビデオがあった

    被害者が飲酒をしたときに撮影されたビデオには、飲酒の強要やイッキ飲ませなど、現在では「アルハラ」だと認識されている行動がそのまま映像として残っていました。

    このビデオは大学・学生側が撮影していたものですが、事件発生後に隠ぺいしようとした記録もあったそうです。

    結局、ビデオを提出したものの、提出後に行われた裁判中の証人尋問であっても、2、3年生は「覚えていない」と繰り返し、大学側も責任はないと主張。決して非を認めませんでした。

    心理的な圧力はなかなか立証が難しいですが、このような客観的な証拠が残されていれば証明しやすくなります。

②ザ・ウインザーインターナショナルホテル事件

  • 事件が発生した流れ

    出張先で上司による飲酒強要(パワハラ)を受けたことなどが原因で精神疾患となり休職、その後、自然退職扱いになった従業員による訴訟。

    少量の酒を飲んだだけでも嘔吐するほどアルコールに弱い体質である従業員に対し、上司が「酒は吐けば飲めるんだ」などと執拗に飲酒を強要。その翌日、飲酒により体調を崩している従業員にレンタカーを運転させた。

    さらに、留守電に「ぶっ殺すぞ」などという暴言を残すなどのパワハラもあった。

    こうした行為から精神疾患を患った従業員は休職したものの、休職満了日までに復職できなかったため、自然退職扱いで退職。

    従業員は自然退職は違法として地位確認請求とパワハラへの慰謝料請求を行った。


  • 訴訟の結果

    パワハラが認定され加害者と会社に対し、共同で150万円の慰謝料の支払いが命じられたものの、自然退職は違法ではないと判断された。


  • ポイント

    この事例のポイントは以下の3つです。

    ・「反省会」とする飲み会が業務に関連していると判断された

    飲み会が行われたタイミングは業務時間外でしたが、内容が業務と関わっていたことから、会社側の使用者責任が認められています。

    つまり、会社の指示のもとで行われた飲み会で起きたパワハラは、会社にも責任があると判断されたのです。

    ・パワハラと精神疾患の因果関係は認められなかった

    従業員はパワハラが原因で精神疾患を患ったと主張しましたが、仕事のミスなど、ほかの原因も考えられるため、パワハラが原因だとは認められませんでした。

    因果関係が認められるような決定的な証拠がなかったともいえます。

    ・休職後の自然退職扱いは正当なものとされた

    自然退職の有効性に関しては、メールで明確な証拠が残っていたことが理由とされています。

    会社側は休職期間満了前に、復職に関しての相談を早期に行うようメールで伝えていました。従業員は労災認定に向けて行動していることは会社に伝えたものの、その後復職願を提出せずに休職期間が終了。

    従業員が復職の相談や復職願の提出をしなかったことから、自然退職は有効であるとされました。

    この事件のように、アルハラによる労災認定を受けるために行動をしていたとしても、会社側にしっかりと報告・連絡・相談をしておくことが大切です。

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2.アルハラを回避するためには?押さえておきたい8つの心得



これまで紹介してきた事例を見てもわかるとおり、アルハラは身近に起きやすく、また命の危険にさらされかねない危険なハラスメントです。

その被害者になることを防ぐためにできることを、この章でご紹介していきます。

①飲み会前の行動

  • エタノール(アルコール)パッチテストを受ける

    本当にアルコールが飲めない、弱い人の場合はエタノールパッチテストを受けておきましょう。

    日本人の約40%は、遺伝的にアルコールに弱いとされています。あらかじめ「自分はアルコールに弱い」と確かめておくことで、周囲の人に「遺伝的にアルコールが全くダメ」と伝えられるはずです。

    また、念のため、パッチテストの用具を常に持ち歩いておくといいかもしれません。

    執拗に飲酒をすすめてくる先輩や上司がいても、その場でパッチテストを行い、お酒に弱い証拠を見せることができます。

    何個か用意しておけば、周囲の人に話題提供の一環として使ってもらうこともできるかもしれません。


  • 車を運転すると伝える

    車を運転する時に飲酒をしてはいけないことは、法律で定められています。

    「今日は車を運転する用事があって」などと言って飲酒を避けましょう。

    特に、タクシードライバーやトラック運転手などの車を使用する職種の人が飲酒運転で警察に捕まった場合、会社から懲戒処分をされる可能性があります。

    そうした将来のリスクを念頭に置き、飲酒を拒否しましょう。


  • 事前に庇ってくれる人を見つけておく

    飲み会前に落ち着いていて話しやすい先輩を何人か見つけ、飲み会の雰囲気や傾向、お酒好きの人orあまり飲まない人は誰なのかなどを聞いておきましょう。

    ここで聞いた情報をもとに、飲み会のときに座る席に目星をつけておくとよいです。

    このとき、「アルハラしそうな人は誰ですか」と聞くのではなく、「飲み会ってどんな感じですか」と聞くようにしてください。

    先輩たちにとって、新しく輪に入ってきた人よりも、もともといる仲間の方が親しい相手。「ハラスメントをする人がいるはず」と決めつけた状態で聞かれると、反感を覚えられてしまうかもしれません。

    良識的な先輩を敵にしないよう、うまく立ち回りましょう。

②飲み会中の行動

  • 先輩や上司にお酒を注ぐ

    性格的に向き不向きがある方法ですが、自分のグラスにお酒を注がれたときに、「先輩の雄姿が見たいです」などといって、相手のグラスに自分の量以上のお酒を注ぎましょう。

    強制的に飲ませるのではなく、あくまで相手を立てて、下の立場からお酒を注ぐことがポイント。

    そのうち、「こいつに絡むと飲まされる」と判断され、あまり構われなくなっていきます。


  • 店員さんに協力してもらう

    たいていの飲み屋は明かりを少なくしています。そうした環境であれば、ウイスキーと称してウーロン茶を飲んでいても、周囲の人にはわかりません。

    店員さんに「すいません、周りにバレないようにソフトドリンクを持ってきてくれませんか」などといって協力を仰ぎ、ウイスキーグラスにウーロン茶を入れてもらうなどして、ソフトドリンクを飲むようにしましょう。

    このとき大切なことは席順です。注文を取りに来る店員さんと話しやすい通路側などに座るようにしてください。

    ウーロン茶以外にも、チェイサーとして水を入れてもらう方法もあります。

    透明に近い色味のお酒、たとえばレモンサワーなどと言っておけば酔っ払っている人にはわかりません。そのまま水を飲んでもいいですし、飲まされたお酒を中に吐き出すことも可能です。


  • 介抱要員になる

    すでに酔っ払っている人の近くに陣取り、「大丈夫?」「トイレ行く?」などと声をかけていれば、「あいつは介抱してる」と思われ、あまりお酒は飲まされません。

    飲ませている先輩や上司からしても、自分が酔っ払った時に介抱してくれる人を酔いつぶしたくはないはずです。

    毎回介抱要員になっていれば、自然と「あいつには飲ませられない」という扱いになっていきます。

②飲み会後の行動

  • 体調不良を訴える

    嘘でも本当でも構わないので、周囲に体調不良を伝えましょう。

    気分悪そうにしていれば、だいたいの人は心配して話を聞いてくれます。

    「実は、あまりお酒に強くなくて」などと伝えれば、飲み会後なので納得してくれるはずです。

    次回の飲み会のときに、配慮してくれるでしょう。


  • 酔いつぶれた場合は翌日謝罪する

    「飲まされたのに……」と理不尽に思えるかもしれませんが、何かしら迷惑をかけた場合は謝罪しましょう。

    今後、人間関係を構築するうえで「迷惑をかけられたのに謝罪されなかった」という評価はマイナスに働いてしまいます。

    素直に謝罪する相手に対して、周囲の人もはそこまで冷たい対応はしないはずです。

    飲ませてきた相手には、謝罪するとともに「実は、何杯か飲むとその場で酔いつぶれることが多くて……。せっかくの飲み会なので、色々な方のお話を聞けるよう今後はセーブします」などと言ってみましょう。

    「飲みすぎた自分の責任である」というニュアンスで相手を責めず、次回の飲み会に向けた布石を打っておくとよいです。

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3.アルハラ目撃…次の被害者を作らないための相談先



自分は直接被害を受けていなくても、ほかの人のアルハラ被害を目撃したり、被害者の話を聞いたりした場合、新たな被害者を生み出さないために、まずは行動を起こすことが大切です。

とはいっても、いきなりアルハラ加害者に注意するようなことはなかなかできません。

そのようなときは、大学や会社で設けている相談窓口などを利用してみましょう。ただし、相談前にアルハラ現場の写真を撮影したり音声を録音したりして、第三者が「これはアルハラだ」と判断できるような証拠を集めておくようにしてください。

以下、相談先をご紹介していきます。

①大学の学生課

入部した大学や部活、ゼミなどでのトラブルの場合は大学の学生課に相談しましょう。

学生課以外に専門的にトラブルを扱っている窓口があるかもしれないので、まずは大学の組織体制を確認してください。

大学側に相談すれば、対象の部活などを調査し、問題解決に向けて指導してくれる可能性があります。

②会社内の相談窓口

アルハラは「アルコールハラスメント」、つまりパワハラやセクハラと同じく上司や先輩、同僚からうける嫌がらせです。

パワハラなどを担当する社内のコンプライアンス窓口に相談すれば、該当者へ指導してくれる可能性があります。

③問題の上司よりもうえの役職の上司

アルハラを行う上司よりもうえの立場の上司に相談してみましょう。

アルハラは自分よりも下の立場の相手に行われるため、もしかしたら上の役職者は気づいていないかもしれません。

相談すれば、問題の上司への注意が期待できます。

4.まとめ

  • アルハラは物理的な強要でなくとも心理的プレッシャーによるものも認定される。もしもアルハラが原因で休学・休職する場合、大学・会社との連絡は密にとっておく。

  • アルハラ被害にあわないためには、そもそも飲み会に参加しない、お酒が飲めない体質だと伝えるなど、お酒を飲まない状況にすることが大切。

  • アルハラを目撃したり自身が被害にあったりした場合、窓口や別の先輩・上司に相談する

おわりに

何かしらの機会で必ず参加する飲み会。

アルハラ対策を万全に行っておけば、後から「取り越し苦労だった」と笑い話にすることもできますが、何もしなければ後悔する日々を過ごすことになるかもしれません。

アルハラ被害にあわないためには、自ら対策しておきましょう。


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